第21話 開戦の約束

 俺は詠唱、疾風迅雷を使って移動していた。

 ディアブルにフェリシテを殺すように命令された俺は、自分の意思と関係なく移動している。

 俺は移動しながらディアブルによりかけられた詠唱、会稽之恥を無効化する方法を考えていた。

 俺が使用できる詠唱の効果を帳消しにできる詠唱は、火炉かろ冬扇とうせん記問きもんがく。しかしこれらを発動してみても、効果が見込めなかった。おそらくクオリティが及ばないのであろう。

 俺の疾風迅雷σ《シグマ》による超加速移動について来れているのはアトラスとメテオール。だがアトラスは王の護衛のため、今、俺の後ろをついてきているのはメテオールのみだった。


「エクラ! どうだ? 効果の無効化できたか? 」

「いや、できない」

 俺はフェリシテの殺害だけを命令されたために、それ以外のことは自由に行える。

「メテオールは詠唱の無効化できる詠唱を使えないのか? 」

「使えないことはないが、エクラのクオリティと同じかそれ以下のものしか扱えない。エクラの詠唱で効果がないということは、俺の詠唱でもおそらく無理だ」

 なるほど……、実に最悪だ。

 俺がこの速度で移動し続けたら、フェリシテの元まで二時間もしないうちに着いてしまう。

 それまでになんとかしなければ……。



「ディアブル、貴様とんでもないことをやってくれたな……」

 ヴェリテ王は会談の会場にいた。

「それはお互い様であろう。私だって、大切な部下が殺された。ならば、そちら側も同等かそれ以上の犠牲を払ってもらわないと」

「それは貴様が暗殺の計画などをするからであろう。こちら側はただ、防衛反応をしただけだ」

 ヴェリテ王の怒りは、もうほとんど抑えられていない。

「暗殺は計画した。しかし、結局殺してはいない。なんなら、別に殺そうとする振りだけをしろと命令したのだ。そう、シックはすぐに退散するはずだった。だけどそちら側のエクラ君はシックを殺してしまった。この差がわかるか? 」

 ディアブルはそう言いながら帰る支度をし始めた。

「そう言うのを屁理屈というのだ。とても聞いていられないぞ。一国の王がする発言ではない」

 ヴェリテ王の言葉に、ディアブルは「そうかもな」と一言言うだけであった。そして出口に向かおうとする。

「待て」

 ヴェリテ王の言葉にディアブルはドアの前で立ち止まった。

 そして、ヴェリテ王はディアブルに言ったのである。


「国の存続をかけた戦争をしようではないか。これで負けたら、貴様の天下は終わりだ」

 ヴェリテ王の言葉にディアブルは不敵に笑い、こう答えた。

「いいだろう。だがその言葉、もう撤回することはできないぞ。こちらは詠唱術者を70万人用意しよう。それで開戦は一年後の今日。国の存亡をかけた戦いとはそそるではないか……」

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