第11話 ネージュ会談 ⑥
エテルネルによると、今回の暗殺計画の首謀者はネージュ国王ディアブルらしい。
もちろん今のところは証拠もないので、断定はできない。しかし、彼女の表情を見る限り、邪険に扱って良い内容でもないであろう。
「フェリシテ様、ここは一度エール国に戻る方が賢明ではないでしょうか? 」
エテルネルの話が本当なのであれば、このまま相手のホーム拠点に乗り込むのはかなりの危険が伴う。フェリシテが体調を崩した等、適当に取り繕った言い訳をつくり、一度本国に戻ってから体制を立て直したいところだ。
「そうね……。他の護衛たちの体調も気になるところであるし……、一度帰りましょうか」
俺以外の護衛たちは、まだ気を失っている様子であった。
俺たちが自身の馬や護衛たちのところへ戻ろうとした時だった。
「待って! 」
エテルネルが大きな声を出して俺たちを止めた。
「どうした? 」
俺がエテルネルの顔を確認すると、彼女は恐怖に顔を引き攣っていた。まるでこれから、自分が生死の堺を彷徨うかのように。
「待って……。どうしよう…。あいつが来た。いやだ。いやだいやだ! 」
エテルネルが取り乱す。エテルネルの呼吸が荒くなる。過呼吸になっている。
「待て、落ち着け。大丈夫だから。落ちついて」
俺の声も虚しく、エテルネルはただ号泣するだけだった。
「詠唱、
不意に聞こえた詠唱は、気を失っている護衛たちの地面に三つ円形の影を見せたかと思うと、瞬間、上方に激しい火柱をあげた。
俺とフェリシテはその光景をただ見ることしかできなかった。俺たちの目の前に上がった火柱は、限りなく天に届きそうな勢いであった。
「来た……」
エテルネルがそう言った瞬間だった。俺たちの目の前に、全身黒色のローブにフードを被り、ペストマスクのようなもので顔を覆った者が現れた。
早い……。相手の動きに、俺は反応できなかった。この世界で高速移動を可能にする詠唱はいくつかあるが、一番有名どころで言うと、電光石火であろうか。
俺の電光石火のクオリティはτ《タウ》。この詠唱は、自身の扱えるクオリティにまで反応することができる。今の俺が反応できなかったということは、相手のクオリティはυ《ウプシロン》以上ということになる。
やるな……。
「エテルネル、貴様は少々おしゃべりがすぎたな」
声から判断するに、おそらく男であろう。ペストマスクを被った男は、いきなりエテルネルに話しかけ始めた。
「お前のような底辺の人間が、ペラペラ話して良いことでもあると思ったか? 」
男はかなりキレている様子であった。
しかしこいつ……、この場にエテルネル以外の人間が二人いるのにも関わらず、俺たちに反応すらしないとは……。随分と舐められたものだ。
エテルネルは何も反応しない。ずっと奴とは反対の方向を向いて、涙を流している。
「無視とは良い度胸だな。それほどの図太さがあれば、俺たちの仲間としても大成できただろうに……。残念だよ。まあ、お前も母親と同じところに送ってやるよ。感謝してくれよ」
…………。
母親と同じところだと?
エテルネルに話では、まだ母親は死んでいないはずだ。
…………。
こいつ、やりやがったな。
「きさまぁぁぁぁ!!!!!!!! 」
奴の発言の意味を理解したエテルネルが怒りと共に叫び声をあげた。今にも飛びかかりそうであったが、まだ俺たちが施した拘束具を取っていないため、うまく動けない。
「外せ!!! この縄を外せ!!!! 殺してやる。お前を殺したやる! 」
エテルネルの声は、今にもはち切れそうだった。
「その無様な姿で、どうやって俺を殺すのだ? 」
こいつはよくもまあ、こんな態度を取れるものだ。
「殺してやる! お前を呪い殺してやる! 」
エテルネルの声がすでに
「そうか、呪い殺すか……。そいつは結構。好きにしてくれ」
奴は、「それでは」と言い、片方の手を挙げた。
黙って聞いていれば……、よくもまあ調子良くこんなにも不快なことを、スラスラ言えるものだ。俺の怒りの沸点はとうの昔に超えていた。
「なあ? お前さんよぉ……。少しおしゃべりがすぎるんじゃないんだろうか? 」
俺が不意に声を出したところで、奴は動きを止めた。
「急に何だ? お前たちはこの底辺女の後だ。心配するな、ちゃんと始末してやる」
何がおもろくて、そんなことを言うんだろうか……。
だいたい、こいつは一つだけ勘違いしている。
「『底辺女』だぁ? エテルネルは底辺でも何でもない。立派に生きようとしてるではないか? 」
「何だお前? この女に惚れたか? まあこいつはお前に手も足も出なかったようだからな……。自国で好き勝手に辱めたかったんだろうが……、少し帰るのが遅かったな」
「さっきからお前は何を勘違いしている? 」
「あぁ? てめえは何言ってやがる? 」
俺は初めて殺気を込めた目で奴の顔を見た。
「だから、お前の戦闘能力じゃ俺には手も足も出ないと、そう言っているんだ! 」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます