第3話 第一騎士

 気がつけば八年が経過していた。

 訓練は過酷を極めた。俺の今までの人生の中で、最もしんどい八年間であったと言って過言ではない。毎日の起床時間から、訓練メニュー、学問の授業に至るまで、すべてのスケジュールが管理されていた。

 俺は、という任務を完遂できるようになるために、毎日を訓練に捧げた。いや、捧げざるを得なかった。こちらに断る権利などなかった。すべてが強制である。

 しかし妙なことに、過酷であることと苦痛であることは両立しなかった。毎日大変ではあったが、ハリのある日々であったこともまた事実であった。

 思えば、俺は生まれてから真剣に物事に取り組んだことなどなかった。毎日を、その特別な日々であるはず毎日を、乱費していた。ただ過ぎてく時間に、生きる意味を見出したことなどなかった。だからこそ、ここでの生活は充実していた。成長を実感できた。生まれて初めて、生きていることを実感できた。今までの何事でもない日々が、何事にも代え難い日々に変わった。そうであるからこそ、毎日を一生懸命に過ごせたのである。

 そんな日々を過ごしていると、八年という歳月もあっという間であった。俺自身の体格も、年相応に成長した。


 そして、この訓練の日々が目指していたことが実現しようとしていた。すなわち、王女の護衛の任命である。

 この日、この国の第二王女であるフェリシテの成人の義が執り行われていた。この国では十八歳から成人扱いとなる。そして成人した王族には各人に、第一騎士と呼ばれる護衛者が任命されるようになっている。

 俺がこのフェリシテの第一騎士になるというのが、詰まるところ俺の身の上話であるのだが……。


「あなたがエリクね。まあまあの顔ってところね……。まあいいわ。とにかく、あなたは私の第一騎士なのだから、私の言うことには従うように。あと、私の機嫌を損ねないように。わかった? 」

  問題は、俺が任務に就く王女には、一癖も二癖もあったということだ。

「わかった? わかったのなら返事をしなさい」

「はい、承知しました」

 初対面からこの言葉遣いかよ……。まあ、王族ってのはこんなものか……。

「わかったのならいいわ」

 なんだよそれ……。

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