第4話 見えないところで
「エクラ、紅茶を持ってきなさい」
…………。
この王女、騎士と奴隷の意味を混同してるんじゃないのか……。
「へ・ん・じ」
「はい! 」
こんな感じで、俺の異世界での仕事が始まった。
王女は非常にわがままというか、身勝手というか、しかしそれでもけして嫌な人ではないことも少しずつわかってきた。特に、言葉遣いは悪いものの、誰かの陰口を言ったりしないという点が本当に好印象であった。俺の生前の世界では、とてもじゃないけど見ていられない、聞いていられない現状が目の前に広がっていたからな。
また、最初の頃は意識していなかったが、見た目もさすが王族と言えばいいだろうか。よく見るとたいそうな美人であった。黒髪美少女という言葉で形容されそうな、そんな見た目をしていた。
「紅茶、お持ちしました」
「うん……、ありgt」
え? なんて? 声が小さすぎてきこえねぇよ。いつもの威勢の良い声で話してくれよ。と、まあこんな感じの日常を過ごしていた。
ある日のこと、俺が自分の自由時間に宮廷内をうろうろしていると、一つの部屋から厳しめな強い口調の言葉遣いが聞こえてきた。俺は、少し戸を開けて中を確認してみた。
「もっと、姿勢を正してハキハキと話してください。あなたは、一週間後から国の代表としての仕事があるのですよ」
「はい! 」
「では、ここから再び読み始めてください。背筋は伸ばして! 内容はほとんど覚えるくらいの気持ちで! 周りの記者の方々に視線を向けられるように! 」
「はい! 」
そう言えば、来週から隣国の「ネージュ」に外交の仕事があるとか言ってたっけ……。その時の、記者団への会見の練習か。こりゃ大変だな……。
「エクラ」
「はい? 」
俺は急に自分の名前を呼ばれ、随分と間抜けな返事をしてしまった。振り向くと、そこには自分の父親であるアトラスが立っていた。
「少しいいか? 」
父親であるアトラスはこの国の現国王の第一騎士である。かつての訓練の時に、さまざまなことをこの男から俺は習った。強さも正直尋常ではなかった。それは、訓練を重ねて、日々成長していた自分にこそ痛いほどわかった。
「はい、伺います」
過去を振り返ることがあるとすれば、俺はこの辺りから不穏な空気が漂っていたと答えるかもしれない。
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