第22話 メテオールの策略

 俺の視界の先には、フェリシテの住む後宮が見えてきていた。

 メテオールも俺の後ろを走っている。

「エクラ、これはまずいな。もう時間がない。後宮が見えてきたぞ」

 メテオールの言う通り、もう俺には時間がない。このままではフェリシテの暗殺を、命令通りに遂行してしまうことになる。

「本当、どうしようか……? 」

 俺は非常に焦っていた。このままではフェリシテを殺してしまう。当たり前のことだが、俺はフェリシテを殺したくはない。だが、このままでは殺してしまうことになる。もちろん、フェリシテにはたくさんの護衛がついているが、正直数百人程度の障害なら蹴散らしてしまうことになるだろう。


 こうなっては万事休すか……。

 俺は自爆する方法を模索していた。

 詠唱、会稽之恥による効果は、命令に対する障害を排除するようには働くが、それ以外のことには何の効果も持たない。

 つまりフェリシテを守ろうとする者に対しては、自分の意思に関係なく戦おうとするが、特にフェリシテに関係なく戦闘を挑んできたものに対して無意識に応戦することはしない。ならば、メテオールに俺を殺してもらうのが手っ取り早いことになる……。


「メテオール! 悪いけど俺を殺してくれ」

 俺の提案にメテオールは「はぁ? 」と怪訝な顔をするだけであった。

「いやだよ。何で俺が仲間殺しのごうを背負わなきゃいけないんだよ」

 メテオールは状況に対して、それほど焦っている感じでもなかった。

「それはもっともな話ではあるが、このままではこの国の王女を殺してしまうことになる。俺たちの仕事は王族を守ることだ」

 俺はこう言ったが、メテオールは白けた感じで答えた。

「知らねぇーよ。それに俺の仕事は王族の護衛ではなく、自分のの護衛だ。なんで王族全員の命に対して責任を持たないといけないんだよ」


 意外とドライなんだな……。

 加えてメテオールは呆れた様子でこう付け加えた。

「死にたきゃ勝手に自分で死ねよ。けれど、死んでフェリシテを守った気になるなよ。俺たち護衛が主人より先に死んだら、それを一般に職務放棄という」

 メテオールは意外と情に深いとみた。

 それに、メテオールの発言は真実を告げている。

「それはそうだが……」

 しかし、状況は一刻を争う。綺麗事ばかり言っている場合でもない。

「まあ、けれどなかなか打つても少ないか……。ならまあ、しょうがねぇなー」

 メテオールはそう言うと、速度を上げ、俺の前に立ち塞がった。


「詠唱、電光石火ω《オメガ》」

 メテオールの詠唱の言葉と同時に、メテオールは一瞬にしてフェリシテをこの場に連れてきた。

 俺の正面にはメテオールとフェリシテが立っている。

「お前何してんだ! 」

 しかし、フェリシテの姿を捉えた俺に自制心など働こうはずもない。一瞬にして、脳内が、フェリシテの殺害のみを考えるようになった。

「詠唱、鎧袖がいしゅう一触いっしょくυ《ウプシロン》」

 俺は自分の意思とは関係なく、フェリシテ相手に、一直線に、全力で詠唱を放った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る