第6話 一ノ妃様の占い
そして
廊下に貼られた順位を指さしら梅梅が目を丸くする。
「わあ、明琳、首席です! すごいです!」
考試の結果、私の成績は首席だった。
一度目の時は一度も静に勝てなかったのに。
必死に勉強したかいがあったわ。
まあ、一回目の考試の内容もなんとなく覚えてあたから、他の子よりは有利よね。
「ありがとう。猛勉強したからね」
私は梅梅に微笑んだ。
チラリと静を見ると、青い顔で唇を噛み締めずっと下を向いている。
「わっ、私の名前もありました! 奇跡です!」
梅梅がおさげをぴょこぴょこさせながら飛び跳ねる。
そう、一度目の人生では一回目の考試で脱落した梅梅も、今回は八人の候補の中の一人に残ったのだ。
今回は腕の怪我を免れたし、私も勉強を教えてあげたからそのお陰かもしれない。
「また一緒に頑張りましょう」
「はい、頑張りましょう!」
二人で抱き合い、笑みを交わす。
そして巫女の選抜期間後半戦が始まった。
ここからが巫女考試の本番とも言える。
筆記だけでなく、巫女としての実技考試が始まるからだ。
天候や作物のできを占ったり、宮廷の官吏や後宮にいる女官を占ったりして、その的中率を競うのだ。
一回目の人生でも、私の占いは静と同じ程度の的中率があった。
今回は、筆記では静を上回っていたし、占いも普通にやれば勝てるか、引き分けぐらいにはなるはず。
いや、それどころか私は前回の占いの結果をほとんど知っている。
有利どころの話じゃない。
そう思っていると、急に巫宮が騒然となった。
「皆さんご静粛に。一ノ妃様がいらっしゃいましたよ」
巫長の声がして顔を上げる。
来た。
前回の生を思い出す。
前回は、なぜか私が一ノ妃様を占うように言われたんだっけ。
占いでは南東の方角に行くのが吉と出て、それを信じた一ノ妃は
そして私は、一ノ妃様暗殺を企てたと容疑をかけられて処刑されてしまう。
だから、今回の人生では絶対に一ノ妃様を占わないようにしないと。
私が固く心に決めていると、ほどなくして一ノ妃様がやってきた。
「失礼いたします」
鈴音のように透き通った声が部屋に響き、妙齢の女性が部屋に入ってくる。
透けるような真っ白な肌に、絹糸みたいな美しく長い黒髪。
花のように美しい上品で知的な美女、一ノ妃様だ。
花の刺繍が施された藤色の上衣も白い絹の
ああ、一ノ妃様美しい……って、見とれてる場合じゃなかったわ。
一度目の時は、たまたま見学にいらした一ノ妃様と目が合って占いをする事になったんだっけ。
今回は絶対に目が合わないようにしないと。
私は書物に視線を落とし、忙しいふりをし必死に後ろを向いた。
「ところで、この中で一番占いが得意なかたはどなたかしら」
一ノ妃様に尋ねられ、巫長が答える。
「それでしたら、あちらにおります紅明琳が得意としております」
ええっ!
目を合わせないようにと頑張っていたのに、まさかの巫長からの指名に、心臓が変な音を立てた。
占いだったら静も的中率が良いし巫長だって得意なのにどうして。
「わ……私ですか!? あ、あのう、私より静さんのほうが占いに長けているのでは――」
おずおずと静に目線をやると、静は静かに眉をひそめた。
「申し訳ないですが、私はこれから二ノ妃様を占うことになっておりますの」
そ、そんなあ。
背中に妙な汗が伝う。
「ええ、ですから紅明琳。早くこちらへ来なさい。これは巫長である私と一ノ妃様からの直々の頼みですのよ」
巫長の有無を言わさぬ口調に、おずおずと前に出る。
「はい」
どくんどくん。
心臓が変な音を立てて鳴る。
仕方ない。こうなったら腹を括ろう。
私は前に進み出ると、頭を下げた。
「紅明琳と申します。私のごとき見習い巫女が、一ノ妃様の占いを任せていただけるだなんて、身に余る光栄にございます。本日はよろしくお願いします」
一ノ妃様は大輪の花のような笑顔で微笑んだ。
「いえいえ、あなたの評判は聞いておりますわ。あなたにはぜひ、私の今週の運命を占ってもらいたいの」
「は、はい」
挨拶を済ませた私たちを、巫長が促す。
「さあ、こちらへ」
私と一ノ妃様は、巫長に案内され、二人で奥にある特別な個室へと向かった。
どうしよう。
あ、でも外に出かけると大蛇に襲われる運命だって分かってるんだから、反対に外に出かけないように助言すれば良いんじゃないかしら。
よし、その手でいこう。
私は神妙な顔で一ノ妃様の前に座ると、ばらばらと占いに使う棒、
「一ノ妃様は……とても悪い運勢がでています」
私はできる限り神妙な顔つきで言った。
「まあ、厄災が」
私の占いに小さく眉を顰め、口に手を当てる一ノ妃様。
私は慌てて付け足した。
「でも大丈夫です。できる限り外出せず、部屋でじっとしていれば厄災は避けられるでしょう」
私の占いを聞き、一ノ妃様が安堵の表情を見せる。
「なるほど、良かったわ。外に出なければ、厄災を避けられるのね」
「ええ、そうです」
私は自信たっぷりに答えた。
だって占いなんかしなくても一ノ妃様の今後は分かりきっているのだもの。
「ありがとうございます。助かりましたわ」
一ノ妃とお付きの女官が頭を下げて帰っていく。
ふう。
私はほっと胸を撫で下ろした。
これで一ノ妃様が大蛇に襲われる運命は回避できたはずよね?
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