第16話 エール国の国王
俺はまだこの世界に転生してから、自分の国の王と話したことがない。もちろん、王と直接話ができるなど、通常ではあり得ない。多くの人間は祝い事などで王が姿を見せられる時に、遠目にその姿を拝み、崇め、その微かな記憶だけで人生を終えていく。
俺もそう
そう思っていたが…………。
俺は今、この国の王、ヴェリテ王の王室に参上仕るように言われたのだ。
◆
「
厳粛とした空気。空気が重い。重すぎる。帰りたい。帰って昼寝でもしたい……。どうせできないけど。
「間違いありません」
大丈夫だよね? この言葉遣い間違ってなかったよね……。なんか失言したら殺されそう。だいたい俺、敬語とか習わないで生きてきたんだよ。いきなり王は荷が重いって……。
「そうか……」
俺の国の王はフェリシテの実の父親である。その威厳は凄まじい。年齢は五十代前後か……。顎髭をのばし、落ち着いた空気を身に纏っていた。
「まずは先の遠征の件、フェリシテを助けてくれたこと、大変感謝している」
こんな感じで、感謝を伝えられた。いや、別にそういうのいいから……。圧倒的上の立場にいる人に感謝された時の対応の練習とかしたことないから……。
「いえ……、私は自分の職務をまっとうしただけですので……」
「それは、そうかもしれんが、今は実の父親として感謝している」
実の父親としてね……。
なんとも反応しづらい。
「いえ、本当にお気になさらないでください。フェリシテ様にお怪我がなくて、本当によかったです」
これは、俺の率直な感想である。どんな事情があれ、フェリシテに、美人に怪我がなくてよかった。
「そうか……、君をフェリシテの騎士にできてよかったよ」
「身に余るお言葉です……」
いや、本当に身に余る言葉……。全然お礼の言葉とかいらなかったのに……。
「それでだな」
ヴェリテ王は、先ほどまでとは打って変わって非常に真剣な眼差しになった。
「今は、いろんな人からの話を聞かせてもらっている。君が最後なのだが、フェリシテへの刺客はネージュの息がかかっていると見て間違いないだろうか? 」
そうだった……。
俺はエテルネルの今後の扱いにばかり目がいっていたが、もう一つ大きな問題が残っていた。
それは、エテルネルによるとフェリシテへの刺客はネージュ国の息がかかっている恐れがあるということだ。
「そうですね……、その可能性は大いにあると思います」
ヴェリテ王は「そうか……」と小さな声で言った。
「できればネージュとは戦争を起こしたくないのだがな……」
…………?
戦争?
え、戦争するの? それはいやだなー。困ったなー……。いや、本当に戦争はいや。
「あの国の軍事力は、我々を含めた近隣三カ国の中でも最大。なかなか手を出すわけにはいかないが……」
ヴェリテは真剣に悩んでいる。
俺はというと、とりあえずこの部屋から出たい。空気が重い……。
「しかし、我が娘の命を狙っておいて、お咎めなしもあり得ない。とりあえずネージュの国王と、今後の話をしなければ話が進まないようだな」
そ、それはそんな気もするが……。
娘の命狙った国の王様とどうやって話をするつもりだ?
「とりあえず、ディアブルに話をしてみる。国境付近で会談をしないか? 今度は本当にお互いの顔を合わせてな、と」
は、はあ……。
「いいのではないでしょうか? 」
俺は適当に話をあわしていた。
「それでだな、エクラ。お前には一緒に来てもらおうと思う。その腕を見込んでな」
はいでたー。いらぬ気遣いオブザイヤー。
俺は本当に部屋でゆっくりしたいだけなんだけどなー……。
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