第9話 ネージュ会談 ④

 俺は、捕獲した刺客の仮面を取ろうとした。

「やめろ! 俺の仮面を取るな」と仮面を取られることだけを執拗に嫌がった。

 しかしな……。

「お前は王女を殺そうとしたんだ。ここで取られなくても、どの道俺の国に送還されれば仮面を取られ、裁判にかけられる。今ここで顔を見られようが変わらないのではないのか? 」

「別に構わない。俺は、戦闘で負けたこの場所で辱めを受けたくないと言っているのだ」

 辱めって……。何されると勘違いしているのだか……。

「エクラ! 何をしているの? 早くその者の仮面を取りなさい! 」

 そう言いながらフェリシテが近づいてきた。

 いくら四肢の自由を奪っているからって、命を狙ってきた者に近づいてくるなよ……。肝が座っている……。

 フェリシテは近づいてくるなり、刺客の仮面を取った。

 …………。

 女?

 仮面を取ると、そこには悔しそうな表情をした女の姿があった。ショートカットで、髪は美しい青色をしていた。またこんな美人が、なぜこのようなことをしているのか……。

 それに、だから先ほど「辱め」と言う単語を使ったのか……。


「お前……、女だったのか? 」

「だったら何だ! 」

 おお……。威勢がいいな。

「なぜ、エール国の王女、フェリシテがこの日、この道を通ると知っていた? 」

 女は何かを答えようとしない。それもそうか……。

 しかし、どうしても答えないようじゃ、話が前に進まないからな……。

「うーんと……、無理やり話をさせるのはあまり気が進まないんだけど……」

 俺がこう言う言い方をすると、刺客の女は露骨に恐怖を浮かべた。目には涙を浮かべ、今にも泣き出しそうである。

「エクラ! あなた今、何をしようと考えているのですか? いくら私の命を狙ってきたからといって、紳士に反する行為は認めませんよ」

 横で話を聞いていたフェリシテが、俺を制すように言った。

 フェリシテも何を考えているんだか……。

「勘違いしないでください。何も乱暴のことはしませんよ。ただ、正直に話しをさせる詠唱を発動させるか否かを考えていただけです」

 詠唱、虚心坦懐きょしんたんかいを使えば、相手はしばらくの間、自身が話すすべてのことについて嘘をつけなくなるが……。少々気が進まない。どこか、ある種の拷問を加えているような気になってしまう。

「それで、どうしようか、女の刺客さん。俺が詠唱を発動したら、あなたはすべてのことに嘘をつけなくなる。だったらここで正直に話してくれないだろうか? 詠唱の効果で話をさせても、なんか無理やり話をさせているようで気が進まないわけよ」 

 俺の話に、少しだけ考え込んでいるようであった。が、その回答は如何に……。

 

「わかった。話せる範囲のことは話す。しかし、どうしても話したくないことについては黙秘させてもらう。黙秘したことについて知りたければ、詠唱をかけるなり乱暴をするなりしてくれ。どうせ、私は不敬罪により処刑される……」

 不敬罪ね……。さすが王国だな。不敬罪なんて法律、現代社会じゃなかなか聞かない……。


「それでいい。ありがとう」

 俺は一言、礼を言った。

 そして、彼女は今回の事の顛末について話し始めた。まったくの想定外である、事の顛末を……。


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