第4話、神との邂逅と転生

 王都を出て一時間半ほど歩いた所で、僕達は休憩きゅうけいしていた。場所は緑の広がる一面の草原地帯だ。草原地帯に一本だけ生えた巨木きょぼくの傍で僕達は休憩していた。巨木にはリンゴによく似た果物、プルの実が成っている。僕達はそれを採って食べていた。

「えっと、そう言えばれー。五年前に来た神様かみさまとれーってこの世界に生まれる前に出会ったんだよね?」

「うん、そうだよ。元々別の世界できていて、その世界で訳あって死んだんだけどね。神様が転生てんせいさせてくれるって言って僕はこの世界にたんだよ」

「その話を聞きたいの。どうして、神様はれーを気に入ったんだろ?」

「んー、確かあの時は……」

 そうして、僕は過去かこを思い出していく。確か、あの時……

 ・・・ ・・・ ・・・

「あれ?僕って確か死んだ筈じゃあ?」

 僕は駅のホームから線路に転落てんらくしそうになった友達を助けた。けど、その後ドジで自分が足をすべらせて転落。そのまま電車でんしゃにはねられて死亡した筈だ。

 なのに、生きている?というより、此処は何処どこだ?

 明らかに、其処は病院びょういんとかそういう施設しせつではない。どころか一面真っ白で平坦な地面に何処までも澄み渡った空がひろがるのみの空間だった。そんな場所、僕は知らないし聞いた事もない。

 というと、此処は天国てんごくでやっぱり僕は死んでいるのか?そう思った直後。

「その通り、お前は死んで今は魂のみの状態だ。だが、此処は天国ではないぞ?」

「……じゃあ、此処は何処です?そして、貴方あなたは?」

 見ると、其処には神々かみがみしいまでの後光を背負った純白の衣服の男性が居た。僕を見て柔和なみを浮かべる。その姿は何処となく神々しい。

 彼は僕を真っ直ぐ見ると、空間に指をすべらせる。すると、空間に直接映像が浮かび上がる。まるで、SF映画の中に出てくる3Dモニターのよう。そのモニターには、僕が死んだあとの駅の光景が。

 あ、結構騒ぎになっている?友達が号泣ごうきゅうしているのが見えるな。彼には少し悪い事をしたか。ごめんなさい。

此処ここは神々の住まう中枢世界、云わば神界しんかいだ。そして俺は神々の王、至高神のケテル=アインだ」

「えっと、神様ですか?それも、神々の王様おうさまですか?」

「うむ、そうだ」

「えっと、では……」

 僕はその場に正座し頭をげようとする。それを、神様はやんわりと止めた。

「良い、別にお前に平伏へいふくされたい訳ではないからな。それより今はこれを見ろ」

 再び、神様は指を虚空に滑らせる。

 次に現れたモニターには何処か知らない世界の概略図がいりゃくずが記されていた。神造宇宙、デウス=ア=ステラ。惑星わくせいデウス=ア=ステラは三つの国に分かれた世界。

 先ず、ゾディア王国。人類じんるいの住む、人間種の国家。次にホーウェン獣国。獣人種の住む、竜王の統治する国家。最後にデモニカル魔国。魔王まおうデモンの統治する、魔族の住む国家。その三つだ。

 惑星には大陸たいりくが一つのみ。その周囲をうみが囲んでいる。大陸を三つの国家が均等に分割され配置していた。いや、唯一大陸の中央部の無銘むめいの密林のみ中立地帯となってどの国家にも属さない領域となっているか。

「お前には、この世界に転生てんせいしてもらう」

「それは別に構わないのですが、えっと何で僕が?」

「一言で言えば、気に入ったからだ」

 神様は文字通り、たった一言で答えた。簡単かんたんすぎて逆に意味が理解出来ない。

 えっと、つまりどういう事だろうか?

「えっと、気に入られる理由りゆうが思い浮かばないのですが?一応、僕は平凡な何処にでも居る高校生男子ですよ?」

「そうだな、特に特殊な能力のうりょくも無く特殊な才能さいのうも持っていない。実に平凡な少年だ」

「では、何故なぜ?もしかして何か、僕にやって欲しい事があるのですか?」

「いや、特にお前にして欲しい事もない。それに、お前が平凡だからこそ気に入ったのだ。だが、そうだな?其処そこまで言うのであれば一つだけ猶予期間を設けるのもありかもしれん」

「猶予期間、ですか?」

 首をかしげる僕に、神様はうむとうなずいた。

「そうだ、五年のときをお前にやろう。五年の間、仮にこの世界へ転生するがよい。そして、転生してみてその世界を気に入れば好きに生きるが良い。だが、気に入らなければお前には俺の眷属けんぞくとしてこの世界で働いてもらう」

「……えっと、少しだけ考えても良いですか?」

「うむ、ゆるそう」

 ……えっと?つまり、神様は別に僕にして欲しい事があってこの世界に転生してもらおうと思っていないと。どういう訳かはしらないけど、どうやら神様は僕の平凡さを気に入ったらしい。

 そして、そんな僕に猶予期間として五年の時間じかんをくれるという。五年間、その世界で過ごし……気に入れば好きに生きれば良い。そして、気に入らなければ別の選択として神様の眷属としてむかえ入れられると。

 僕個人としては、別に断る理由りゆうがない。というより、デメリットが存在しない。

 ちらりと、写っているモニターの一つを見る。モニターには、駅で未だに泣いている友達の姿が。あの友達とは、結構仲が良かった。よく馬鹿ばかな話で盛り上がったりしたのをおぼえている。

 きっと、彼と会う事は二度とないのだろう。そう思い、僕は決意けついした。

「わかりました。けど、一つだけ良いでしょうか?」

「うむ、何だ?」

「せめて、あの友人に神様から伝言でんごんを届けて欲しいのです。こっそりとで構いませんのでどうか泣かないで欲しいと、友人と過ごした日々ひびはとても楽しかったと伝えて欲しいのです」

「分かった。俺からかならず伝えておこう」

 そうして、神様は虚空に三度指を滑らせる。すると、僕の視界がゆっくり歪んでそのまま意識が落ちていった。

 そして、気付けば僕は赤子あかごの姿で孤児院の前に置かれていた。

 ・・・ ・・・ ・・・

「まあ、僕が転生したいきさつはそういう事だね」

「はあ、結構すごい体験たいけんをしたんだね?」

 僕の言葉に、レインが呆気あっけに取られたような顔で見る。まあ、確かに傍目から見ればすごい体験なのだろう。あの時の僕は、結構感覚がマヒしていた為か全く実感が無かったけど。

 まあ確かにびっくり仰天ぎょうてんな状況なのだろう。すごい体験をした、そう言われてもおかしくはない。実際、レインもおどろきすぎてどう表現すれば良いのか分からないのだろうと思う。

 まあ、ともかく僕が転生した話はこれで終わりだ。

「じゃあ、そろそろ此処で休憩きゅうけいを終わりにしようか。こう、レイン」

「そうだね、もう十分に休憩した事だし。行こう」

 そう言って、僕とレインは立ち上がる。プルの実は幾つか採っていこう。

 かばんの中に、プルの実を幾つか入れて僕達はあるき出した。

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