第24話 ハートフル 美味さ届けに 駆けてゆく かやのバーガー 紫陽花の華・前半

 かやのがアルバイト先のアロハカフェにて、ハンバーガーを丁寧に作っている。パテを鉄板で焼き、その間にオーブンでバンズを温め、野菜をカットし、ポテトをフライヤーで揚げる。パテが焼き終わったら、中はふっくら外はパリッと温めたバンズに、レタス、パテ、チーズ、トマト、ソース、を順に乗せて、バンズで挟んで串を刺す。皿にバーガーと塩を振ったポテトを盛り付けたら完成だ。あまりの出来の良さに、かやのもニッコリだ。

 店のドアが開き、新たな来客。西小路と紅葉だった。二人はいつものカウンター席に座り、二種類のバーガーセットを注文する。


「あいよ、お待ち」


 二人は「いただきます」と、かやのの作ったバーガーを頬張る。


「かやのちゃん、全然ブランクを感じないね」

「相変わらず、美味しいですわ」


 西小路も紅葉も、かやののバーガーに満面の笑みで舌鼓(したつづみ)を打つ。


「俺のバーガーはまだまだこれからも進化していくぜ」


 かやのはニヤリと笑いながら、器具の片付けと手入れをする。


「フフフ、かやのさんはマルシェに参加するもんね。どんどん進化しないとね」


 そこに店長の春日(かすが)ありさが、三人の会話に入ってくる。


「マルシェって、『みのおフードマルシェ』の事ですか?」

「みのおフードマルシェって?」


 紅葉と西小路が春日店長にマルシェについて尋ねる。


「青空の下で年齢を問わず、誰でも気軽に立ち寄れる市場で、作り手の想いが込められた商品や、人の笑顔が並ぶイベントっていうのをコンセプトに開催されているのよ」

「へぇ、じゃあ、かやのちゃんはそのイベントに参加するってことか」

「かやのさんのハンバーガーなら、大繁盛間違いなしですわ」


 春日店長の話を聞いて、紅葉はかやのの店が繁盛している所を想像していた。


「何が大繁盛なんですか、紅葉さん?」


 紅葉の後ろから、突然桃音がひょっこりと顔を覗かせる。桃音の後ろには幸隆もいる。


「あら、ごめんなさい。話に夢中で気付かなかったわ。いらっしゃいませ」


 春日店長に促され、紅葉の隣に桃音と幸隆が座る。


「そうだ、かやのさんに報告したい事があったでゴザル。かやのさんのおかげで動物語翻訳機、次世代アニーゴの調節が順調ナリ」

「おう、順調なら良かったぜ」


 幸隆がかやのと話している間に、桃音が兄の分と合わせて、ハンバーガーを注文。かやのが話しながら、調理を始める。


「それで、紅葉さん。さっきは何の話をしてたんですか?」


 紅葉は桃音にマルシェの話と、かやのがそれに参加する話をした。


「マルシェにかやのさんが参加するんですか? わー、面白そう! モネも一緒にやりたいです! 皆さんも一緒にやりましょうよ!」

「そうだね。かやのちゃん一人じゃ大変そうだし、僕も何か手伝うよ」

「私もかやのさんのお店をお手伝いしたいですわ」

「おっ、マジか! お前らサンキューな」


 桃音がマルシェへの参加を要望すると、西小路も紅葉も続いて手伝いを名乗り出た。それにかやのがニカッと良い笑顔で三人に感謝をする。


「で、お前はどーすんだ? 幸隆」

「拙者もでゴザルか⁉」


 かやのの突然の振りに、焦る幸隆。


「お前、『何でもする』って言ったよなぁ?」

「それはかやのさんの論文・・・・・・」

「何でもするって言ったよなぁ?」

「お兄ちゃんも手伝ってくれるよね⁉」

「うぅ、桃音まで・・・・・・。確かに『何でも』と言ったでゴザル。拙者も男。二言はないでゴザル。宣伝用のチラシ作りくらいなら、手伝えそうナリ」


 今になって己の言動の重さに気付いた幸隆だった。

 そこに今度はローガンとエイクの二人が来店する。


「OH~! エブリバディ、勢ぞろいデスネ~!」

「こ、こんにちは~・・・・・・」


 来店した二人を春日店長が接客する。


「ローガンとエイク君が一緒って珍しいね?」


 西小路が珍しい組み合わせだと、二人に声を掛けると、その言葉を待っていたとばかりにローガンが立ち上がった。


「よく聞いてくれた、グレートフレンド! 実はミスター・エイクにミーの肖像画を描いてもらっていたのデース!」


 ローガンはスマホを起動し、自身の肖像画の画像を西小路達に見せて回る。肖像画のローガンは『考える人』のポーズで、彼の肉体美が逞しく際立っている。



 そうこうしているうちに、かやのはアルバイトの時間が終わり、エプロンを外して皆との話の輪に入る。ちょうどエイクと桜井兄妹が自己紹介を兼ねて、雑談しているところだった。桃音はエイクのSNSを見ている。


「うわぁ! エイクさんの絵、すごい綺麗~!」

「そ、そんなこと・・・・・・」

「コイツの絵はマジでスゲェんだぜ!」

「か、かやのさんまで・・・・・・。あっ、ところでかやのさんはマルシェに向けて、何か準備はしてるの?」


 照れ隠しで話を逸らすために、エイクはマルシェの話を切り出した。


「うんにゃ」

「えっと・・・・・・ユニフォームとかも・・・・・・?」

「そんなもん、当然まだだ」


 何を言っているんだとばかりに、かやのはしれっと答える。


「えっと~・・・・・・かやのさん。逆に決まってるのって何ですか?」

「メニューぐらいかなー」


 桃音の質問に、かやのは能天気な顔をした。かやのの言葉に、周囲が急に話を進め始める。かやのは完全に置いてきぼりだ。


「ミス・かやのはヒジョーに能天気デース!」


 ローガンが信じられないという表情で、大げさな身振り手振りをした。


「と、とりあえず、拙者は宣伝用のチラシを取り急ぎ、これから作るでゴザル」

「そうですわね。お店の宣伝・・・・・・それにユニフォームのデザインなんかも、これから準備していきましょう!」

「うん。じゃあ、宣伝とユニフォームのデザインを手分けしてやっていこう」


 幸隆の言葉を皮切りに、紅葉と西小路が作戦会議を仕切る。


「広報部門とデザイン部門でゴザルな?」

「じゃあモネはデザイン部門を手伝いたいです!」

「ありがとう、桃音ちゃん! では私は広報部門を担当致しますわね」


 VRtuber(ブイアールチューバー)アイドルをしている桃音がデザイン部門を手伝ってくれるのは有難いと、紅葉が満面の笑顔を見せる。それに、ファッションに敏感な現役女子高生の意見が加わるのは非常に心強い。


「OH! ミーもバーガーを宣伝するデース! ミ、ミス・紅葉」


 紅葉が広報を担当すると聞いて、ローガンも意(い)気(き)揚(よう)々(よう)と挙手した。そして彼女の様子を窺うように、ドキドキしながら名前で呼んでみる。


「ローガンさんも、ありがとうございます」


 紅葉はローガンから下の名前を呼ばれても、嫌がる素振りはなく、笑顔で返した。ローガンは心の中でガッツポーズを決める。


「じゃあ、まとめると、広報部門が紅葉ちゃん、桜井先輩、ローガンと決まったら、僕は桃音ちゃんとデザイン部門を手伝うよ。他にもマルシェに向けて必要な準備はマネージメントしていくよ」


 西小路がメモ帳にメンバーをまとめた後、自分の役割も皆に伝える。


「ワ、ワタシも・・・・・・デザインなら何か役に立てるかもしれない」


 エイクは西小路の力になりたくて、おずおずとデザイン部門に名乗りをあげた。


「本当かい、エイク君! エイク君が手伝ってくれるなら凄く心強いよ!」

「う、うん・・・・・・いいよ」


 そんなエイクに、西小路はとても嬉しそうな顔で彼の手を握る。エイクの胸が高鳴った。


「じゃあ、デザイン部門は西小路さんにエイクさん、モネで決まりですね!」


 皆が自分の為に、こうやってあれこれ話し合って、協力してくれるという事に、かやのは思わずテンションが上がり、


「マジかー‼ お前らありがとな‼ おっしゃあ! 俺もやってやんぜ‼」


 右腕を上げ、やる気に満ちた顔で皆に感謝する。そしてエイクと幸隆と肩を組み、


「お前らもよろしく頼むな!」


 と、掴んだ肩をバンバン叩く。エイクは「う、うん」とかやのの勢いに圧倒されながらも、自分が必要とされている事に喜び、幸隆はかやのから巨乳を押し付けられ、完全に悩殺されていた。

 そんなかやの達の会話をキッチン越しから聞いていた春日店長は、


「良い仲間に恵まれて良かったわね、かやのさん。精一杯頑張ってらっしゃい」


 と、優しく微笑んだ。


「そういえば、何か肝心な事を忘れているような・・・・・・?」


 紅葉が指を頬に当て、何かを考えるように呟く。それに対して、皆は頭を傾け、「うーん」と悩み考える。

 すると、かやのが手をポンッと叩いた。


「・・・・・・! キッチンカーだ‼」



 翌日、大学寮のコミュニティー広場で、かやのと紅葉がキッチンカーのカタログをテーブルに広げて見ている。


「これなんてどうですか?」

「うーん・・・・・・鉄板が付いてねぇからなぁ」


 レンタル出来るキッチンカーのカタログをパラパラと見て、紅葉は鉄板搭(とう)載(さい)の車を指さした。


「これなんかハンバーガー調理にも適していそうな内装じゃないですか?」

「何か違うんだよなぁ・・・・・・なんつーか、見た目がダセェ」


 意外とキッチンカー探しが難航しているようだ。かやの曰(いわ)く、内装に鉄板とフライヤー、そしてオーブンが実装されているタイプで、見た目も彼女視点で格好いい物が良いらしい。

 二人が頭を悩ませていると、外の駐車スペースに大きなキャンピングカーが入ってくるのが、かやのと紅葉の目に留まった。


「あれだーーー‼」


 かやのがキャンピングカーを指さすと、その車から王(ワン)が大荷物を持って降車してきた。そしてそのまま寮のエントランスに入ってくる。


「王! お前の車貸してくれ!」


 かやのは王に走って詰め寄り、彼の肩をガっと掴む。王は状況がいまいち飲み込めないが、かやのが自分を頼ってくれた事に舞い上がっていた。


「も、もちろんヨ!」


 それから、王はかやのと紅葉にキャンピングカーの内装や機能を見せる。かやのは車の内装や機能に「おぉ!」と目を輝かせていた。

 王はかやのとのドライブを想定して、色々な機能を搭載して説明していたが、当のかやの本人にとってはそんな事はどうでもよく、


「これをこうして・・・・・・いや、こうか・・・・・・」


 と、キッチンカーに利用出来そうな性能を選別して、そこに追加する機能を考えていた。そして、かやのはポケットを漁り、


「王、これで車を改造してくれ!」


 1㎏の金インゴットを王に差し出す。かやのは前回の金の延べ棒を1㎏ずつ小分けし、その内の一枚を持っていたのだ。


「改造? よく分かラないケド、かやのサンが望むナラ、かやのサン好みに改造スルヨ!」


 王は結局、状況は飲み込めていなかったが、かやのの頼みならばと胸を大きく叩いた。



 紅葉はキッチンカーの事はかやのと王に任せようと思い、後日ローガンと一緒に幸隆の家に向かっていた。外は雨が降っており、道の端に咲く紫陽花が雨粒の雫で輝く。

 紅葉とローガンの二人が幸隆の家に到着すると、さすが幸隆といったところか、既に何パターンかのチラシ案が出来ており、二人に案を見せてきた。


「とってもグレートデスネ~、ミスター・桜井!」

「さすが桜井先輩ですわ。でも、私はもっとこうした方が良いかと思いますの」

「OH~! さすがミス・紅葉! ミーも良いと思いマス!」


 幸隆の案を見て、紅葉は自身のかやのへのイメージや、彼女の作る料理のイメージを幸隆に伝える。それを聞いた幸隆も、


「確かにそっちの方が、かやのさんらしいでゴザルな」


 そう言って、チラシの編集をサクサクと修正していく。そうして何度か三人の意見を交えながら、編集していき、ついにチラシが出来上がった。


「西小路さん達の方はどうしてるかしら・・・・・・」


 紅葉はデザイン部門の西小路達が気になり、西小路にチャットを送った。



 一方その頃、箕面船場のオーダーメイド洋裁店アバウト・リーフにて。桃音とエイクが色んなアロハシャツのデザインが描かれた紙を見比べていた。デザインは全てエイクが作画している。


「モネはこの星とかハートとかが散りばめられたデザインのが好きです~!」

「ワタシは・・・・・・この色とりどりなバラと花びらを散らしたのも良いかなと思うよ。それか、この天使の翼をモチーフにしたタイプとか・・・・・・」

「あー、確かにこっちもアロハっぽくて良いですよね! 迷うなぁ~」

「西小路君、キミはどれが良いと思う?」


 二人が頭を悩ませているデザインを桃音が西小路に見せる。机の上には色々悩んだ結果、没になったデザイン案が散らばっている。

 西小路がエイクの問いかけに答えようとすると、


「僕は~・・・・・・あ、ごめん、紅葉ちゃんからだ」


 西小路のスマホにチャットの通知が届き、西小路がスマホを見る。チラシのデザインが決まった旨と、西小路達の方の進(しん)捗(ちょく)を伺う内容だった。


「・・・・・・っと、ごめん、ごめん。僕はこっちの小さい羽を女性用、そして・・・・・・あった、あった。この大きい翼を男性用で使ったら良いんじゃないかなって思うよ」


 西小路はエイクの持っていた小さい翼が背中に生えて、羽根を散りばめたデザインと、没案の中から一枚取って二人に見せた。西小路が取ったのは、背中から生えた大きな翼が肩を通って胸にかけて伸び、翼の下に羽根が舞い落ちるようなデザインだった。


「それに僕は、これがかやのちゃんのイメージに合ってる気がしてね」


 西小路の頭の中では腕組みをした堕天使ゼクスの姿が思い浮かんでいた。


「確かにそれなら統一感もあってイイですね! 西小路さんナイスです!」


 桃音が指でOKサインを作って、西小路に笑顔を向ける。隣のエイクも笑顔で頷く。


「じゃあ、このデザインでいく事を紅葉ちゃん達に報告するね」


 西小路はデザインの紙を持ってポーズをとる桃音の画像を、紅葉とかやのに送る。



 紅葉のスマホに通知音が鳴り、紅葉がスマホを見ると、西小路からのデザイン案が届いていた。それを見て紅葉はニッコリと笑う。


「さすがエイクさんですわ!」

「WOW! エンジェルウイングデスネ~!」


 紅葉から画像を見せてもらったローガンも、エイクのデザインには好印象のようだ。


「せっかくなら、チラシにもこのデザインを反映させても良いかもしれないナリ」


 幸隆が眼鏡を光らせる。



 再び洋裁店。西小路のスマホに通知音が届き、チャットを確認すると、紅葉とかやのから返事が来ていた。


「紅葉さんからですか?」

「うん。かやのちゃんからも来てるよ。二人共OKだって」


 西小路が桃音とエイクに親指を立てて、グーサインを出す。


「すみません、このデザインでお願いします」


 西小路が担当の店員に決まったデザインを渡す。


「西小路君。気になってたんだけど・・・・・・かやのさんのお店の名前って決まってるの?」

「え? そうか・・・・・・かやのちゃんの事だから、多分決めてないと思う・・・・・・」


 西小路は全員にチャットを送り、各々の進捗報告会を兼ねて、店の名前を決める話し合いをしようと提案した。



 日も暮れて、メンバーがぞくぞくと寮のコミュニティー広場に集まって来た。かやのと王が遅れて合流してから、西小路が話を切り出す。


「じゃあ、とりあえず進捗の方をそれぞれ報告してもらっていいかな?」


 広報部門の紅葉はチラシのデザインを見せながら、コンセプトなども説明する。


「―――それと、桜井先輩の案で、このチラシを持ってきたら、会計から8%オフにする事で集客を狙う効果があるかと思いますわ。あとはお店の名前を入れれば完成です」


 紅葉の報告が終わった後、デザイン部門の西小路からの報告、そしてキッチンカー担当のかやのから報告があった。


「じゃあ、次は店名を決めなくちゃね。ちなみに、かやのちゃんはそういうの考えてたりする?」

「ん? あぁ、あるぜ。ロメロ・スペシャル・バーガーだ!」


 かやのがドヤ顔で発表するが、西小路以外キョトンとしている。西小路の方は「えっ」という顔で硬直していた。


「どーだ、カッコいいだろ!」


 その空気を察したのか、紅葉が切り出す。


「わ、私も実は考えてきたものがあって・・・・・・」

「ミーもナイスなネームを思いついたデース!」

「ワタシも考えていたものが・・・・・・」


 自分も自分も、と他のメンバーも名前を挙げ始める。そしてそれはいつの間にか全員で、「あーでもないこーでもない」と騒がしくなっていた。

 それを見かねて西小路は、


「と、とりあえず、候補を発表するから、その中でかやのちゃんが選ぶ感じでいいかな?」


 と、提案する。かやのもそれで構わないとの事。西小路はそれぞれの案を紙に書き出し、それをかやのに見せる。

 西小路は『アロハバーガー』、

 紅葉は『ハートフルバーガー』、

 王は『エンジェルバーガー』、

 エイクは『ハワイアンバーガーかやの』、

 ローガンは『ダイナマイトハニーバーガー』、

 桃音は『フレッシュ&ピースかやのちゃんバーガー』、

 幸隆は『THE萱(かや)野(の)バーガー』、

 そしてかやのの『ロメロ・スペシャル・バーガー』の八つだ。


「モネ、ちょっと思ったんですけど、西小路さんのアロハと王さんのエンジェルを足したら、凄くカッコいいと思うんです!」


 桃音が並んだ店名候補を眺めて思いついた。しかし、王はとても嫌そうな顔をしている。


「ナんでオレのと西小路のをクっつケるカ?」

「えー? 良いと思うんですけど。かやのさんはどうですか?」

「アロハエンジェルか。それなら有りだな」

「ですよね~!」


 かやのの肯定に、桃音は喜び、王はかやのが言うならと機嫌を直す。


「とりま、俺はロメロ・スペシャル推しなんだが、実は他にも気になる候補が出来た」


 かやのは三つの候補に丸をつける。それは自分の案と、ローガンの案、そして今のアロハエンジェル案だ。


「あの~、西小路さん。ロメロ・スペシャルって何ですか?」

「あぁ、それはね、プロレス技だよ」


 桃音はずっと気になっていたのであろう、ロメロ・スペシャルの正体を西小路に聞き、そしてスマホで検索する。画像を見ると、確かにバーガーのように見えなくもないが・・・・・・。


「じゃあこの三つで多数決を採ろうか。いっせーのでいくよ?」


 西小路が音頭を取り、全員が頷く。


「いっせーの、せっ!」


 全員が一斉に指をさした。結果は、『ロメロ・スペシャル・バーガー』にかやの一票、『ダイナマイトハニーバーガー』にローガン・幸隆の二票。そして、『アロハエンジェルバーガー』に西小路・紅葉・桃音・エイク・王の五票。

アロハエンジェル案が採用された。


「何故だーーーーー‼ 王、お前までーーー‼」

「イヤ~、かやのサンはオレにとって天使ダかラ」


 かやのは予想外の結果に叫んでいた。


「お兄ちゃん、変な事考えてたでしょ~?」


 桃音は幸隆がかやののナイスバディから連想して、その案を選んだのを見抜き、兄の太ももをつねった。


「イタタタタ! も、桃音、痛いでゴザルよ~っ!」



 それから刻々とみのおフードマルシェの日が近づいていく。それぞれがマルシェでの成功を目標に、自分達の役割をこなしていた。

 みのおモールの周辺では紅葉とローガンが、大学付近では西小路と桃音とエイクが、通行人にアロハエンジェルバーガーのチラシを渡している。


「みのおフードマルシェにお越しの際は、アロハエンジェルバーガーをよろしくお願いいたしまーす!」

「アロハエンジェルバーガー、ベリーベリーデリシャスデース!」

「このチラシをご持参いただければ8%引き致します。是非アロハエンジェルバーガーにお越し下さい」

「とっても美味しいよ~!」

「よ、よろしくお願いしま・・・・・・あ、ありがとうございます」



 そして、かやのと王と幸隆も、着々とキャンピングカー改造計画が進んでいた。


「かやのさん、鉄板の接続は良好でゴザルよ!」

「かやのサーン、サラマンダーオーブンはここで良かっタのカナ?」

「おう、そこで良いぜ。鉄板もなかなか良いサイズだな。フードカバーはここに置くとして・・・・・・」


 王のキャンピングカーの内装は当初に比べて完全に見る影もなく、完全にハンバーガーを作る為だけの空間になっていた。


「おっしゃあ、この装備なら在庫の続く限り、いくらでも作れんぜぇ!」



 みのおフードマルシェ前夜。アバウト・リーフの中にあるレンタルスペースにて。そこは緑に囲まれた広々としたソファー、天井には木の根をモチーフにしたオブジェなど、自然に満ちたデザイナブルスペースだ。

 そこに桃音と紅葉が、完成したアロハシャツとバンダナ姿で登場した。背中に小さな翼が描かれている。

 桃音達に続いて、西小路とローガンがアロハシャツと帽子姿で登場した。


「ほら、エイク君も早く」

「う、うん・・・・・・」


 そして、西小路に促され、恥ずかしそうにエイクも出てくる。


「こっちもお披(ひ)露(ろ)目(め)でゴザル」


 幸隆が石丸と稲壱を連れて皆の前に現れた。石丸と稲壱の首にはバンダナと、次世代アニーゴが着けられていた。石丸にはピンク色、稲壱には青色の翻訳機だ。


「いやぁ、石丸さんって、メスだったんでゴザルな? 拙者、名前でオスだと勘違いしていたナリよ」


 幸隆がポリポリと頭を掻く。


「WHAT⁉ 石丸はレディーだったのデスカ!」

「えぇ⁉ 石丸ちゃんって女の子だったのー⁉」


 ローガンと桃音が、石丸の性別を知って、驚愕の反応を示していた。


「あら? 言ってませんでしたっけ?」


 紅葉はのほほんとした顔を二人に向けた。

 そんな様子をソファー席に座ったかやのと王が、満悦そうに眺めていた。二人の表情は自信に満ちており、まるで「こっちもとっておきのを用意しているぜ」と言わんばかりの顔だった。


「さぁ、明日はついにマルシェだ! アロハエンジェルバーガーの成功を願って、皆で円陣を組もう!」


 西小路がその場の全員に呼びかけた。石丸と稲壱を中心に、西小路が紅葉の右手をしっかりと握る。紅葉は紳士的に差し出されたローガンの手を取る。ローガンの左手をガシッと力強く掴むかやの。王は我先にと、かやのの空いた手に飛びつく。桃音に気を遣って、幸隆が王の手を取る。兄の心、妹知らずで桃音が幸隆の手を取り、エイクに手を伸ばす。桃音の手を取ったエイクは、顔を熱くして西小路の右手をギュッと握り締めた。


「明日はたくさんのお客さんを笑顔にしましょう!」


 紅葉の宣言に続いて、かやの。


「美味いバーガーを作りまくるぜ!」

「みんなで協力して、かやのちゃんのお店を成功させよう!」


 西小路も皆に呼びかけるように激励する。


「デビューは勢いデース!」

「が、頑張ろうね!」


 ローガンとエイクも気合を入れる。


「メンテナンスは拙者に任せるでゴザルよ!」

「かやのサンの為に尽力スルヨ!」


 幸隆と王も心強い宣言だ。そして最後に桃音が締める。


「みなさん! 明日のマルシェで素敵な思い出を作りましょう!」

『オーーーーーーーーーー‼』


 全員の気合の入った声がみのおフードマルシェの前夜に響き渡った。

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