第22話、レイという少年

「試練の内容は単純たんじゅんなもの、目の前にある山の頂上にある祭壇さいだんを目指せ」

「えっと、それだけで良いの?」

 死の危険が高いというからけっこう身構みがまえていたんだけど。それとも僕が子供だから山をのぼるのもきついと思われているのかな?

 けど、もちろんそんな事はないらしい。長老は首を横に振った。

「むろん、そんな筈はない。山に登る途中、我らによる妨害ぼうがいが幾度もある。故にそう容易く頂上に着けると思わない事だな」

禁止事項きんしじこうってある?」

「うむ、もちろんだ。頂上に上るのに仲間なかまの助けを借りる事は許さん。他はどんな手を使っても構わんが、仲間の手を借りたと判断すれば即座に失格しっかくと見做す」

「はい、理解しました」

「うむ、では早速行くがよい」

 長老が試練の開始を宣言せんげんした。その瞬間、僕は山に登らずそばに居たドラゴンに声を掛ける。えっと?

 ともかく、最初が肝心かんじんだからね。目の前のドラゴンに真っ直ぐ笑みを向けた。

「えっと、名前なまえはなんですか?」

「いきなりどうした?試練はいのか?」

「うん、これも試練を合格する為に必要ひつようだからね」

「……?私の名はドロシーだ。それで、貴様は私に話し掛けてどうやって試練を合格するつもりだ?」

 試練を合格する方法、それは至って簡単だ。

 つまり……

「つまり、仲間の手を借りたら失格なら手を借りれば良いんだよ」

「……何だと?」

「ほう?」

 僕の言葉にドロシーさんは怪訝けげんそうな声を、長老は興味深そうな声を上げた。

 そう、僕の理屈りくつとしてはとても簡単。仲間以外の力をりて合格しようという事。

 もちろん、ドロシーさんは仲間ではないから途中で僕を妨害ぼうがいする側に回るかもしれないけど。それでも僕が合格するにはドロシーさんの手を借りる必要がある。

 けど、どうもそれはルールの内容ないようとしてギリギリのラインらしい。長老とドロシーさんは共に話し合っている。まあ、それもそうだと思う。僕自身、それは流石さすがにどうかと思っているから。

 けど、僕はそれでもこの試練を合格したい。だから、使える手段しゅだんは使おうと思っているから。

「……まあ良い、ドロシーはこの小僧こぞうに手をしてやれ」

「…………はい、分かりました」

「代わりに、貴様の判断はんだんで途中で小僧を振り落としてかまわん」

「はい」

 そして、ドロシーさんの背中に僕はのぼってゆく。ドロシーさんの背中に乗って、準備が完了かんりょうした。

「準備は良いな?では、行くぞ?」

「うん、けどその前に良いかな?」

「何だ、早く言わんとり落とすぞ?」

「うん、僕はドラゴンの背中に乗るのが前々からのゆめだったんだ」

 それは決してうそではない。僕は、前世ぜんせからドラゴンの背に乗るのが夢だった。

「……………………行くぞ!」

 ドロシーさんは僕の言葉にむずがゆそうな表情ひょうじょうをした後、そのまま山の頂上へ向けて飛び立った。急加速により、僕の身体に一気に掛かる重圧じゅうあつ。振り落とされそうになるのを、僕は必死ひっしにこらえる。

 途中、数匹のドラゴンが僕達の前に立ちはだかる。火のブレスを放つドラゴン達。

 そのブレスはどれも僕を直接狙ったもの。けど、それでも僕はドロシーさんの身体から離れない。くら手綱たづなもない状態で必死にしがみ付く。

「……………………」

 そんな僕をどう思ったのか?ドロシーさんは少しだけ速度をゆるめ、僕に掛かる負担が少なくなるよう配慮はいりょしだした。

 一体どんな心境の変化があったのだろう?けど、少なくとも僕に掛かる負担はかなり楽になった。

 けど、そろそろ腕が限界げんかいに近くなってきた。僕の手が、ドロシーさんから離れて、

「何だ、もう限界か?その程度で我らの血筋まつえいとの結婚をみとめても貰おうとでも?」

「それ、は……」

『れー、けないで‼』

「っ⁉」

 突然、頭の中に直接響いてきたレインの声。それは果たして何処どこから聞こえたのか分からない。けど、何処かでレインが見ているのは理解したから。

 僕は、レインの見ている前でなさけない姿は見せたくない。

 しがみ付く腕に、僕は改めて力を籠め直す。気をしっかり持つ。

「大丈夫、そのまま真っ直ぐ……」

「うむ、では覚悟かくごしろよ‼」

 そう言って、ドロシーさんは再び急加速きゅうかそく。僕の身体にかなりの重圧が掛かる。けど僕はそれでも必死にしがみ付き、決してはなさない。

 やがて、頂上までラストスパート。ドラゴン達のブレスは更に激しさをす。

 けど、それでも僕は決して手を放さない。意識が薄れてきた。けど、それでも僕は手を放さない。

「……………………」

 そのまま、僕を乗せたドロシーさんは山の頂上の祭壇へとけ抜けた。僕の合格がその瞬間に決定けっていする。

 瞬間、僕の手がドロシーさんから離れた。

 そのまま放り出される僕の身体。山はほぼ垂直すいちょくに切り立った険しい形をしている。

 そのまま、僕は山の頂上から一気に落下。直後、僕に向かって急降下してんでくる誰かの姿が。その姿を見て、僕は安堵あんどの笑みを浮かべ。

 そのまま、僕は意識を手放てばなした。

 ・・・ ・・・ ・・・

 山の頂上から落下していくれーに追い付き、私は何とか抱きめる。その姿に、ドラゴン達は黙って見ている。

 そんなドラゴン達に、私は一言。

「れーは試練に合格ごうかくしたよ?これで、私達の事をみとめてくれるよね?」

「……ぐぬぅっ」

「い、いやしかし……」

 それでも納得出来ないのか、返事へんじをしぶるドラゴン達。本当に、こいつ等殺してやろうかと私が思い始める。しかし、それは長老の一言でまった。

小僧こぞうは確かに試練に合格した!これ以上、みとめないと言うならば我ら竜種の沽券こけんに関わるだろう‼」

「長老……」

「これ以上、小僧を認めないというような事を抜かせば我らは未来永劫恥さらしと笑われる事になるだろう!ちがうかっ‼」

「「「っ⁉」」」

 その言葉に、どうやら全員の意思いしは決まったらしい。どうやら私達を認めてくれるようだ。なら、私は安心して良いだろう。

 私はれーをそっと抱き締め直し、そっとほおにキスをする。

 そのまま、私は山の頂上にある祭壇さいだんへと向かった。

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