第25話 ハートフル 美味さ届けに 駆けてゆく かやのバーガー 紫陽花の華・後半

 そして迎えた、みのおフードマルシェ当日。空は快晴、雲一つ無い。青空の下、たくさんの店が広場に出店していた。まだ、開店前の準備中といったところで、それぞれのスタッフが準備をしていた。

 我らがアロハエンジェルバーガーも開店準備中だ。幸隆と王は設備機材の最終チェックをしている。かやのはある程度仕込みが終わったのか、キッチンカーの前に立ち、腕を組んで完成した車を見渡している。

 天使の翼を模した看板に書かれた『アロハエンジェルバーガー』の文字。キッチンカーの前にはレジカウンターと、『THE萱野バーガー』と書かれ、ハンバーガーの写真が写った立て看板。それを眺めるかやのには、かやの専用アロハシャツ。背中から胸に伸びる一枚の大きな片翼が、お洒落で恰好良い。

 そんなかやのの前に、ユニフォーム姿のメンバーが集まってくる。かやのと皆が顔を合わせて、自信に溢れた表情で頷き合う。準備は出来た。


「やるぜ、お前ら!」

『オーーーー‼』


 いざ、開店!



 ジューッと鉄板でパテが焼かれ、油が細かく踊るような、美味しそうな音と匂いが周りに漂ってくる。かやのは前を開けたアロハシャツの裾をバストの下で結んだスタイルで、手際よくテキパキとハンバーガーを作っている。


「王、バーガーとポテト包んどいてくれ」

「分かっタヨ、かやのサン!」


 王はかやのの隣で調理補助をこなす。

 キッチンカーの外では西小路と紅葉がオーダーの聞き取りをしている。


「THE萱野バーガーのDセットをお一つですね。ありがとうございます!」

「THE萱野バーガーのPセットとTHE萱野バーガーのDセットがお一つずつですね。これでしたら、ポテトとドリンクがセットのフレッシュ&ピースかやのちゃんバーガーとTHE萱野バーガーの方が少々お得になりますが、いかがいたしますか?」


 ちなみに『Pセット』はバーガーにポテトがついたセットで、『Dセット』はドリンクがついたセットの事だ。『フレッシュ&ピースかやのちゃんバーガー』はバーガーにどちらもついたフルセットとなっている。

 ローガンは客引きを担当。ボディビルダーで鍛えた笑顔が眩しい。


「HEY! ボーイ&ガール! アロハエンジェルバーガー、ベリベリーデリシャスデースヨー?」


 幸隆は会計だ。一応レジスターは置いてあるが、全て暗算で早く正確にこなしている。


「計、千三百円になります」


 レジスターの隣でマスコットのように、大人しくちょこんとお座りしている稲壱が、会計後の客に次世代アニーゴを介してお礼を言う。


『アリガトウ。ウレシイ』


 そしてエイクと桃音は商品の受け渡しを担当している。


「えっと、THE萱野バーガーPセットです・・・・・・ありがとうございました」

「フレッシュ&ピースかやのちゃんバーガーのお客様ですね! こちら商品となります。ありがとうございまーす!」

『オイシソウ。タベタイ。オナカスイタ』


 石丸は二人の受け渡しの様子をじっと見ながら、マイペースな発言をしている。これはこれで、客から可愛いと褒められている。


「え~! なにこの子~! チョー可愛いねんけど~!」

「さっきの狐ちゃんもお行儀よくて可愛かったやんな~!」


 特に女子高生や女性達に好評のようだ。


「受け渡しの子、めっちゃ可愛いやん」

「あの外国人の人、すっごいイケメンやったー」


 受け渡し役の二人も、それぞれ男女別に人気を出していた。



 開店から好スタートを切ったアロハエンジェルバーガーだったが、お昼時で注文が多くなってきた。その際に、エイクが受け渡した商品を間違えてしまい、中年女性の客がレシートを持って戻ってきた。


「なぁ、兄ちゃん、これ中違うねんけど!」


 そう言って、袋の中を開けてエイクに、受け取った商品を見せる。中にはハンバーガーとアイスコーヒーが入っていた。


「うちが頼んだの、ドリンクセットやのうて、ポテトセットやで!」

「あっ、た、大変申し訳ありません!」


 エイクが客にペコペコと頭を下げていたところを、


「お客様、大変申し訳ございません。すぐにお料理の方、ご用意させて頂きますので、少々お待ち下さい」


 西小路がすかさずフォローに入り、中年女性客に頭を下げる。そしてキッチン内のかやのに聞こえるように、少し大きめの声で足りない料理の追加オーダーを入れる。


「かやのちゃん、すぐにポテト一つ追加で出せるー?」

「おうよ! 王、ポテト一つ包んでダンテに渡してくれ」

「分かったヨ~! ホラヨ、西小路」

「ありがとう、王君!」


 王からポテトを受け取り、女性客の袋の中にポテトを入れる。


「大変申し訳ありませんでした。ドリンクの方はサービスとして受け取って下さい。あと、こちらのバンダナですが、こちらもよろしければどうぞ、お受け取り下さい」


 西小路は頭を下げながら、こっそりと女性にバンダナを一枚添える。これはバーガーとポテトとドリンクのフルセット『フレッシュ&ピースかやのちゃんバーガー』を注文した客のみに付く特典だった。

 西小路のとっさのフォローで、中年女性も機嫌を直して店を後にした。


「あの・・・・・・西小路君・・・・・・あ、ありがとう」


 少し涙目になっていたエイクは西小路に感謝する。そんなエイクに西小路はニッコリと笑って、ウインクを送る。


「エイク君、気にしないで!」

「西小路君・・・・・・」


 エイクは西小路の優しい対応に心をときめかせて、オーダー係に戻る彼の後ろ姿を見つめる。


「エイクさん、ドンマイです! 次頑張りましょ~!」

「う、うん・・・・・・ありがとう、桃音さん」


 エイクの肩をポンポンと優しく叩く桃音。



 一方、車内の調理場では、


「予想してたよりも売り上げてんな。このままじゃ在庫足んねぇぞ」

「かやのサン、ジュースと氷も残り少なくナってキたヨ!」

「誰か手が空いてる奴に買い出し頼みてぇところだな。おい、エイク!」


 かやのはエイクに声を掛けて、西小路を呼んでくるように言う。エイクは言われた通りに、西小路を呼びに行った。


「どうしたの、かやのちゃん!」

「このままだと在庫が足りねぇ! 誰か買い出しに行かせてくれ!」

「わかったよ、かやのちゃん!」


 かやのはメモを書いて、西小路にそれを渡す。西小路はレジからお金を借りて、紅葉とローガンを呼ぶ。


「紅葉ちゃん、ローガン、これから買い出しに行ってきてほしい」


 紅葉にメモとお金を渡す西小路。


「OKさ、グレートフレンド!」

「分かりましたわ!」


 紅葉とローガンは買い出しに行き、西小路は紅葉が抜けた分、一人でオーダーをこなす。オーダー数が少なくなった事で、調理のスピードもその分下がり、二人が帰ってくるまでの間は在庫も持ちこたえられそうだ。それに西小路の方でも、在庫に余裕があるメニューをオススメするなどの接客フォローも功を奏している。



 そんな中、春日店長が客として、アロハエンジェルバーガーの様子を見に来てくれた。


「かやのちゃん、頑張ってるわね!」


 春日店長が列に並びながら、店や客の様子を見渡す。色んな客層がおり、高校生や大学生、体を鍛えていそうな人達に外国の人。親子連れやペット連れ、様々な人が列に並んでいる。そしてそれらを捌く西小路と、厨房で汗をかきながら料理を作るかやのが目に映る。


「ちょっと~、アンタ受け渡しの子にめっちゃ鼻伸ばしてたやろ~?」

「そういうお前かて、隣の外国人にすげぇデレデレしてたやんな」

「え~? してへんよ~」


 商品を受け取った高校生カップルが、笑って互いにヤキモチを妬くような会話をしながら去っていく。


「あっ、西小路さん。その節はありがとうございました」

「美樹さん! 来てくれたんですね。ありがとうございます」


 美樹も客で来てくれていた。互いに軽く挨拶を交わす。


「あら~、探偵さんじゃな~い! ということは・・・・・・あっ、やっぱり、あのパワフルなお嬢ちゃんもいるわね~! お嬢ちゃ~ん!」


 アイとマコトも手を繋いで列に並んでいた。アイはオーダーを取りにきた西小路に話し掛けた後、かやのを目で探して、厨房に彼女が居るのを見つけて手を振った。かやのもアイの声に気付いて、窓からニカッとしながらコテを持つ手を振った。


「ア、アイちゃん、ボ、ボクはあっちで場所取ってるよっ!」


 マコトはかやのから受けた痛みを思い出し、股間を押さえてベンチの方へ小走りで走っていった。



 そろそろ在庫もヤバイ、その時だった。ローガンが大量の買い物袋を腕に掛け、荷物が乗ったカートを押しながら戻ってきた。彼の後ろで紅葉もパン等の軽い荷物を持っている。


「お待たせしました、かやのさん!」

「これで在庫チャージデース!」

「サンキュー‼ ローガン! 紅葉!」


 かやのは安心した顔で、二人に礼を言う。紅葉がカートを戻している間に、ローガンはキッチンカーに荷物を積み込む。そして再び、二人はそれぞれの持ち場についた。



 それからなんとか昼のピークは乗り切った。仕込みと休憩の為、一時閉店にする。かやのは額の汗を拭いながら、ふぅと一息つきつつ、仕込みを始める。

 桃音達も休憩で落ち着いたのか、かやのに作ってもらった賄(まかな)いをつまみながら、頭に巻いたバンダナをアレンジして遊び始めた。桃音はエイクの帽子を取って、代わりにバンダナを彼の髪につける。自分のと同じように、リボンにしたりしている。


「エイクさん、可愛い~! ホントに女の子みたい!」

「も、桃音さん・・・・・・」


 エイクは恥ずかしそうだが、「可愛い」と言われて嬉しいのか、桃音にいいようにされている。

 その様子を眺めていた紅葉は、バンダナを色んな巻き方でアピールする事で、セットがもっと売れるかもと思った。そして紅葉はバンダナを紐状に折って、それを二本結んでローガンの二の腕に巻いて結んだ。


「こうしたら戦士みたいでカッコいいですわ」

「OH・・・・・・サンキュー、ミス・紅葉」


 ローガンは思いもしない紅葉の行為に、うっとりとした表情を浮かべる。


「拙者も・・・・・・」


 幸隆もバンダナを鉢巻みたいに折って、額に巻いた。それを見ていた桃音は、


「やめてよ~、お兄ちゃん! 恥ずかしいでしょ!」


 と、幸隆に慌てて帽子を被せる。


「拙者も戦士みたいでゴザろう!」

「お兄ちゃんがやると、みっともないからダメ~!」


 かやのは仕込みも一段落つき、ふと窓の外を見る。斜め向かいにたこ焼き屋の屋台が見えた。そこのスタッフのねじり鉢巻き風のタオルを見て、彼女は目を輝かせる。


「アレかっけぇ! 俺もする!」


 そう言ってバンダナを外し、それをねじって鉢巻きにする。


「・・・・・・っしゃあ!」


 頭にぐっと鉢巻きを結び、気合を入れる。明らかにかやの一人だけ、雰囲気が違う。それを隣で見ていた王も静かに真似をした。毛色が違うのは二人になった。

 紅葉も自分のバンダナをリボン風にして髪に巻く。西小路もこの案には好印象で、紅葉にバンダナを首に巻いてもらっている。ネクタイ風でお洒落だ。

 西小路はこのバンダナネクタイを気に入った様子で、女の子みたいなリボン姿のエイクを見て、


「エイク君もこっちの方がカッコいいよ」


 そう言って、エイクの頭のリボンをほどき、ネクタイにして彼の首に結んでやる。


「あ、ありがとう・・・・・・」


 間近に迫る西小路の顔に照れて、エイクは視線を首のネクタイに逸らす。きっと彼にとっての緊張は今がピークだろう。



 そうこうしているうちに広場に訪れる客が増えてきて、束の間の休息が終わる。キッチンカーの前には、再び列が出来始めていた。

 オーダーを取り、再び順調に料理を提供していたが、問題が発生した。かやのが鉄板でパテを焼いている時に、突然キッチンカーの電気が止まった。空調も切れた。バッテリー切れを起こしたのだ。

 王が何度も電源を入れようとしても全くつかない。


「バッテリー切れ起こシタヨ!」


 バッテリー切れは想定外だったようで、予備のバッテリーの事はすっかりと抜けていた。


「マジかよ・・・・・・・・・」


 意(い)気(き)消(しょう)沈(ちん)するかやの。その横で王は必死に機材をいじっている。いち早く異常を察知した幸隆がレジを止めて機材の状態を確認し出す。

 その様子に気付いた西小路は急いでかやのの元に向かった。


「どうしたの⁉」


 慌てて車内のメンバーに声を掛けた。


「バッテリーが切れたンダヨ!」


 焦る王が西小路にトラブル発生を強く訴える。周りのメンバーもキッチンカーに集まってきて、状況を察知する。万事休すの状態だ。客もざわつき始めている。


「かやのさん・・・・・・残念ですけど、今日はこれでお店を・・・・・・」


 紅葉が閉店を促そうとした瞬間、それまで沈黙していたかやのが口を開く。


「・・・・・・ダンテ。カセットコンロを買ってきてくれ」

「え?」


 かやのの目はまだ諦めていなかった。かやのは自分が持ってきていたリュックを漁る。


「俺は最後までやりてぇ・・・・・・・・・俺は負けたくねぇ」


 リュックから鉄のフライパンと鉄の中華鍋を取り出す。もしもの時の為に持ってきていたらしい。


「わかったよ、かやのちゃん!」


 そう言って、カセットコンロを買いに走る西小路。その間に、紅葉や桃音は機材トラブルの為に、調理が遅れる旨を列の客に説明して回った。

 そんな中、幸隆がハッと何かを思い出し、かやのに提案する。


「そうだ! あれがあったでゴザル! かやのさん、うちのバッテリーを持ってくるでゴザル! 撮影機材用に満タンにしてある物があるナリ! 車で取りに戻るでゴザル!」

「頼む! 幸隆!」

「御意!」


 幸隆が自身の車を使ってバッテリーを取りに帰っている間、西小路が急いで買ってきたカセットコンロを使い、注文を捌き始める。

 しかし、やはりフライパンと中華鍋のサイズでは、本来こなせる数の1/3以下。注文を取る際も「お時間を頂きます」と断りを入れているが、それに焦れた客は列を離れて別の店に流れていく。

 だが、注文数が減ったとはいえ、六月下旬のこの時期に、エアコンのつかない車内は灼(しゃく)熱(ねつ)のサウナ状態だ。火と煮え油の放つ熱もある為、まるで地獄の空間と化していた。

 かやのも王もとても辛そうで、特に王の方がひどく弱っていた。それは当然だ。かやのはキッチン経験があるが、王は素人だ。むしろここまでよくやってくれた。それを思ったかやのは、


「王、もういい。お前は休んでろ」


 王の肩に手を置き、彼に無理をするなと伝える。しかし、王は、


「か・・・・・・かやのサンだケに、この辛さ味あワせルの、オレは嫌ヨ」


 じっとかやのの目を見つめる。王の瞳のそれが、まるで歴戦の戦士のように見えた。


「・・・・・・お前」


 王の強い眼差しの中に漢を見たかやのは、彼の覚悟を受け止め、そして認めた。



 灼熱のキッチンで頑張っているかやのと王に、西小路がアイスパックや冷たいスポーツドレンク等を差し入れて、二人のサポートをする。そしてかやのも王に塩とトマトを渡し、自分も食べて熱中症対策をしている。

 そんな努力や我慢が背景にあっても、客からすればそんなものは関係ない。チラシを持って、かやののハンバーガーを楽しみにしてきた客や、マルシェで評判になって、それに惹かれてやってきた客の全てを対応するのは難しかった。だから、文句を言いながら去っていく客も出ていた。

 おまけに急な豪雨にも見舞われた。それが追い打ちとなり、一気に客離れが進んだ。雨を避けて客が全員いなくなったのだ。しかも湿度が急に上がったせいで、蒸し蒸しして更に車内温度が上がる。

 レジが置いてあるテントに、メンバーが集まって雨宿りをする。客がいなくなった状況に、完全に絶望的だった。みんなも「もうここまでか」と、その言葉が喉から出かかっていた。

 しかし、ここで豪雨が弱まり、雨が上がった。ゲリラ雨だったようだ。そして―――。


「待たせたでゴザル!」


 幸隆が手押し車にバッテリーを乗せて、ガラガラガラッとタイヤ音を立てて、息を乱しながら現れた。


「お兄ちゃん!」

「幸隆! 早くバッテリーを交換してくれ!」

「任せるナリ!」


 幸隆が「よしきた」とキッチンカーのバッテリーの交換作業を開始する。さすが工学部、作業も手慣れている。


「あっ、すっごい大きな虹だ~‼ 綺麗だな~」

「まぁ、本当・・・・・・綺麗ですわ」


 桃音がキッチンカーの方を見ていたら、空に大きな虹と小さな虹が同時に架かっていた。桃音に釣られて紅葉が空を見ると、大小の虹が重なって架かっており、それを背にするキッチンカーは、まるで空を駆ける天使の車のように彼女の目に映った。

 そして、バッテリーの交換が終わり、車内に冷たいクーラーの風が流れてくる。かやのと王の表情が和らぐ。それと同時に厨房機器も復活した。


「っしゃあ! 鉄板復活したぜ!」

「それじゃあ、みんなでお客さん呼ばなきゃですね!」


 かやのの復活宣言に合わせて、桃音が明るい声で、皆に呼びかける。桃音の呼びかけに、西小路と紅葉がはっと顔を見合わせて頷く。ローガンは帽子を被り直し、エイクはネクタイを締め直す。幸隆は稲壱と石丸の頭を撫でる。そしてそれぞれが客の呼び戻しに走った。

 全員での呼び込みの甲(か)斐(い)あって、客足が徐々に回復していった。雨が上がった事も手伝って、再び長(ちょう)蛇(だ)の列が出来た。今回は先ほどとは違い、順調にオーダーを捌いていた。


「ノってきたぜぇ!」

「ご来店ありがとうございます! ご注文がお決まりでしたら、お伺い致します!」

「お待たせしました! フレッシュ&ピースかやのちゃんバーガーです!」



『それからマルシェが終わる時間ギリギリまで、かやのさんをはじめとする私達チーム・アロハエンジェルバーガーは、メンバー一丸(いちがん)となってラストスパートをかけました。それぞれの役割をそれぞれが一生懸命に頑張り、そしてお互いにフォローし合い、なんとか大成功を収める事が出来ました』


 紅葉が今日一日を感慨深く振り返る。


『青空の下で年齢を問わず、誰でも気軽に立ち寄れる市場―――』


 ショッピングモールの広場に立ち並ぶ店々。


『たくさんの人の笑顔や、作り手の温かい想いが込められた商品が並ぶイベント』


 その様々な店で商品を渡す人々に、それを受け取る人々。


『人と人との繋がりが、マルシェを照らす太陽のようでした』


 アロハエンジェルバーガーのメンバーが力を尽くして、笑い合う姿がそこにあった。



「ダンテ」


 汗を拭いながら、キッチンカーから降りてきたかやのが、西小路に声を掛ける。


「どうしたの、かやのちゃん?」


 振り返った西小路に、かやのが拳を突き出してニカッと笑う。


「サンキューな。これからも頼むぜ」

「・・・・・・っ! うん! こちらこそよろしく! ゼクス!」


 かやのから突き出された感謝の拳に驚きながらも、西小路はニッコリと笑いながら、コツンと拳同士を合わせた。

 二人のその光景をじっと見つめる石丸がいた。


『ヨカッタ。ヨカッタ』


 彼女の首の翻訳機に文字が表示されている―――。



 ―――石丸の見ている光景が一台のパソコン画面に映し出されている。それを見つめる一人の女性。彼女の風貌は眼鏡をかけた才(さい)色(しょく)兼(けん)備(び)なキャリアウーマンといった感じだ。その胸には『転(てん)生(せい)の女神』と役職が書かれている。

 彼女は卓上に置いたメダルケースを開き、金のメダルを一枚取り出す。


「あの時はどうなる事かと思いましたが・・・・・・今回は文句なし、ですね」


 女神が優しく微笑んだ。





SEASON1 春の章・完

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リアドラ ーReturn to the Draftー Tsuyoshi @Tsuyoshi-k

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