第6話、もう一つの転生

 其処は現代の地球ちきゅう。日本の東京都内にあるとあるアパートの一室。其処に一人の高校生男子が居た。とはいえ、もう彼は高校にかよっていない。

 親友が自分の代わりに線路に転落てんらくして死亡してから無気力に過ごしていた。教師や親からは心配しんぱいされているが、それでも親友の死を受け入れられず何に対しても無気力になる日々。

 そんなある日の事。

「少し、邪魔じゃまするよ?」

 何時いつの間に入ってきたのだろうか?気付けば、見知みしらぬ男性が部屋の中に居た。親が騒ぐ様子もなく、しかも何故か周囲が空間的に隔離かくりされたかのように静かだ。

 異様いようなほど静かな部屋の中、その男性は少年を見下みおろし言う。

「ずいぶんと酷い姿すがただな?アイツが見たら、きっと心配しんぱいすると思うぞ?」

「……ほっといてくれ、お前はアイツの何なんだよ?俺の何が理解出来る?」

「出来るさ、これでも俺はかみだからな」

 神、その言葉に少年は卑屈ひくつな笑みを浮かべる。

「……はっ、今度こそ俺はあたまがおかしくなったのか?神様を名乗なのる変な奴が見えるようになりやがった」

「そう思うのも勝手かってだがな。俺はこれでもお前の親友から伝言でんごんを預かってきたんだ。もう少し、話を聞いてくれたらいんだがな?」

「……伝言、だって?」

 親友からの伝言、その言葉に一瞬だが少年は反応はんのうした。少年にとって、親友の事は今となっては何よりも優先ゆうせんする事なのだから。

 そんな少年に、神を名乗る男はげた。親友かれからの伝言を。

「どうかかないで欲しい、お前と過ごした日々まいにちはとても楽しかった。との事だ」

「…………っ」

 その言葉に、少年はさとる。その言葉は、まさしく親友しんゆうからの伝言で間違いないだろうと。そして、親友は死んでまで自分の事を心配しんぱいしてくれていたのだと。

 そう、思い知った。思い知り、流れ落ちる涙をぬぐった。

「神様、一つだけいですか?」

「ああ、何だ?」

「俺を、あいつのもとへ送ってくれませんか?俺はあいつと同じ所に行きたい」

「……そうか。だが、おやが心配するだろう?良いのか?」

「確かに、親には散々心配掛けた。けど、それでも俺は親友にあやまらないといけない。だから」

 その意思はかたいようだ。ならばと、神は静かにうなずいた。そして、少年の額に指を突き付けて言った。

「ついでだ、お前はアイツと同じように転生てんせいさせておこう。アイツとは違って、お前は記憶を取り戻すのがかなりおそくなるだろうがな」

 少年がその世界で最後さいごに聞いたのは、そんな言葉だった。

 ……そして、所変わって異世界いせかい。デウス=ア=ステラにて、レイとレインの背後をこっそりと着いて歩いていた狐耳きつねみみの獣人少女。ミィはふと、急な頭痛と共にかつての記憶を思い出した。

 そう、彼女かのじょこそ……

「そう、そうだった。わたしは……」

 彼女こそ、レイの前世での親友しんゆうだった少年であった。どうしてこうなった?

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