第8話、特上イノシシ肉は美味しい

 僕とレインは草原そうげんを抜け、山のふもとへ来ていた。けど、其処には僕達より一回り大きなイノシシの魔物まものが立ちふさがっていた。

「ふすーっ!ふすーっ!ぶごおおおおおおおおおおおおおおおっ‼‼」

 どうやら戦意せんいはばっちりらしい。そして、そんなイノシシを見ながらレインは何か思案している。一体何を思案しているのだろう?そう思っていると、ぽつりと小さく言葉をらした。

 小さな独り言だったけど、僕には確かにこえた。

「……イノシシの肉っておいしいのかな?」

「……………………さあ?」

 僕には、それしか言えなかった。だけど、どうやらレインは本気ほんきらしい。その手に魔力の塊を出し、ふわふわと浮遊ふゆうさせている。魔力の塊は高密度に圧縮されて僕の目から見てもかなりの威力があるだろう。

 そして、それをレインは振りかぶり……全力で投げ飛ばした。

「いっけえっ‼」

 投げ飛ばした魔力玉はイノシシの傍をかすめて飛び、山の麓へと着弾。大爆発を起こした。その威力に、イノシシは一瞬だけ背後を振り返り。

「ぶ、ぶごおおおおおおおおおおおおおおおぅぅぅぅぅぅぅっっ‼‼‼」

 全力で撤退てったいしていった。だが、それをがすレインではなかったらしい。逃げるイノシシに向かい、魔力玉の全力投球を続ける。

 イノシシはそれを辛うじてけながら逃げていくが、一つの魔力玉が脇腹に直撃したのを皮切りに幾つか魔力玉が直撃。最終的に倒れてうごかなくなった。

 それを見て、僕は黙って手をわせる。

「……なむ~」

「なにそれ?」

「えっと、イノシシの冥福めいふくを祈っているんだよ?」

「そう、じゃあイノシシの肉をこうか」

「う~ん、まあ良いか」

 倒されたイノシシをかわいそうとは思うが、まあ丁度腹がっている事は否定できない。それに、僕だってそろそろにくが食べたくなってきた頃だ。

 僕もイノシシ肉を頂戴ちょうだいする事にした。

 ・・・ ・・・ ・・・

 山の麓だから、き火の為の枝は大量に集められた。もう、時間はそろそろ夜の7時くらいになるだろう。時計とけいが無いから分からないけど、大体そのくらいだと思う。

 空は既に暗く、星々ほしぼしが輝く時間帯だ。上空には、ほのかに赤みを帯びた月が浮かんでいる。この世界の月は、ほのかにあかみを帯びているのが特徴だった。この世界の神話では、月の神の趣味により月が赤みを差すようになったのだとか?

 ともかく、僕は黙ってイノシシの肉を切り分けて血抜ちぬき処理をしていく。昔、前世でサバイバル生活をしていた時期じきがあった。その頃の知識だ。

 なんだかんだ言って、皆でわいわいとサバイバル生活するのは楽しかった。血抜きが終わったイノシシ肉を、火であぶって焼いてゆく。レインが、何処から取り出したのか鉄製のくしを取り出した。

「えっと、レイン?その串は何処から取り出したの?」

「えっと、魔法まほう?」

「魔法?」

「うん、私達ドラゴンは何でもまれつき魔法が使える特殊体質なんだよ。ほら、伝説の中でドラゴンが火をくのは知ってるでしょ?」

「うん、赤いドラゴンが火を吹いたり、青いドラゴンが氷雪こおりのブレスを吐いたり?」

「そう、それは全部ドラゴンが魔法をあつかうのに適した身体構造をしているからだって昔院長先生からいたよ」

 院長、そんな事までレインにおしえていたのか?僕はそんな事を、心の片隅で考えていた。

 まあ、ともかく今はレインが出した串に刺したイノシシ肉を丁寧ていねいに焼いていく。肉の焼ける良いにおいが周囲に漂ってくる。二匹の狼、名前はそれぞれクロとハクと言うらしい。中々安直なネーミングだった。

 ともかく、クロとハクの腹が盛大にり響く。そして……

 ぐぎゅうううううううううっっ‼

 僕達の背後、離れた場所からせつなそうな腹の音が鳴り響いた。背後を振り返る、其処にはとても切なそうな。或いは物欲ものほしそうな顔でこちらを見る狐耳きつねみみの少女が。

 ……えっと?

「えっと、付いて来てたの?」

「……うん、ごめんなさい。それとその肉、一緒にべても良い?」

「……あ、えっと。どうぞ?」

 てとてととこちらに走りる狐耳少女。そして、早速イノシシ肉を串に刺して焼いてゆく。けっこう手慣てなれているね?

 そう思ったが、黙って僕も肉をいてゆく。そして、その日の夜は皆で揃ってイノシシ肉を食べた。うん、これは特上とくじょうかな?適度にあぶらがのって美味しかった。

 少し、レインの機嫌がわるかったけど。最終的には皆仲良くイノシシ肉を食べた。

 ・・・ ・・・ ・・・

 そして、時間は過ぎよるも深くなった頃。起きていたのは僕と狐耳少女だけとなる。

 レインは、僕の膝に頭を乗せてぐっすりねむっている。

 そんな時の事だった。ふと狐耳少女が僕に頭を下げてきた。

「……ごめんなさい」

「えっと、何を?」

 首をかしげる僕に、狐耳少女はった。

「私、貴方にあやまらないといけない事がある」

「ん~、何かしたっけ?ああ、手持ちの果実かじつを三つとも食べたから?」

「違う、貴方の前世で私が線路せんろに落ちかけたのをたすけたばかりに死なせてしまった」

「…………え?」

 …………えっと、え?

 一瞬、意味が理解出来ずに僕は硬直こうちょくしてしまう。そんな僕に、再び狐耳少女は謝罪する。頭を下げ、深々ふかぶかと謝る。

「本当にごめんなさい。私があの時線路に落ちなければ、貴方が死ぬ事は無かった筈なのに。なのに……」

「ああ、そのことは別に良いけど。えっと、もしかして?」

「うん、私は貴方の親友しんゆうだった男の転生者てんせいしゃ

「えっと、前世は男だったよね?でも、今は女の子?」

「……うん、けどまあ生まれ変わりだから?」

「ああ、うん。まあ良いや」

 ともかく、僕は無理矢理納得する事にした。うん、世の中ってとても不思議ふしぎだね?

 そう思い、僕は焚き火に木の枝をげ入れた。

「まあ、ともかく。別に僕は君の事をうらんでいないから。其処そこは謝らなくていいよ」

「……本当に?でも、」

「それに、この世界に生まれ変わったからこそ出会であえた人も居るからね」

 そう言って、僕はレインを見て笑う。狐耳少女も、レインを見た。

 どうやら、ようやく納得なっとくしてくれたらしい。き物が落ちたように笑う。

 良かった、と。そう言って。

「……そういえば、この世界せかいでの貴方の名前なまえは?私、聞いてない」

「うん、そういえば。僕の名前はレイだよ。彼女の名前がレイン。其処でている二匹の名前がそれぞれクロとハクだよ」

「……おぼえた。じゃあ、私の名前はミィ。これからよろしく」

「うん、よろしくね」

 そう言って、僕とミィは互いにわらい合った。

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