第17話 約束

 話がついたらしい。我が国の国王と、ネージュ国の国王が、国境付近で会談を行うことになった。

 よくもまあ、どちらの国王も会談をしようと思ったものだ……。


 加えて、会談を行うにあたりネージュ国は条件をつけてきた。それはで詠唱、森羅万象を使った人間を連れてくること、だそうだ。

 言うまでもなく、それは俺である。

 国王の命がなくとも、俺はこの会談に参加することを強要されたということか……。


 どちらも、国王以外に護衛を十人までつけてもいい。場所は、エール国とネージュ国の国境にまたが再会館さいかいかん。会談は今から二週間後の十六時から行う、という内容に決定したと連絡が入った。


 俺はフェリシテの執務室に来るように言われた。

 少々気まずくて、あまり目を見て話せていない。

 俺は執務室への道すがら、入ってから何を話そうかと、どんな態度で接しようかと、そんなことばかり考えていた気がする。


 部屋に入ると、フェリシテは王女としての仕事に追われていた。フェリシテは普段、どちらかというと忙しく日々を過ごしている。

 国の祝い事や国技の決勝などが行われれば、フェリシテは王族の代表として顔を出したりもしている。もちろん、フェリシテ以外の王族もそのような場に訪れるが、フェリシテは積極的に参列しているようだ。

 フェリシテ曰く、国民が頑張っているところや喜んでいるところ見ると、私も頑張ろうと思える、とのことだった。

 生粋の王族だな。

 とても、王女としてその適性があるように感じられた。


「エクラ、話は聞きました」

 俺が執務室に入ると、仕事を一段落させたフェリシテから話を切り出した。

「父の会談の会場についていくと」

 フェリシテには少し元気がないように見えた。

 仕事の疲れがたまっていないといいが……。

「はい、相手の王からの条件でもありましたので……。私が現場に行くことが」

 フェリシテは「それも、聞いています」と小さい声で言った。

 最近は以前と比べてわがままも減ってきたのはなぜであろうか……。以前くらい、あっちこっち振り回すくらいの方が、王女感があって楽しかったような気もするんだけどな……。

 もちろん、今くらいの方が楽ではあるのだが……。

「あなたは私の第一騎士です。私以外を守る戦いで死んだら、本当に許しません」

 フェリシテは顔をそらせながら、絞り出すように言っていた。

 もちろん、万が一の時も死ぬようなヘマをするつもりはないが……。

「大丈夫です。今回はただの会談なので、戦闘は起きないはずですよ」

「そんなことはわかっているわ……。けれど、相手の国王があなたを連れてくるように条件をつけたことが気になるの……。もしかしたら、あなたが倒したをつけてたやつの弔い合戦でもするのではないかって……」

 確かに、その可能性については俺も少し考えた。考えたが、それは起こりにくいだろう。というのも……

「おそらくそれは大丈夫だと思います。もし相手がペストマスクをつけた奴の弔い合戦など始めようものなら、それは奴とネージュ国が繋がっていることを暗に示すことになるだけですからね。おそらくそのようなことはないでしょう」

 まあ、これは希望的観測に過ぎない。もし相手が、別に認めたら認めたで戦争を起こせばいいだけだと、そのような乱暴な考えを持っていたら、弔い合戦など一瞬で始まる。

 フェリシテは少し黙った。少し黙ってから俺に、フェリシテの横に来るように言った。

「いかがいたしました? 」

 俺がそう尋ねてもフェリシテは何を言うわけでもなく、ただ俺の手を握った。

 …………。

 こんな美人に手を握ってもらったの、人生で初めてかもしれない……。

 やばい、少し緊張するかも。


 フェリシテは俺の手を撫でるように触ってから、フェリシテの頬に俺の手を持っていった。

 …………めっちゃ緊張する…………。

 やばい、戦闘の方が全然俺に向いてるかも……。

「約束します」

 フェリシテは不意に喋り出した。

「はい」

 俺の声はだいぶ腑抜けていたと思う。

 そんな腑抜けた返事をからかうこともなく、フェリシテは言った。

「ちゃんと会談からもどってきたら、私はあなたにキスをします」

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