第三話『確認』



(ただのデート……ただのデート……ってそれ、デートに失礼じゃん!!)

 島風とのデートで頭がいっぱいになった心子は彼から届いたトーク画面を何度も見返しながら己の興奮を収めようと躍起になっていた。デートだが、相手はデートではないかもしれない。自惚れるのはまだ早いのだ。

(それに好きとは言ってないし……)

 そうなのだ。あくまでファンだと伝えただけである。彼への恋心はもはや否定できない程の大きさであったが、島風には人間としてのファンだという意味合いで届いているだろう。



 あれからすぐに彼に手渡されたレインのIDと電話番号をスマホに登録した心子は早速彼へメッセージを送った。肝心な名前を名乗っていなかったことを思い出し『ファンだと告白した上羽心子と申します! 先程はありがとうございました!!』と連絡をしていた。島風はすぐに返事を送り返してくれ、そこからトントン拍子に出かける日程が決まったのだ。心子は嬉しい気持ちで胸がいっぱいになり、デート服をどうしようかと来る日も来る日も考え続けていた。




 そしてその日はやってくる。心子は万全の状態でデートの待ち合わせ場に向かった。

「おはようございます」

「おっおはござ……オハヨウゴザイマス!!!」

 顔を真っ赤っかに染め、彼に挨拶を返すと島風は優しく微笑んで「行きましょう」と心子に声をかけてくれる。エスコートしてくれているのだ。それが分かった途端、単純にも嬉しさは更に増す。島風の貴重な私服姿を背中側から眺め、後に続いていると突然彼は振り返り「横にどうぞ。デートですし」とサラリととんでもない発言をかましてきた。

「!!?」

「あ、デートは嫌でした?」

「そそそそっ、そんなことはなくっ!!」

「良かった」

 島風は思っていた通り優しくて穏やかで、気持ちが温かくなる。彼の優しさを体感していると島風に連れられながらショッピングセンターに到着し、そのまま楽しい時間を過ごした。

 島風は現在大学二年生で一人暮らしをしている。ショッピングセンター内を歩いている最中に彼から聞いた事だ。三歳年上の彼と並んで歩くのはいつも以上に緊張したが、心子は自分の隣に彼がいる事実に気分が高まっていた。



 島風とゲームセンターで遊んだ。二人でゾンビを退治するゲームをして、モグラ叩きをしたりUFOキャッチャーで遊んだりもした。その後映画を一本見て感想を言い合う。それから様々な商品が並べられた大きな空間でウインドーショッピングをして何が好みであるのかを教え合った。心子は終始言葉を詰まらせてばかりいたが、島風にそれを指摘されることは一度もなく、彼がそれに対して苛立ちを見せることもなかった。むしろどもる度に彼の笑みは柔らかくなっている気さえもする。心子は楽しすぎるこの時間を満喫しているとあっという間に夕飯の時間になっていた。

「夕食を終えたら解散しましょうか」

「そそ、うですね」

 二人は洋食屋に足を踏み入れると椅子に腰を下ろす。ふうと一息つきながら店員に出された水を飲んでいると島風はこんな言葉を発してきた。

「あの……一つだけ聞きたいことがあって」

「は、ハイ!! なんでございましょしょか……!!!」

 改まった様子の彼に心子は緊張し、身体が強張る。何を聞かれるのかと少し怖かった。すると島風はこちらをじっと見て口を開く。

「俺の事……ファンだって言ってましたけど、それって恋愛の意味も含まれていますか?」

「へっ…………!!?」

 確信をつくその質問に心子は驚く。しかしこれはしっかりと伝えるチャンスではないだろうか。心子は大きく頷くとそれを正面から見ていた島風は安心したかのようにふにゃりと笑って「そっか」と声を返した。そして後頭部に手を当てながら「怖かったんですよね」と本音を漏らす。

「俺が一人で勘違いしているならそれは申し訳ないと思いまして」

「そそっそんな事ないです……わたっ私は………島風さんが……」

「お待たせしました」

 そこで突然注文していたオムライスがテーブルの上に置かれる。どうやら時間切れのようだ。心子は言いかけた言葉をごくりと飲み込むとスプーンを手に取り、オムライスに手をつけ始めた。


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