二章

第11話、それぞれの思惑的な?

「ならん、貴様が人間にんげんの女と結婚した事こそ特例でみとめてやったものを。これ以上我らが竜種の血をうすれさせることなど認められん」

 祭壇の上で、いたドラゴンがしわがれた声で言った。相対あいたいしているのは、レインの父親であるドラコだ。そのとなりには、クインも居る。

 その周囲を、複数体のドラゴンがかこっている。上位の竜種、つまり竜王たる老いたドラゴンの側近衆そっきんしゅうである。

 側近達は、皆竜種の裏切り者であるドラコをにらんでいる。しかし、そんな中でもドラコとクインは涼し気な顔だった。

其処そこをどうにかなりませんかね?彼は人間でこそあれ、至高神から認められる程の子ですよ?無下むげにも出来ないと思いますが……」

「返答は変わらん、ならんものは断じてならん。我ら、竜種は己が純血じゅんけつを守る事こそを是としてきた。にもかかわらず、貴様はそれをやぶった。わしはそれを未だ認めておらんのだぞ?」

 その頑なな言葉に、ドラコも深く溜息ためいきを吐いた。さて、この頑固な老竜をどう説得するのか?いくらドラコが上位竜種の筆頭ひっとうと呼ばれるだけの実力者だったとはいえ、この老竜はそれ以上の実力を誇る。

 例え、強引に戦闘へと持ち込んだとしても勝てる見込みはぜろだった。

 だが、それでもあきらめる事は最初から念頭ねんとうに置いていない。最初、レインとレイには一年の時間をあたえた。しかし、それに反してこの短い時間に老竜への説得へ持ち込んだのは単純にレイを認めたからだ。

 このひと月と少し。レイという少年は、決してレインを裏切る真似まねをしなかった。

 どころか、もしもの際は自分が前に出てレインや他の皆をまもろうとした程だ。そんな彼だったからこそ、ドラコもクインも認めたのだ。

 この少年ならば、きっと竜種の凝り固まった思想しそうすら何とかし。最終的には娘と幸せな家庭を築いてくれるのではないかと。期待きたいしているのだ。

 だからこそ、ドラコはまず老竜ろうりゅうを説得する事を優先ゆうせんしようと決めたのだから。

 ・・・ ・・・ ・・・

 所変わって、魔王まおうの住まう城。其処に、一人の黒いフード付きローブを着こんだ黒い仮面の人物が現れた。その人物を、面倒めんどうそうな顔をしながらも玉座に座る魔王は迎え入れる。

「神の国を追放された邪神じゃしんが、この城に何のようだ?ムー」

「そういやな顔をするな、貴様もすでに分かっているだろう?魔王よ」

 くっくっと陰鬱いんうつに笑いながら、邪神ムー=マイム=ムーは告げる。

 そっと溜息を吐きながら、魔王はムーを睨む。

「至高神の加護かごを受けた転生者。それが中立地帯である無銘むめいの森へ着いた事か?」

「そうだ、故に魔王にめいじる。神の子レイを討ち倒し我が眼前がんぜんに捧げよ」

「断る」

 邪神ムーの言霊。それは並大抵の存在では自我じがを喪失し、たちまち操り人形になってしまう魔力が籠もっている。それを、魔王は即座に却下きゃっかしたのみならず魔力の籠もった眼力により反撃した。

 その結果、ムーの仮面に一筋の亀裂ヒビが入った。

「……まあ良い。これ自体は予想していた。仕方がない、なら私自ら出向でむこう」

「神々の中でも屈指の出不精でぶしょうである貴様が、自らると?」

「それも仕方しかたがあるまい?それほどまでに、神の子には価値かちがあるのだから」

 瞬間、黒いローブを纏い黒い仮面を被った何かがその場でくずれ去った。それは、出来の悪い木製の人形にんぎょうだった。先程まで魔王が話していたのは、人形に疑似的な魂を入れただけのマリオネットだったのである。

 それを見た魔王は、憂鬱ゆううつそうに溜息を一つ。

「せめて、その出来できの悪いゴミくらい片付けてからかえれよ」

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