第27話 特殊精鋭部隊

 時が移ろうのは早いもので、の日から11ヶ月がすでに過ぎようとしていた。約束の日まで、残るところ実に30日。エール国中が緊張と恐怖に包まれていたように感じられた。


 俺はあの日、つまり戦争が決まったあの日から、日々鍛錬を重ねてきた。正直、フェリシテの護衛任務が決まった時から、日々の鍛錬をサボっていたと言うのが真実であった。しかし、このままではまずいという焦燥感に駆られ、今まで以上に鍛錬を重ねた。


 本来、俺はフェリシテの第一騎士にあたるので、戦場には赴かないのがルールだが、現実は結構シビアなもので、そのようなルールを守っていては、フェリシテどころか国家を守れないというのが上の判断であった。

 そのため、俺も特殊精鋭部隊というのを持たせてもらっている。

 

 俺がリーダーであり、副リーダーはエテルネル。そう、あのフェリシテの暗殺を実行しようとした、あの女である。

 結局、エテルネルは処刑を免れた。

 その第一の理由は、それほどまでに戦力差が激しいということ。

 第二に、エテルネルは相手の国の情報を持っているということ。

 第三に、エテルネルは十分に戦力になる見込みがあるということ。


 その代わり俺とエテルネルの間では、詠唱、主従関係が結ばれている。

 これは、俺以外にも、ヴェリテ王とアトラスも結んでいた。

 詠唱、主従関係の効用はわかりやすい。つまり、である側が、詠唱の続きを発言するだけで、側の人間は死に至る。そのため、エテルネルは俺と他二人に、文字通り命を握られている。


 俺の特殊精鋭部隊の人数は計5人。

 俺とエテルネルの他にラビランス、レーヴ、そしてフロレゾンである。


 聞いた話によると、ラビランスは昨年の詠唱学校で主席だったらしい。

 ただ、そもそも詠唱学校というものがどのようなものなのかを俺は知らないから、この凄さがいまいち理解できていないのだが……。

 メテオール曰く、主席卒業のやつは、大概気が狂っているほど強い、とのことであった。頼もしい限りだよ。


 レーヴは、まだ一度しか話したことがないが、なんというか無口で落ち着いた雰囲気をしていた。見た目はオールバックなのに関わらず、その見た目とは裏腹に無口な人物であった。

 まあ、オールバックが口うるさいというのも完全に俺の偏見なのだが……。

 レーヴはこの精鋭部隊に編入することを自ら志願したらしい。もともとは、エール国の常備軍に在籍していたが、なぜか俺の下で働きたかったらしく、この部隊に編入させてくれるように、直接上司に打診したとか……。

 まあつまり、変わったやつってことか……。


 問題はフロレゾン。こいつは本当に自由奔放。他にどう形容したらいいのかわからない、というのが正直な感想であった。

 別に命令違反をするとか、そういうわけではない。ただ、俺が初めて対応するタイプの人間であったことに変わりはなかった。

 初対面で挨拶した時も、最初から最後までタメ口で、また意識があっちこっちに飛んでいた。俺との話をどれほど覚えてくれているだろうか……。


 まあ、こんな感じの5人で精鋭部隊を組むことになった。

 そして、この部隊の目的は一つ。それは相手の主力級を暗殺していくこと。

 戦争は、別にこの世界の戦争に限った話ではないが、いわゆる歩兵が中心に戦いが進んでいくことになる。この世界の歩兵に該当するのは、低級詠唱団。彼らが前線で命を張ってくれている間に、俺たちは相手の指揮官たちを次々と暗殺するように求められている。

 今回の戦争は、そもそもが悪い。相手のネージュ国は、圧倒的は人口を持って、数の暴力を見せてくるだろう。だから、低級歩兵団を含め、一人一人の命を何よりも大切に戦っていかないといけない。

 俺たちは、相手の指揮官、主力級を殺していくことで、相手の現場に混乱をもたらすことを必要とされている。


 言うまでもなく、戦争なんて本来ならばまっぴらごめんだ。しかし、始まってしまうのならば仕方ない。俺は自分の命を、自分の国を、自分の仲間たちを、そしてフェリシテを守るために、命を懸ける所存だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る