第9話、レインとミィと

 次の日、僕達は火の処理しょりをした後再び歩き始めた。当面の目的は、三国の境となっている無銘むめいの密林。其処で安住あんじゅうの地を探す事から始めようと思う。結構無茶な事だとは僕自身分かっているけど。

 けど、何故だろう?さっきからレインが不機嫌ふきげんそうだけど。というより、ミィを睨んでいる?その怒気に気圧されたのか、クロとハクが少しおびえている。

「う~……」

「……えっと、レイン?」

「……………………」

 そんな僕とレインの様子を、どう思ったのか?ミィが小首をかしげながら見ている。

 そして、やがて何かを思いついたのかミィはレインに何事か話し掛けている。それを聞いたレインは、驚いた様子ながらも首をたてに振った。

「れー、すこしこの子と話しをしてくるから。少しの間だけっててくれない?」

「え?えっと、大丈夫だいじょうぶ?」

「うん、大丈夫だから。少しだけ待ってて欲しいの」

「……うん、分かったよ」

 そう言って、レインとミィははなれていった。気になるけど、待ってろって言われたしやっぱり待つしかないかな?だまって、クロやハクと一緒に待つ。

 気になる。

 ・・・ ・・・ ・・・

 そして、私はれーから離れた場所まで来た。此処ここまで離れれば、れーに聞かれる事も無い筈。狐耳きつねの女の子が、私と二人きりで話したいと言っていたけど一体どんな話があると言うのか?

 分からない。けど、私は気付きづいている。この女の子が、れーに対してとても心を開いている事を。そして、どういう訳かれーがこの女の子を今朝けさからとても信頼している事を。私は気付いてしまった。

「話って、何?」

「……貴女、私に嫉妬しっとしてる?少なくとも、私の事がに入らない様子」

「っ‼」

 思わず激怒げきどしそうになった私を、女の子は片手でめる。

 どうやら、まだ話はあるらしい。真剣しんけんなのか、ただ無表情なだけか。無機質な目で私を見ながら、女の子は言った。

勘違かんちがいしないで欲しい。私は、レイのそばに居たいと思ったけど貴女との関係を壊したい訳じゃない。もっと、レイとも貴女とも仲良なかよくしたい」

「……どうして」

「私は、前世でレイと親友しんゆうだったから」

「⁉」

 愕然。れーの前世は既にいている。れーが、前世で親友をかばって事故で命を落とした事も。きっと、この女の子はその時れーが庇ったという親友だったのだろう。

 だとすれば、この女の子はその親友が後をった結果?

 私の驚いた様子をさっしたのか、女の子はこくりと頷いた。

「私は、レイが事故で亡くなったのを自分のせいだとめた。けど、神様の言葉でレイの真意おもいを知った。だから、せめてレイにあやまる為に神様に頼んでこの世界に来た」

「…………それほどれーをおもっているなら、貴女自身はれーの傍に居る私をどう思っているの?」

 聞くのがこわかった。けど、私は勇気ゆうきを振り絞って聞いた。

 私のその言葉に、女の子は淡々と無機質むきしつな目で言った。

 まるで、事実じじつだけをありのままに話すように。

「さっき言った通り。レイと貴女の関係をこわすつもりはない。それに、レイとも貴女とも仲良くしたいと思っている。親友ともだちとして」

「……………………」

「私はただ、レイの傍に居られればそれで満足まんぞく。それに、レイはきっと貴女を悲しませるような真似まねは絶対にしない。それだけは理解出来る」

 女の子の言葉に、私はやはり黙り込む。れーをうたがう訳ではない。けど、やはり心の何処かで信じる事が出来ないのだろう。不安がぬぐえずに、つい俯いてしまう。

 そんな私に、女の子は言った。

「そんなに信じられないなら、本人ほんにんに聞いてみれば良い。レイ自身から、レイの本音を聞けば良い」

 そのまま、女の子は私のうでを引っ張って連れていく。まるで、その姿は妹を引っ張る姉のようだ。恐らく、私やれーとそうとしは離れていないだろうけど。

 ・・・ ・・・ ・・・

 二人を待っていると、ミィにれられてレインが戻ってきた。何やら、おかしな状況になっている?これは一体どういう状況?どうして、ミィがレインの腕を引っ張ってこっちに戻ってきてるの?

 そんな事を思っていると、レインが僕に何かを言おうとしてだまり込む。そんなレインを、ミィがそっと背中せなかを押す。

「れーは、私の事をどうおもっているの?」

「ん~?どうって何を?」

「……………………」

 レインは黙り込む。そんなレインを見かねたのか、ミィがわりに話し始めた。

「彼女は、レイと私が仲良くしているのを見て不安ふあんに思っている。それで、レイの素直な気持きもちを聞きたいって」

 ミィの言葉に、レインは俯いてしまった。若干、きそうになっている。

 僕は其処で、ようやく察した。レインは、僕とミィが仲良くなって不安だったのだろう。だから、ミィに敵意てきいを向けていたのか。

 僕は、レインにそっと近付いた。レインがびくっとふるえる。そんな彼女を、僕は黙って抱きしめる。抱き締めて、頭をでる。

 驚いた表情でレインが僕を見上げた。そんな彼女に、僕は笑みを向けながら言う。

「僕は、レインの事が大好だいすきだよ?それはずっとわってない」

「れー、けど……」

「レインが昔、孤児院こじいんを一人抜け出した事があったよね?」

「……うん」

「その時に、僕はレインをさがし出して言ったよね?あの時の言葉はずっと変わっていない。僕は、ずっとレインと一緒いっしょだから」

「っ、うん……ぅん…………」

 レインは、一気に感情が爆発ばくはつしたのか僕のむねに頭を押し付けて泣いていた。止め処なく涙をながしながら、泣きじゃくる。

 そんなレインを、僕はそっと撫でた。そして、ミィは小さな笑みを浮かべてレインに言った。

あらためて、自己紹介。私の名前なまえはミィ、よろしく」

「私、の……ひっく。名前、はっ…………レイン。よろじ……く」

「うん、よろしく」

 そう言って、僕とレインとミィはたがいに笑い合った。その傍で、二匹の狼がとても居心地悪そうに耳をせていた。うん、ごめん。

 ・・・ ・・・ ・・・

 そんな三人と二匹を、遠く離れた場所ばしょから見ている二人。

「良かったわね、何とかなったようで」

「うむ、一時はどうしようか本気でなやんだぞ。あの少年が娘を裏切るような真似をしなくてまあ安心あんしんした」

「そう、けどドラコ。貴方はレイ君の事をしんじていたのでしょう?」

「……………………さあな」

 そう言って、再び二人は監視かんしを続行した。

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