第2話、至高神ケテル=アイン

 その日、孤児院は騒然そうぜんとしていた。まあ、原因は突然の来訪者にある。素性の知れない男性がいきなり僕にいに来たというのだから、そうなるだろう。

 けど、僕はこの人物をっていた。まあ、人物といえるのかはさだかではないけど。

 ともかく僕は、この男性を知っている。まあ、そばに居る二人は知らないけど。

「えっと、すいません。どちら様でしょうか?」

「うむ、まあすまんが早々に名乗なのる事が出来ん身分なのだ。五年前にこの孤児院に預けた子供にわせてはくれんか?私は彼に会いに来たのだ」

「えっと、お父様とうさまでしょうか?」

「うむ、まあそのようなものだ」

 直後、男性と僕の視線しせんが合った。どうやら僕を見付けたらしい。男性は破顔し柔らかな笑みをこぼす。僕は、そのまま男性のもとへ歩いていった。その背後からレインも付いてくる。少しだけ、不安そうな表情だ。

 男性は僕の頭にそっと手を乗せ優しくでた。黙って撫でられる僕は、その男性を見上げながら話し掛けた。

「お久しぶりです、神様かみさま

「おお、久しぶりだな。今は確か、レイというだったか?」

 神様———その言葉たんごに周囲はざわついた。

 そう、この男性は僕を転生てんせいさせた張本人で神様だ。確か、名前はケテル=アインと名乗っていたか。この世界、デウス=ア=ステラの至高神しこうしんなのだとか。

「えっと?そちらに居る二方も神様でしょうか?」

「うむ、私は太陽神たいようしんのソル=アツィルトという」

「俺は月神げっしんのルナ=ブリアーだ。よろしくな」

 太陽神に月神、その顔ぶれに孤児院の院長を含めた全ての職員が平伏へいふくした。まあ、それも当然か。神様だもんね。

 僕は、まあ以前神様本人からかしこまらなくて良いと言われているので。ともかく今此処に居る人物で平伏していないのは僕と事情をみ込めていないレインだけだ。

「えっと?れー、何で皆平伏しているの?」

「まあ、とてもえらい方が僕をむかえに来たらしいから?」

「えっ⁉れー、行っちゃうの?」

 レインがきそうな顔で僕と神様たちを見る。思わず苦笑する僕と三柱の神様。

「レイとはこの世界に生まれる前、一つの契約やくそくを結んでいたのだ」

「確か、五年間この世界を見て気に入ればそのままこの世界で自由じゆうに生きる。そしてそうでなければ神様の許で眷属けんぞくとしての生を過ごすという話でしたね」

 確か、そういう契約内容だった筈だ。その言葉に、神様はうむと頷いた。どうやら当たっていたらしい。

 神様との契約内容、それは五年の有余ゆうよを僕に与えるというもの。そして、その五年間の間に僕はこの世界を見定みさだめる。僕がこの世界を気に入ればそれでよし、気に入らなければそれはそれ。別にそこまで大仰な契約では無かった筈だ。

 気に入ればこの世界できに生きてよい。そうでなければ神々の世界で神様の眷属としての生を送る。そんな内容だった。その契約内容に、不安ふあんそうな目で僕を見るレイン。まあ、僕としてはすでに心は決まっているけど。

 気付けば、院長と職員の皆も僕をじっと見ている。孤児院の子供達もだ。

「では、レイ。お前のこたえを聞こう。この世界を気に入ったか?そうでないか?」

 答えようと口を開きかけた僕の、服のすそをレインがぎゅっと握る。僕は、レインに笑みを向けて再び神様に向き合った。

 僕の心は既に決まっている。だったら、それを素直すなおに話すだけだ。きっと、それだけで良い筈だから。

「僕はこの世界せかいを気に入りました。この世界で、なによりもレインと一緒に一生を過ごしたいです」

「そうか。ならば良し、お前はこの世界で好きにきると良い」

「ありがとうございます」

 神様の言葉に、僕は頭を深々ふかぶかと下げた。

 そして、神様はレインの方へと向き直る。レインは僅かに身構みがまえたが、そんなレインに笑みを向けてそっと頭をでた。

「君がレインだね?レイの事をよろしくたのむ」

「分かっています。私は貴方なんかよりもずっとずっと、レイの事が大好だいすきです!」

 その強気な言葉に、周囲は硬直こうちょくした。だが、当の神様は。三柱の神様たちはとても楽しそうにわらっていた。

 きっと、神様には神様なりの尺度しゃくどがあるのだろう。

「それは楽しみだ。よろしい、これからもレイをよろしく頼む」

 そう言って、神様たちはその場からっていった。というより、その場から文字通りの意味でひかりと共に消えていった。

 ……その後、僕は院長からくわしい話をい質されたのは言うまでもない。

 何故か、子供達にも問い質されたけど。其処そこはまあ別に良いと思う。

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