第5話、狐耳の獣人少女

 しばらく草原地帯を歩いていると、目の前に行き倒れた狐耳きつねみみの少女が居た。どうやら腹を空かせているようだ。しきりに少女のお腹がっている。少女は何か言いたげな表情で僕とレインを見ている。どうやら何か恵んで欲しいらしい。

「えっと、プルのがあるけど。居る?」

「下さい」

 清々しいくらいに即答そくとうだった。どうやらかなり限界らしい。盛大に腹が鳴り響き、切なそうな表情でこちらを見てくる。

 いたたまれなくなった僕は、そのままかばんの中からプルの実を出して……

 出した瞬間に、少女がひったくるようにプルの実を取った。そして、勢いよくかぶりついて食べる。そして、食べ終わった瞬間更に盛大せいだいに腹が鳴る。どうやらまだ足りないらしい。

 僕は黙ってもう一つプルの実をし出した。再び、勢いよくかぶりつく少女。試しに、もう一つ。もちろん、少女は再びかぶりつく。鞄の中にあるプルの実は、これで全部ぜんぶだ。もう、鞄の中に実は無い。

 ケプッと、狐耳の少女は満足まんぞくそうに腹をさすり小さくゲップをする。うん、よく食べたなあ?思わず感心かんしんしてしまった。

「……満足」

「そう、わりに私達の分がくなったけどね」

「は、ははっ……」

 若干不満そうな表情かおで、レインは狐耳の少女をにらみ付ける。僕は、苦笑していた。

 うん、確かに僕達の分が全部無くなってしまった。これからどうしよう?そう思うけど、まあ後の祭りだろう。

「……ごめんなさい。代わりに良い事を教えるからゆるして欲しい」

「良い事?」

 首をかしげる僕に、少女は小さく頷いた。

「うん、旅をするならそっちの道はめた方が良い。そっちには今、盗賊団が根城にしている小屋がある。かなり大規模な盗賊だから、そっちに行くと厄介やっかい

「そう、おしえてくれてありがとう」

「うん、あと旅をするならまずはあの大木を目印にきたへ進むと良い。そっちには番の魔狼が守る果樹林かじゅりんがある。貴方達なら、或いは分けてくれるかも?」

「そうなの?」

「うん、何故なぜか知らないけど。貴方とるとおちつくから」

「んー?まあ良いや。教えてくれてありがとうね!」

「ん」

 僕とレインは、そのまま言われた通り大木を目印に北の方角へと進んだ。まずはその先にあるという果樹林を目指めざそう。そう思い、僕とレインは進んでいく。

 ・・・ ・・・ ・・・

 去っていく少年少女を見詰みつめながら、狐耳の少女は何かを考える。そんな少女に、複数人の男達が近付いてくる。ボロボロの装備を身にまとった、盗賊だ。

「おう、其処そこで何をしている?何か見つけたか?」

「ううん、何も」

「そうか、じゃあ行くぞ。今度、あの魔狼の番をぶち殺して果樹林を俺達の物にするんだ。そうすりゃしばらくは食いっぱぐれる事もないだろう」

 その言葉に、少しおどろいた顔をする狐耳の少女。だが、表情を元に戻すと何かを考え始めた。

 そして、やがてボスである一人の男に声を掛ける。

「ボス、少しはなしが」

「ん?何だ珍しいな。お前から話なんて」

「私、この盗賊団をける。ボス、そして皆もさようなら」

 そう言って、狐耳の少女は一瞬で盗賊団をほぼ全員気絶させた。残ったのは、ボスただ一人だけである。

 そう、狐耳の獣人少女はとてもつよかったのだ。それこそ、ボスに強さを認められる程度には。

「お前、何を?」

「果樹林には、かせない」

「……そうか、お前何かあったな?俺達を果樹林に行かせたくない理由が、例えば誰かが其処に居るんだろう?」

「……………………」

 こたえない。しかし、それが逆に返答につながっているのだろう。ボスの男がにやりといやらしい笑みを浮かべる。

 ボスは今、こう考えているのだ。裏切うらぎり者である狐耳の少女を捕まえ、少女が庇おうとしている誰かをつかまえてやろうと。そして、あわよくば奴隷商人に売り付ければかなりのもうけになるに違いないと。

 そして、その考えを察した少女は目を鋭くほそめる。ボスの考えは、少女にとって嫌になる程理解出来た。何故なら、少女の両親を殺して自分の配下はいかにしたのはこの男だからだ。

 少女は懐から、一振りのナイフを取り出す。そして、しばらく睨み合った直後。

「「其処そこだ‼」」

 二人同時にみ出した。手斧ておのを持ったボスと、ナイフを持った少女が交差する。

「…………ぐっ」

「私の、勝ち」

 勝利しょうりを治めたのは、狐耳の獣人少女だった。倒れている盗賊団を尻目にして、少女は振り返る事無く去っていく。その先は、先程プルの実をくれた少年少女の向かった方角だった。

「決めた、私はあの二人のそばでずっと二人をまもる」

 そう、呟いて。そのままあるいていった。

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