第25話 グロワール国王という男

 ヴェリテ王は、グロワール国に参上していた。アトラスの他に、俺とデトロワが同行した。グロワール国の王宮は、荘厳な作りで、スペインのグラナダにありそうな雰囲気を醸し出していた。


「して、ネージュ国との戦争に片足突っ込んでいるエール国のヴェリテ王よ、今日はいかがいたしました? 」

 グロワール国の王、メルヴェイユ王は今までに出会ったことのないタイプの王様に見えた。

 

 他国の王が参上しているというのに、おそらく愛人かなにかの美人を3人周りにおき、自分は干物のようなものを食べていた。


 メルヴェイユ王は、客室間に俺たちを招待し、そこには大きなテーブルが用意されていた。メルヴェイユの側近は美女を除くと3人。皆、何も反応しないところを見ると、いつものことなのだろう。


 ヴェリテ王は、メルヴェイユ王の顔をしっかりと見ると、今日ここにきた理由を話し始めた。 

「単刀直入に言わせてもらう。次期ネージュ国との戦争に協力してほしい」

「断る」


 メルヴェイユ王は即答であった。

 まあ、そりゃそうやわな。そもそもエール国が始めた戦争だ。グロワール国に戦う義理はない。


「そもそも私たちの国が、ここ百年以上防衛戦争以外してこなかったことはヴェリテも知っているでしょう? 」

「それは百も承知だ。しかし、仮に我々が負け、我々の土地と国民が搾取され、搾り尽くされたら、次はグロワール国にその標的は向かうぞ」

 ヴェリテ王は必死に訴えている。

「そうかもしれないわね。けれど、そうなったらそうなった時よ。我々は母国を守るために、死ぬ気で戦うわ。そうよね、リュミエール」

「は、間違いございません」


 メルヴェイユ王の言葉に反応したのは一人の側近であった。リュミエールと言うらしい。全身鎧で覆われており、顔も面頬めんぼおのようなものをつけているため、しっかりと顔が確認できない。


「そうなってからでは遅いのだ。そうなった時、私たちエール国はグロワール国と共闘することができない」

「別にあなた方の助けなど、いらないわよ」

「ネージュ国は数の暴力で押し寄せてくるのだぞ。いかに優秀な人材が揃っていようと、最後にはジリ貧になっていくのが落ちだ」


 ヴェリテ王の言葉に耳を傾けているように見えるメルヴェイユ王だが、実際は周りにいる美女たちの胸を触っているだけだ。

 なんだこの気の抜けた王は……。


「そこのあなた」

 メルヴェイユ王は突然俺の方を指差して、声をかけてきた。

「は、はい」

「あなたも私の美女コレクションの胸を触りたそうな目をしているわね」

「いえ、してません」


 …………。

 急に変なことを言うなや。

「触らせませんよ。私の大事なコレクションなのですから」

「十分理解しています」

 

 いや、これなんの時間? 

 あと、女性たちをコレクションって言うな。


「まあ、そうね。そこのあなた、非常に面白いオーラがしていますわね」

 メルヴェイユ王は、再度俺のことを話題に話し始めた。

 目をつけられた……。

 最悪だ……。


「そこのあなた、名前は? 」

「エクラと申します」

「そう、エクラ……ね」


 メルヴェイユ王は少し何かを考え出した様子で、数秒の沈黙が訪れた。

「あなたからは、この世界とは別の世界の住人の匂いがするわね……」


 !?!?!?!?!?!?

 俺はこの時、自分の血の気が引いていくのを感じた。

 なぜだ……? なぜこの男は突然そのようなことを言った……? 

 はったりか? 


 俺が内心焦っているところで、メルヴェイユは話を続けた。

「ヴェリテ王、今日は興味深い子を連れてきてくれて、私は非常に機嫌がいいわ……」

「それはよかった」

 ヴェリテ王が適当に相槌をする。


 そして、メルヴェイユ王が俺に対して、非常に荷が重いことを言った。

「エクラって言ったわよね。あなた、ちょっとグロワール国に残りなさい。その子の話次第で、ネージュとの戦争に参戦するかどうか決めることにするわ」

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