第15話、魔王が現れた

「ど、どうして?なんでわれがこうも良いようにボコボコにされているのだ?我はかみなのに、これでも神の筈なのに……」

「知らないよ、そんなこと。私の大切たいせつなヒトに手を出して、ただで済むと?」

「な、なぜええええええええええええええっっ‼‼‼」

 邪神の威厳いげんがレイン達によってすっかりなくなった頃、日がすっかり落ちて暗くなり始めた。レインとミィ、クロとハクによってすっかりボロボロになった邪神を他所に僕の隣に急に一人のおとこが現れた。

 浅黒い肌に、白髪はくはつ。筋の通った目鼻立ちの端正たんせいな顔。頭部にはねじれた二本の角。

 適度に筋肉の付いた大柄な身体からだに黒い豪華な衣服をまとっている。一目で上級貴族かそれ以上の存在そんざいだと理解出来る。

 唐突な男の出現、それにいち早く反応はんのうしたのはレインだった。しかし、レインが行動を起こす前に、男は片手かたてでそれを止める。

「おっと、俺は別にお前達と喧嘩けんかをしにきた訳ではない。その物騒な剣を仕舞えよ」

「……貴方、誰?」

 警戒をかないレインのきぼうわりに、ミィが聞く。男は希望を得たような表情をする邪神に冷たい視線しせんを送ってから言った。

「まあ、其処の馬鹿ばかは放っておいてまずは話をしようではないか。とにもかくにも俺は客人として来たのだ。それとも、客を無下にあつかうのがお前達の流儀かな?」

「それもそうだね。レイン、ミィ、この人はきっと悪いヒトじゃないだろうしそろそろ警戒をこうよ?」

「レイが言うなら、分かった」

「……………………」

 ミィが早急に警戒を解いたのに対し、レインはそれでも不服そうに男をにらむ。どうやらまだ納得なっとくできないらしい。

 うん、まあ気持きもちは理解出来るけどね?さっきの邪神の件もあるし、それにこの男は邪神と知り合いみたいだし?

 けど、それでも僕はこの男のヒトは悪いヒトには見えなかった。

「レイン、僕は大丈夫だいじょうぶだから。そんな怖い顔をしたらいやだよ」

「……分かった、れーに嫌われるのは私だって嫌だしね」

 そう言って、レインは剣を下ろした。レインの持っていた剣が、魔力の粒子りゅうしへと再変換されてほどける。どうやら、魔力で構成こうせいされた剣だったらしい。

 そのまま、僕は部屋の中央にあるテーブルに備えてある椅子いすに座った。その対面にある椅子を、男に進める。

「えっと、そちらの椅子にどうぞ。まだ完成かんせいしたばかりの家なのでほとんど何も無いですけど」

「うむ、では遠慮えんりょなく」

 椅子に座って、男は僕にき合った。僕の左右の椅子に、レインとミィがそれぞれ座る。僕とレイン、ミィが三人でならんで座り、その対面に男が座っている感じ。

「さて、ではまず自己紹介じこしょうかいといこう。俺のはデモン=ザ=バハムート。魔王デモンとばれているよ」

 魔王まおう———その言葉にレインとミィは驚いた。魔族をたばねる魔国の王。

 なるほど、そもそも純粋な人間ヒトでは無かったのか。

 ちなみに、この世界における魔族とは亜人種あじんしゅの一角で人間が濃度の高い魔力地帯に適応した結果、派生進化はせいしんかした種族だったりする。血の純性を重んじる竜種とは違い、進化の為に混血すらいとわない種族だって院長から聞いた気がする。

 そんな魔族の王、つまり魔王が今目の前に居る。中々感慨深いかな?

「えっと、その魔王様が僕達になんのようですか?」

「うむ、用があるのはお前と其処のむすめの二人だ。確か、レイとレインだったか?」

「……はい、えっと?僕とレインに一体どんな用です?」

 思わず首をかしげる僕と、警戒するレイン。そんな僕達の様子に、魔王デモンは僅かに苦笑を浮かべた。今思ったけど、魔王様ってけっこう端正たんせいな顔をしてるよね?そんな魔王様が苦笑を浮かべると、中々様になってて恰好かっこうが付くと思う。

「別に、大した要件ようけんではないのだがな?ただ、竜種のハイブリッドであるそこの娘と神の子であるお前に興味をいだいた。其処で私の城へお前達を招こうと思ったのだ」

「……魔王様の城に、ですか?いえ、それよりもハイブリッド?ハーフではなく?」

 思わず、僕は聞き返す。レインやミィも気になったらしく、だまって聞いている。

 そんな僕達に、魔王様は静かにうなずいて話し始めた。

「うむ、其処の娘は単純な竜種と人間のハーフではない。高位のが上手く溶け合った結果、より高次元の生命いのちとして誕生したのがレインという少女の正体だ」

「う、う~ん?えっと、つまりどういう事?」

「……つまり、だ。細かくくだいて説明すれば単純なハーフではないという事だ。もっと生命として進化しんかしたといえば分かるか?」

「えっと、つまりレインはただのハーフではなくドラゴンより進化した存在っていう事かな?」

「うむ、その認識で問題もんだいない……で、だ。我がしろに来てはもらえまいか?」

 なるほど?よく理解りかいできないけど、進化と言われたらまあ何とか理解は出来る。

 それに、魔王様の城ね?それはつまり、魔国まこくに来いって事だよね?

「えっと、此処みつりんから魔王様の城までどれくらいかかりますか?」

「うむ、単純たんじゅんに歩けば半年以上はかかるか。だが、其処は心配しなくて良い。俺が転移の魔法で城までおくろう」

「転移の魔法、わなとか無い?」

 ミィが不安ふあんそうに聞いた。ミィの場合、自分の心配しんぱいというより僕とレインの心配をしているのかな?もし、罠にかかって命をとすならと考えているのかも。

 もし、そうなら心配してくれている事を少しうれしく思うけど。まあ、それはきっと大丈夫だと思う。

「その心配は不要ふようだ。しかし、そうだな?そこまで心配ならお前も付いてゆくか?」

「…………分かった、私も付いていく」

「大丈夫だよ、ミィ。もし何かあったら、レインやミィが何とかするんでしょ?」

 僕の言葉に、レインとミィは苦笑をらした。

「うん、そうだね。もしれーに何かあったら、私が何とかする」

「うん、それにレイは私達に何かあったら自分がかばうつもり。それはさせない」

 やっぱり、ミィにはバレていたか。けど、其処そこは僕だって格好付けたい。僕も男なんだし大切な女の子くらい、まもれる男になりたいし?

 そんな僕達に、何を思ったのか魔王様はき出し笑った。

「はははははっ!なるほど、ずいぶんと互いにき合っているようだ。面白い」

 では、と魔王様は其処でぱちんと指をらした。気付けば、目前もくぜんに城があった。

 此処が、魔王の城なんだろう。そう、僕は直感ちょっかんした。

 ・・・ ・・・ ・・・

 そして、密林のいえにただ一人。邪神ムーだけがのこされた。

「……えっと、われは?」

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