第2話 誇りを忘れないように
俺が、いわゆる死亡をしてから目を覚ますまでの時間において、一体全体何が起きたのかなんて知る由もない。ただ、目を覚ますと、そこには見慣れない天井が広がっていた。
「エクラ様。そろそろ起きてください。朝食の支度ができていますよ」
どうやら俺はエクラと名付けられているらしい。
体を起こし、周囲を確認すると、俺は驚くほど大きいベッドの上にいた。
なんだ……、この大きさのベッドは。ダブル以上あるんじゃないだろうか……。ダブルの上って何だよ……。クイーンだっけ?
「エクラ様、お着替え、ここに置いておきますよ。着替えたら、朝食に来てください」
そう言って、おそらくお手伝いさんと思われる女性は部屋を出て行った。
俺は一人になった部屋の中を散策していた。文字通り信じられない大きさの部屋であった。俺の生前部屋は、六畳一間の、一般的な一人部屋だった……、と思う。何が一般的かなど知る由もないが。
対してこの部屋は、一体、何畳あるのだろうか……。俺は部屋を歩きながら、部屋にあるインテリアの一つ一つを見て回った。どれもおそらく高級なのであろう。椅子や机、棚に至るまで、全てのものが洗練されている。
そしてふと見ると、そこには大きな姿見が置いてあった。
俺はこの姿の自分と初めて対面した。
…………。
小さい男の子、というのが俺の持った感想であった。というか、それ以外感想を持ちようがない。この顔は……、美形なのであろうか? 幼少期の顔なんて、あまり参考にならないからな。この顔が成人を迎えるころには、どうなっているのだろうか。
俺がこの部屋を散策すること十数分。
思い出した! 朝食を取る時間だったらしい。俺はすぐさま着替えて、部屋の外に出た。部屋の外は、これまた大きい造りとなっていた。大きな廊下が奥まで続いている。その間にいくつもの部屋があって、また下へ向かう階段と、上へ向かう階段とがあった。
何階建ての建物なんだか……。
俺はゆっくりと進み出した。今までの人生で経験したことのない、この場違い感。正直居心地が悪い。どこの部屋に行けばいいのかなんて当然わからない。
「エクラ様! 早く! 」
突然聞こえた声は、どうやら下の階から発せられたらしい。俺は下の階へと向かった。いくつかあるうちの一つの部屋に入ると、そこには俺自身を除いて計五人の人間がいた。
一人は先ほどから面倒を見てくれているお手伝いさんと思われる人。
一人は……、これはおそらく父親であろう。とてもガタイのよく、威厳の感じられる素敵な大人だ。
こちらは母親か……。美人だ。さすが、金持ちには美人の女性がくっつくものだ。
そして……、二人の兄弟だろうか。先ほど見た自分の姿よりは成長しているように感じられる。ということは、俺の兄貴が二人ということになるのか。そして俺が末っ子であると。
なるほどなるほど。だいたい家族構成が見えてきた。
「エクラ様、どうぞこちらにお座りください」
俺は促されるままに座った。食卓には、朝から豪勢な料理が並べられている。どれもとても美味しそうだ。それを皆が囲んで食べているのだが、どういうわけか、会話が少ない。
なぜだ……。喧嘩でもしているのか? それともそもそも仲が悪いのか……。どちらにしても最悪だな。是非ともやめてほしい。
「エリク、エリクが十歳を迎えられたことを、私はとても光栄に思う」
突然話し始めたのは、おそらく父親である男からであった。
それより、俺十歳なんだ。なるほどね。いやー、まさか自分が十歳を再び迎えるとは思っていなかったからな。これは面白い。そんな生ぬるいことを、俺は考えていた。
「エクラ、今日から厳しい訓練が始まるが、けして弱音を吐かないように。私たちは、誇り高き、歴史ある、王族の護衛一族なのだから」
……………………。
「え? 」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます