第16話、勇者(鎧馬鹿)が現れた!

 城の中を案内され、僕達は謁見えっけんの間へと来ていた。室内の中央に巨大な円卓えんたくが置かれており、その奥に魔王様がすわる。そして、僕達が何もしていないのに自動的に魔王様の対面にある三つの椅子が後ろへ退いた。座れと、そういう事かな?

 ともかく、僕達はそのまま椅子に座る。

「まあ、俺自身堅苦しいのは苦手にがてなのだ。故に気楽きらくに話そうでは―――」

 言った瞬間、城の全域に警報けいほうが鳴り響いた。甲高い音が鳴り響き、僕達はびくっと思わず肩をふるわせる。

 その警報に、魔王様はまたかとでも言わんばかりに頭をかかえていた。

 えっと?そんなによくある事ですか?今の……

「えっと、魔王様?」

「……気にするな。鎧甲冑の事しか頭にない馬鹿ばかが襲撃をかけてきただけだ」

「はぁ……え⁉」

 襲撃しゅうげき?え、襲撃‼

 僕達が呆然ぼうぜんとしていると、扉がり破られて三人組の男女が入ってきた。男性二人に女性一人の三人組だ。中央に居る男は鎧甲冑を身にまとった男、右隣にはやたら筋肉を誇張した衣服を身に纏った武闘家のような男、そして左隣には聖職者のような女性が控えていた。

 ……なんでだろう?女性の方は頭をいたそうに抱えて溜息を吐いている?

「……またか、今は大切な話の最中さいちゅうなのだがな」

「魔王デモン、今度こそ我が勇者のつるぎで成敗してくれる‼覚悟かくごっ‼」

「待て待て、魔王を倒すのは俺のたくましい筋肉きんにくだ!でりゃあっ‼」

「……はぁ、本当ほんとうに申し訳ありません」

 そうして、三人揃って……いや、三人のうち二人がノリノリで襲撃してきた。

 ・・・ ・・・ ・・・

 そして、勝負は一瞬で決着けっちゃくが着いた。勇者の持つ剣がうっかり僕に当たりそうになったのを目ざとく見たレインが、本気ガチでキレて勇者と武闘家をボコボコにしたのだ。

「……ば、馬鹿ばかな。何て強い配下はいかだ」

「む、無念むねん…………っ」

「誰が配下よ、私は魔王の配下じゃない!」

 無念そうに倒れる勇者と武闘家。そんな二人に、レインがキレながらツッコミを入れる。そんな中、聖職者の女性が僕とミィにあやまっていた。

「本当にごめんなさい。馬鹿二人が迷惑めいわくをかけて」

「いや、良いですよ。別に怪我けがをしたわけじゃないんで」

「私も、レイが怪我をしたわけじゃないから良い」

 そんな僕達の言葉に、聖職者の女性はみを浮かべる。

「改めて挨拶あいさつを。私の名前はミーシャ、聖女をやってます。其処の鎧馬鹿が勇者のキリで筋肉馬鹿が武闘家のカルロ。よろしくおねがいします」

「よろしくお願いします。僕の名前はレイ」

「私の名前、ミィ。レイの友達ともだち

「そして、其処で勇者さんと武闘家さんに説教せっきょうをしている子がレイン。僕達はこの三人で王都からたびをしていたんだ」

 僕達の挨拶に、聖女のミーシャさんはにっこりと笑みを浮かべる。そして、続いてミィの言った言葉に聖女はこおり付いた。

「ちなみに、レイは至高神の恩恵おんけいを受けてこの世界にまれた神の子」

「…………へ?」

 その言葉には、キリさんとカルロさんもおどろいたのか僕をじっと見てくる。

 僕は少しれながら頭をく。

「うん、まあ確かに神様の恩恵でこの世界にまれたけど……」

「……えっと、本当にですか?」

「うん、本当だよ?」

 瞬間、三人揃って頭を床にたたき付ける勢いで土下座どげざした。

 え、えぇ~?

 レインは、そんな三人のうち勇者さんを木のえだでつんつんとつついている。

 魔王様は、そっと溜息を吐いてはなし始めた。

「はぁ、だから言ったであろう?今は大切たいせつな話の最中だと」

「い、いやだからって神の子との話の最中とは」

「やかましい、いきなり宣戦布告せんせんふこくも無しに襲撃を仕掛けてきたのは誰だ」

「うぐっ」

 ぐうの音も出ないとはこの事か?何一つ言い返せずに論破ろんぱされる勇者さん。まあ確かに、いきなり襲撃される魔王様もたまった物ではないかな?

 まあ、それよりも。僕はそっと勇者さん達に近寄ちかよる。

「えっと、勇者さんに聖女さんに武闘家さん?三人にも三人の言い分があるとは思いますが、今日は取り合えず剣をおさめて一緒に話し合いをしませんか?」

 僕の言葉に、ミーシャさんが困惑こんわくした顔で聞いてくる。

「良いのですか?全くの偶然ぐうぜんとはいえ、馬鹿勇者は剣を貴方あなたに向けたのですよ?」

「ぐぬっ!」

「それこそ、問答無用で首をとされても文句もんくは言えないと思うのですが」

「うぐぅっ……その通りだから文句が言えない」

「いえ、別に僕は謝罪しゃざいを求めている訳でもばつを与えたい訳でもないですから」

「れー、本当に良いの?今ならこの人達にきなだけ文句が言えるよ?」

「……君、意外と容赦ようしゃないね?」

 レインの言葉に、完全に心がれたのかキリさんが本気でいじけながら言った。まあ僕自身、別にそれをしたい訳じゃないからね。別に気にしてないし。

 なので、レインの頭をそっとでながら視線を合わせてなだめる。

「さっきも言った通りだよ。僕は別に謝罪を求めている訳でも罰を与えたい訳でもないから。僕は気にしてないよ?」

「…………れーがそう言うなら。まあいよ」

「ごめんね?レインは納得出来ないかもしれないけど。後で一つ、出来る範囲はんいで言う事を聞くからゆるして」

「っ、れーが私の言う事をいて?」

「……うん、僕にできる範囲でね?」

 苦笑しながら言う僕に、レインは大喜びしてい上がった。うん、失言しつげんしたかも?

 そんな僕達を見て、周囲はほんわかした空気くうきになっている。まあ、良いか。

 そう思い、僕はあきらめがちに溜息を吐いた。

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