第15話 結婚の申し込み?

「無理だと思う……」

 フェリシテは言葉を絞り出すようにして言った。

 俺はフェリシテがその職務を行う執務室に来ていた。部屋は広々としている。基本的に、王族個人の執務室に入ることはなかなか許されない。が、俺は自分の職務と役職の関係で、割と自由に出入りすることができた。

「まあ、そうですよね……」

 エテルネルに対して、情状酌量の余地あり、と現代日本なら言ってくれそうではあるが、ここは残念ながら日本ではない。

 王が支配する王国だ。

 俺がここに来て数年。おそらくこの国の国民は、自分たちの王およびその一族に対して、ポジティブな感情を抱いているだろう。なんとなく俺はそう感じていた。それは王が暴君ではなく、どちらかといえば明君に分類されるくらい国民思いなところを感じられるからだ。

 しかし、だからこそ厳しい判断を下す時だってある。それは国民に対して、「私情や、その身分によって差別しない」という厳正な態度を示すためでもある。


 これは、困ったな……。

 別に俺はエテルネルに対して、特別な感情があるとかそういうわけではない。というか、いうまでもなく俺とエテルネルとの間に大した思い出はない。出会ってまだ数日。だから彼女が死罪になったからと言って、俺は動揺しないはずだが……。

 本当に動揺しないだろうか……。


 でもあれだな、エテルネルは美人だしな……。この世界から美人が一人減るのは少々悲しいか。美人のために暗躍するのも悪くないではないだろうか……。

「エクラ」

 俺の脳内が美人で溢れている時、フェリシテが呆れ顔をしてこちらに声をかけてきた。

「はい」

「あなた、今、何歳いくつ? 」

 年齢を聞かれた。そんなん俺が知りてぇよ。俺は今何歳だ……。確か俺が死んだ時、俺は大学生だった……。ここにきて……十年前後……。

 ということは…………。

 俺は今二十代後半だと!!!!

 

 ま、待て……。俺はここに自分が幼少期の時転生した。での俺はまだ二十歳前後のはずだ……。

「そ、そうですね……。二十歳はたちになってないくらいではないでしょうか……? 」

 自分の年齢を正確に言えない男に、フェリシテは不可解な顔をする。

「なぜ自分の年齢が疑問系なの? 」

 もっともなツッコミをされた!! 

 そりゃそうだけど……。

「まあいいわ……。エクラは知っていますか? この国の王族は、多くの場合二十三歳から二十五歳の間に結婚するということを……。別にそのような決まりがあるわけではないですが、しかし王族は自分の立場や子孫の関係で、そのくらいでの結婚が望ましいとされています」

「は、はあ……」

 結婚の年齢にまで、暗黙の了解があるとは、さすがに王族は大変だな……。俺だったら耐えられないか……。

 というか、現代社会ですでに生きることに耐えられていなかったっけ……?

 そんなことを考えていると、フェリシテは少し赤面しながら話を続けた。

「私は今、十八歳なのですが……」

 フェリシテは十八歳らしい。いや、そのことは知っていたか……。十八歳から騎士をつけることになっているからな。俺はフェリシテの十八歳になった日に、彼女の第一騎士になった。


「その……」

 フェリシテの顔がだいぶ赤くなっている。

 大丈夫か? 

 風邪でもひいてなけりゃいいが……。

 そんなことを考えていると……。

「その…………、五年後、フィアンセがあなたにいたら許しませんから……」

 ………………。

 ん………………? 

 !?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!

 

 あとで数えたら、現世で俺は二十六歳だった。が、後にも先にもこの時ほど動揺した日はなかった。

 

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