第28話 戦いの報せ
「エクラ……。私からあなたに言うことは一つです。死なないで」
俺はフェリシテの執務室にきていた。
俺が部屋に入ってきた時には、フェリシテはすでに真剣な表情をして立っていた。
その目には、悲しさと、寂しさと、そして覚悟があったように感じられた。
「大丈夫ですよ。私は死にません。私は死なないようにできていますので」
俺は今までの人生で一番適当な返事をした。
戦争に出向く前の人間が言う言葉など習ったことがないのでね。俺は適当に返事するのがベストだと、そう勝手に判断したわけよ。
この世界に転生してしまった以上、国の方針には従わないといけない。
正直な話をしてしまえば、別に戦争に乗り気であると、そういうことは一切ない。だが、乗り掛かった船だ。ここで降りてしまうことの方が無責任かなって……。
意外とフェリシテには好かれている様子でもあるし、彼女のために生きるために一生懸命になるのもいいだろうなって、そう思えてきた。
俺の精神状態も、元の世界にいた頃とは大きく変わってしまったなっていうのが正直なところでもある。
これが良いのか悪いのかなんて知ったことではないけど、まあ、自分のできることをしましょうか!
◆
エール国の歩兵団総隊長のメテオールは、昨年ヴェリテ王とディアブルが会談を行った会談会場の目の前にいた。
メテオールの後ろには、実に5万人規模の低級詠唱術師団が綺麗に並んでいた。
各部隊、1000人ずつの隊に分け、それぞれの部隊に隊長を置いている。その隊長の上に立っているのがメテオールということになる。
そして、数百メートル先にはネージュ国一団が相対していた。
目の前にいる部隊の総数はおそらく10万程度。
もちろん、これだけで済むとは考えられない。この後にも、次々と投入されていくだろう。
あの戦争が決まった日からちょうど一年。両国が文字通り、国の存亡をかけるべき時が、もうすぐそこまで近づいていた。
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