第8話 ネージュ会談 ③

 相手の狙いはおそらくフェリシテであろう。それは間違いない。問題は、俺たちが通るルートと、その日付が漏れていたということだ。王族の移動と、それに伴う情報は、基本的に極秘情報である。

 一体誰が……。

 相手がこちらの動きに気がついたようであった。クオリティχ《カイ》の詠唱を受け、しかし無傷の俺を見た相手は、さてどのような反応をするだろうか。

 相手と俺は、互いに少しずつ近づいていく。相手との距離もだいぶ近くなった。

「お前、よくもまあ生きてたな」

 最初に声を出したのは、相手の方であった。全身深い紺色の服を着ており、フードを深く被っている。さらに仮面をしているため、相手の顔はわからない。

 仕方ない、あの仮面をいで、誰からの誰からの差金かを教えてもらうか……。

「まあな……、どうやら戦闘能力はお前よりも上だったみたいだ」

 こんな感じの話し方でいいのか……? 少し煽りすぎてはいないだろうか? 

「それで、お前は誰に言われてここへ来た? 」

「そのようなこと答えると思うか? 」

 そりゃそうだ……。

 さて、どうしようか。少々面倒臭い。さっさと殺してしまってもいいのだが、それでは誰からの差金かがわからない。かと言って、生け取りにできるかと言われると、それも少し微妙である。俺の戦闘スタイルは、明らかに生け取りに向いていない。

 このようなことを考えていると、相手の方が再び話し始めた。

「それよりも貴様……。先ほどの発言は少々、図に乗りすぎではないだろうか? 」

「『先ほどの発言』とは何であろう? 」

「よくもまあ、抜け抜けと……。だと? 」

 ああ、そういえばそんなことも言ってたっけ?

 あんなん、勢いで言っただけなのだから、聞き流せよ……。

「あんまり、舐めるなよ」

 その言葉と同時に、相手は戦闘体制に入った。

 何から来るか。

「詠唱! 震天動地τ《タウ》」

 やはり相手の詠唱のクオリティは総じて高い。相当レベルの高い殺し屋ということだろうか……。

 相手の詠唱の発動によって、俺を中心として三メートル周囲の地面が振動し始める。加えて、俺自身にものすごい重力がかかり始めた。

「死ね! 」

 爆音が周囲に鳴り響いた。その音とともに、俺がいたところには直径六メートル程の大穴が空いていた。その穴は深すぎて、底が見えないほどである。

「さすがに死んだか……。さて、王女の命をいただこう」

「誰が死んだって? 」

 俺は、その殺し屋の後ろに立っていた。ナイフを首に突きつける。

 相手の表情は見えないが、おそらく冷や汗でもかいて硬直していることだろう。

「だから……、なぜ生きている……? 」

「うるさい」

 俺は、相手の両膝に低クオリティの詠唱を当てた。両膝を怪我した相手は、そのまま膝から崩れ落ちる。

 さてと……、話でも聞きましょうか。

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