第5話 アトラスの本音
俺とアトラスは、小さい書斎のような部屋に来ていた。
こんな部屋があったのか……。こぢんまりとして、薄暗く、本棚で囲まれたこの部屋では、読書なんかが捗りそうだ。
「そこに腰掛けてくれ」
アトラスは
しかし、この父親は昔からあれだな。相手が自分よりも年下でも驕った態度を取らないな。
「それでお父様、お話しとはなんでしょうか? 」
「まあ、待て」
いきなり本題に入ろうとした俺を、アトラスは制した。
なんだ? 親子水入らずで話したいわけではあるまいし……。
「エクラ、お前は強い」と、アトラスは話し始めた。
いきなり話し始めたと思ったら、なんだ急に? 俺を褒めても何も出てこないぞ……。
「お前は、八年間に渡る訓練の中で、どれほどそのことに気がついていた? 」
…………。
これは疑問文だよな。疑問文ってことは何かを答えた方がいいってことだよな……。しかし「どれほど気がついていたか? 」など知るわけもない。俺は、実践形式の演習含めほとんど国内にいた。本物の実践を見たことなど、ほんの数回しかない。そこでも、俺はほとんどを見学で終えた。そういう意味では、俺は実践経験がない。そんな俺がどれほど強いかなど、果たしてどうやって見極めればいいのか……。
「いや、正直自分が強い側であるという意識は、あまりありませんでした……」
まあ、こんな感じの回答が妥当であろう。
「そうか……。では、自分の物覚えが異様に早いこと、上級詠唱も、そのほとんどにおいて習得できたことについてはどう思っていた? 」
どうかと言われましても……。
たしかにそのきらいがあるという意識は多少あった。俺は詠唱、学問の知識を含め、今までにないくらいスラスラと頭に入ってきているように感じていた。だがな……、仮にそれが事実だとしても……。
「だいたい、皆が似たような経路を辿るのであろうと思っていました」
「なるほどな」
アトラスは少し笑いながら答えた。何も面白いことなど言ってないと思うが……。
「まあ、わかった。おそらく今のお前の実力は国内においても、また揉め事が絶えない二つの隣国を含めても、かなり上の方にいると自覚しておけ。もちろん油断をしてはいけない。これは教えた通りだ」
たしかにこの父親、油断をすることだけは絶対にならないと再三言ってたっけ。俺たちは王族を守るのが仕事であると。俺たち騎士が自分の身を守るだけなら、多少油断していても問題ないかもしれない。しかし、他者の命を守るとなると話は変わってくる。自分の命を守ることと、他者の命を守ることとは、その難易度がまったく違うのだと。
「もちろん、承知しております」
アトラスは「ならいい」と小さな声で答えた後、本題に入ろうとした。
「そのことを踏まえて、話しておかなければならないことがある。来週、フェリシテ様がネージュで行う会談についてだ」
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