第17話 朧月・後半

 日が傾き、西日が強くなった時刻。大学から廃材を買い取った業者が、自社の倉庫で数人の他の社員達と収集物を仕分けていた。

 稲壱は虫に化けて、その一部始終を見ていた。どうやらその倉庫には売れそうな家電や家具、鉄やアルミ等の一部金属のみを選別し、売れない物や処分に費用が掛かる物、それに修理費用の方が高くつくような物等はトラックの荷台に置かれたままだった。



 ところ変わって西小路とかやのは大学院の敷地内で、それぞれ白と黒のオフロードSWN(スワン)を運転しながら見回りをしていた。が、別に変わった事は起きない。


「ふーん、怪奇現象ねぇ。つーか、稲壱がそう感じたなら、ここはハズレじゃねぇのか?」


 西小路は見回りをしながら今回の依頼について、かやのに幸隆から聞いた事や、稲壱が感じた気配などについて話していた。


「多分、僕も本命は稲壱君の方だと思うんだけど、もしかしたらその男の『おぞましい何か』・・・・・・つまり、負の念がこっちにも影響を出すんじゃないかと思って一応ね」


 そう言って棟内を夜になるまで二人は見て回った。



 バタンッ‼ 深夜に突然、トラックのドアが閉まり、荷台でうたた寝をしていた稲壱はびっくりして飛び起きた。エンジンが始動し、車は走り出した。

 荷台に閉じ込められている稲壱は変化を解いて、ニオイで今どの辺を走っているのかを探ろうとした。微かに木々と湿った落ち葉の匂いがする。このニオイは自分が勝尾寺に行った時に、途中嗅いだものだと稲壱は感じた。それと同時に嫌な気配も感じ取り、


『センパイ、姐さん。勝尾寺の方で嫌な気配を感じるッス』


 稲壱は西小路とかやのにテレパシーを送った。

 次第にカーブが多くなり、荷台の中のゴミも左右に振られる。もちろん稲壱も何度も遠心力で荷台の中を転がされていた。何度目かのカーブで粗大ゴミに頭を打ち、稲壱は気絶してしまった。気付いた時には既にトラックは停まっており、荷台の扉を開けてゴミを山道に投げ捨てているところだった。『イタタタ・・・・・・』と頭を前足で押さえていると、


「なんだ、コイツ。どっから紛れこんできたんだ?」


 大学で引き取りをしていた業者の男に見つかってしまった。男は捨てようと手に持っていたゴミを使い、シッシッと稲壱を追い立て、トラックの中から追い払う。

 稲壱は『しまった、見つかった』と思い、山道斜面の木の陰に逃げる。彼はそこから男の不法投棄現場を監視していたが、ゴミを捨てる男に対して強い憎悪が湧いていた。


『どこに行っても人間はオレ達の住処を汚しやがる。センパイ・・・・・・こんな奴らの事なんて、やっぱオレには理解出来ないッスよ』

『ホホホ・・・・・・・・・ホホ・・・・・・』


 稲壱の憎しみに同調したのか、無機質だが強い怒りや憎しみが籠った笑い声がどこからともなく聞こえてきた。稲壱はハッとして辺りを見渡す。

 不法投棄をしていた男にも聞こえていたようで、


「何だ今のは? 鳥にしては変な声だな」


 と寒気を感じながら、周りを気にして見ていた。辺りは妙に生ぬるい空気が流れていた。


「しかし・・・・・・深夜の山は本当に薄気味悪いなぁ」


 男は恐怖を紛らわせるように独り言を言いながら、荷台から最後のゴミを出そうとする。すると突然、男のスマホが鳴った。着信画面を見ると自分の会社からだった。こんな時間に何かあったのかと、電話に出るが無言電話だった。ザッザザーッというノイズだけが聞こえる。気持ち悪くなり、すぐに電話を切った。そして急いでゴミを捨てる。


『ホホホ、ホホホホホ』


 今度ははっきりと聞こえた。無機質な声が。それも自分の真後ろから。男は怖くて後ろを向けなかった。そして再び電話が鳴った。ディスプレイには妻の名前があった。男は安心したくて、妻の電話に出た。


「も、もしもしっ‼」

「もしもし、どうしたのあなた? そんなに大声出して。それより、ザザッ・・・・・・今日はザーッ・・・・・・時にザーーッ・・・・・・るの? あなタだイジョう・・・・・・ザーーーーアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」


 電話からは確かに男の妻の声が聞こえていた。しかしその声は徐々にノイズにかき消され始め、最後には声も変成器を使ったかのように野太くなっていく。

 そしてノイズだと思っていた音が掠れた声の叫びに変わり、男は驚いてスマホを投げ捨てた。そのまま慌ててトラックに逃げ込み、エンジンをかける。そして前を見るとフロントガラスにリアルなマネキンが蜘蛛(くも)のように張り付いていた。

 男はパニックを起こしながらも発進させようとサイドブレーキを解除しようとするが、それとは違う感触が手に伝わる。

 男が横を見ると、人の顔を模した頭のマネキンが隣に座っている。男がサイドブレーキを解除しようと触ったのは、そのマネキンの手だった。


『ホホホホホ。ホホホほほホホほホ』


 突然そのマネキンが無機質な笑い声を上げながら、男の方にグリンッと勢いよく顔を向けた。男は「ギャアァァァァ‼」と叫びながら勢いよくアクセルを踏み込んだ。すると車は急発進して、目の前の山壁に正面から突っ込み、エアバックが開く。男は恐怖と事故の衝撃で失禁しながら気絶した。



 その事故の一部始終を見ていた稲壱もまた、これから怪異に襲われようとしていた。無機質な『ホホホ』という声と共に、ノイズ混じりの声で『ナカマ、ナかマ、仲間』と辺りのゴミから聞こえている。稲壱の周りの粗大ゴミやマネキンが浮き上がり、稲壱を取り囲んでいる。仲間と言いつつも、辺りの無数の廃材は稲壱に勢いよく突進してくる。


『クッソ! 何だよ、コイツら!』


 稲壱は体を翻(ひるがえ)しながら突進を避けるが、あとからあとからキリがない。他の廃材同士ぶつかって原型がなくなるくらいに壊れても、残った大きい部品が飛んでくる。


『グエッ‼ イッテェェェ! やりやがったな!』


 無数にばらけた廃材が稲壱を襲い、避け切れなかった部品が稲壱の背中に当たる。大きく吹き飛ばされた稲壱にマネキンや冷蔵庫、パイプ椅子などが突っ込んでいく。


『あんま・・・・・・調子乗ってんじゃ・・・・・・・・・ねぇぞぉぉぉおおおおお‼』


 まるでゴミ山のようになった塊の中心から、稲壱が自分に纏(まと)わりつく廃材を吹き飛ばした。以前、西小路達と戦った時の化け狐姿になり、その力で廃材の拘束を解いたのだ。吹き飛ばされた廃材の中に、強烈な程の禍々(まがまが)しい怨念を放つ存在がいた。それはあまりの執念にドス黒い気を纏っており、『ホホホホホ』と笑いながら夜の闇に溶けた。

 吹き飛ばされた廃材が再び集まり、ガチャガチャと音を立てて巨大な怪物が組み立てられていく。組み上がったそれはまるで蜘蛛と人を合わせたような姿をしており、人の腕の形をした六本の脚部をもつ下半身と、そこから上部に伸びる人型の体。カニを思わせるような巨大なペンチの腕を持ち、頭部は人間の女児を思わせるような造形をしていた。


『ホホほホホホほほホホほホ』


 見た目の気持ち悪さに加えて、不気味な笑い声。化け狐である稲壱ですらも、その姿に戦慄していた。しかし、今は臆病風に吹かれている場合じゃない。稲壱の周りには四つん這いになったマネキン達や、人型を模した物体に取り囲まれている。


『コイツら・・・・・・・・・』



 その頃、西小路達はオフロードSWN(スワン)で勝尾寺方面に向かって山道を疾走していた。


「なんか変な音聞こえねぇか?」

「うん、ガシャガシャ、金属みたいな音とそれに混じって木が折れるような音も」


 先程から稲壱と念話が通じない事に、稲壱の身に何かあったのではないかと、二人は焦っていた。「急ごう!」と西小路が道路を逸れて、音がする山の中に入っていく。それにかやのも続く。



 稲壱と怪物達に苦戦を強いられ、既に全身ボロボロになっていた。


『ハァッ・・・・・・ハァッ・・・・・・コイツ、反則過ぎんだろ・・・・・・・・・』


 稲壱の周りには、バラバラに砕かれたマネキン達が転がっている。しかし、目の前の怪物は無傷のままだった。足元が不安定な山でも多脚ならではの安定性と、それを活かした機動性。そして何より壊しても崩しても、周囲の廃材を使い何度でも復活する体。完全にジリ貧状態だった。


『しまっ・・・・・・‼』


 地面に埋(う)まっていた怪物の一部のケーブルに、稲壱は足を絡め取られていた。そのままがんじがらめにされてしまい、ペンチ状の腕部に掴まれてしまう。メキッメキッと音を立てながら締め付けられ、稲壱は苦痛に悶える。


『ナカマ・・・・・・仲間・・・・・・なかま・・・・・・』


 怪物は稲壱を取り込む気なのか、女児のような頭部の口をガパァっと開く。筒状(つつじょう)の口腔(こうくう)内にびっしりと埋め込まれた無数の鋸(のこぎり)が回転する。こんなところに放り込まれたら、間違いなくミンチになる。稲壱は暴れて抜け出そうとするが、ペンチは体を潰す勢いで挟み込んでいる為、全く身動きが取れない。


『グゥゥ・・・・・・センパイ・・・・・・・・・姐さん・・・・・・・・・』


 稲壱が諦めかけたその時、


「稲壱ぃいいいいい‼」


 かやのが目の前にいた。かやのはオフロードSWN(スワン)を乗り捨て、そのまま怪物の体に飛び移ってよじ登り、稲壱を掴む腕にしがみ付いた。


『・・・・・・・・・姐さん?』「今助けてやる‼ だから、もうちょっとだけ耐えろ‼」


 かやのは両足の力だけで腕にしがみ付き、両腕で拳を乱打する。頑丈なパーツが徐々に剥がれていく。怪物もかやのを振り落とそうと腕を振る。かやのは振り落とされてたまるかと、既に血だらけの右手に渾身の力を込め、必殺の寸拳を放つ。

 稲壱を掴む腕は見事に砕け、稲壱は鋏(はさみ)に掴まれたまま地面に落とされた。


「大丈夫かい、稲壱君⁉」

『センパイ・・・・・・・・・遅いッスよ』


 落ちた際に変化が解けた稲壱に西小路が急いで駆け寄り、身体に絡みついたケーブルを解く。稲壱は安心した笑みを浮かべ、嫌味を吐く。そんな稲壱に西小路は優しく笑いかけながら、「よく頑張った」と彼の奮闘を褒めた。


「ぐっ‼ ・・・・・・・・・ぐあぁァァァァァッ‼」

「かやのちゃん‼」


 かやのは稲壱を助けた後に、敵の砕いた腕部から再生した人型の手に掴まれて藻掻いていた。ミシミシとかやのの骨が軋(きし)む。怪物はかやのを山の岩壁に叩きつけるように勢いよく投げつけた。かやのは激しい衝突音と共に背面が岩に叩きつけられ、「かはっ!」と血を吐いて意識を失った。

 西小路は傷ついた稲壱と共に、かやののところへ走る。


「かやのちゃん‼ しっかりして‼」『姐さん‼ ダメだ・・・・・・意識が・・・・・・』


 意識は失っているが、なんとか生きているようだ。西小路は敵に背を向けて、かやのを見つめながら、稲壱に何かを呟いた。稲壱は聞き取れずに、西小路に聞き返した。


「・・・・・・このワイヤーに妖力を込めてくれ。それと・・・・・・このライターも頼む」


 西小路は静かな口調で、廃材の切れたワイヤーと、リサイクル業者の男がパニックの中落としたのであろうジッポーライターを稲壱に見せる。稲壱は言われた通りに、それらに妖力を込めた。


『あのっ・・・・・・センパイ。これも持っていって下さい! 妖力を込めた勝守と数珠ッス』


 西小路は稲壱から魔道具を受け取り、ゆっくりと怪物の方を睨み付ける。その目は殺気が込められており、稲壱が身を震わせる程の凄(すご)味(み)を感じさせた。


「・・・・・・許さん」


 大事な仲間を傷つけられた事で沸き上がった激しい憎悪により、人の身に宿る妖狐の魂が目覚めた。

 西小路はワイヤーを伸ばし、怪物の胴体に巻き付ける。そしてそれを一気に縮め、一瞬で怪物の目の前にまで移動した。それから空中で胴体のワイヤーを解き、先端を太く変化させる。鉄球(てっきゅう)付きの鞭のような形状になったワイヤーを振り回し、怪物の関節部を狙い、鉄球を打ち付けていった。関節部へのダメージで怪物の体勢が崩れる。西小路は着地と同時に、相手の脚部をまとめて薙ぐ。


『ホ・・・・・・ホホホ・・・・・・なか・・・・・・・・・なかマ・・・・・・』


 右側にバランスを崩した怪物は口をガチガチと鳴らして、口内の鋸を回転させる。怪物は腕を地につけて虫のような体勢になり、全身を震わせ金属が擦れる音を出して西小路を威(い)嚇(かく)する。

 先程からの戦いを見ていて、稲壱はある事に気が付いた。怪物は攻撃を受けて破損しても再生を繰り返しているが、一点だけ攻撃が届かないように防御している場所がある事だ。


『センパイ、胸ッス‼ 胸を狙って下さい! そこに何かあるはずッス‼』


 かやのの側にいた稲壱が西小路に大声で助言する。西小路はコクンと頷くと、魔道具のライターを取り出し、左手でギュッと握る。

 怪物は口を開閉させながらガサガサと這って西小路に突進する。それを横に素早く跳躍し、木にワイヤーを伸ばして、空中に飛ぶ。そしてライターを磨(す)り、強く息を火に当てた。まるで火炎放射のような狐火が怪物に伸びていく。背面から焼かれた怪物は、可燃部分のパーツや耐火性の無い部分が燃え、溶けていった。『アァァァァァ』とノイズの悲鳴をあげながら滅(め)茶(ちゃ)苦(く)茶(ちゃ)な動きをする怪物は、着地した西小路を目掛けてぎこちない動きで口を開閉させ、迫って来る。


「これでも喰らえっ!」


 西小路はライターに呪言を呟き、逆手のサイドスローで怪物の口にそれを投げ込む。怪物の口が閉じた瞬間にライターが爆発する。口内の鋸は急な高熱で溶かされ、そして頭の下部分とそこから繋がる胸部の装甲が吹き飛んだ。

 狐火により関節部分が溶け、さらに冷え固まった事により、動きが鈍くなった怪物の胸がガラ空きになった。胸の装甲が外れた事で剥き出しになった金庫の扉に、ワイヤーを伸ばし絡める。そしてワイヤーの途中を木の幹にかけて引っ張る。ギシギシと音を立てるが、びくともしない。


『オレも手伝うッス‼』


 かやのの側についていた稲壱が再び化け狐の姿に変化し、怪物の胸の金庫の扉に手をかけ、開けようとする。「ギ、ギ、ギ・・・・・・」と開きそうになるが、核を守っているだけあって、強い抵抗を見せる。


『クソッ! あと少しなのに‼』

「ヤバイ・・・・・・再生を始めてる! それにコレも・・・・・・」


 怪物は周りの残骸を呼び寄せ始めていた。西小路の魔道具も悲鳴を上げ始めている。力を引き出し過ぎたのか、道具の妖力が弱まってきていた。

その時、ワイヤーを引く西小路の背後から、フラフラと足を引き釣りながら、かやのが歩いてきていた。


「かやのちゃん‼」

『姐さん‼ 気が付いて・・・・・・』


 二人が開けようとしている金庫に目をやり、


「あの金庫・・・・・・ブチ破りゃ良いんだな?」

「でもかやのちゃ―――」


 かやのが左手をグッと握り締める。右手は稲壱を助けた時に砕けたのか、ダランと力なく垂れ下げていた。かやのを心配する西小路の言葉を遮り、


「一発で決めろよ?」


 核が守られる扉を見つめ、西小路にかやのが呟く。西小路はかやのの思いを受け止め、


「任せてくれ」


 と強く頷き、応える。その言葉を聞いた瞬間、かやのは気力を力に変え、怪物に向かって走り出した。既に肉体は限界を超えていた。


「稲壱、どいてろぉぉぉ‼」


 瀕死とは思えないかやのの力強い言葉に、稲壱は怪物から離れた。かやのは大きく跳躍し、空中で左の拳を構える。そして彼女の鋭い視線の先にある、頑強な扉に破壊の拳、寸拳を打つ。パァァァァァン‼ と金属に当てたと思えぬ、破裂音に似た衝突音と共に、分厚い金庫の扉を破壊した。

 中から闇のように禍々しい憎悪の怨念が溢れ出る。


『ほホッ‼ ホホホほアァァァァアアアァァァアアアアァァァァ‼』


 扉を破られた怪物は笑いとノイズの入り混じった絶叫を上げた。かやのは寸拳を放った直後に力尽き意識を失う。受け身が取れず、地面に叩きつけられる寸前で、稲壱によって受け止められた。

 そしてかやのが命懸けで作ってくれたチャンスを逃すものかと、ワイヤーを操り、金庫内の元凶を縛り引き寄せる。出てきたのは顔の一部がひび割れた市松人形だった。

 この世の物とは思えない恐ろしい形相をしており、縛られて動けない手足の代わりに、目をギョロギョロと動かしながら『ホホッ‼ ほホホほホ‼』と狂ったように無機質な笑い声を上げている。

 西小路はその市松人形の姿にビクッとなり、つい放り投げそうになったが、グッと堪えた。そして顔を逸らしながらポケットに入れていた勝守の中の札を取り出し、人形の顔に貼り、腕に付けていた魔除けの数珠で人形をグルグル巻きにして封印する。  すると人形は静かになった。それと同時に音を立てて怪物だった物が崩れ去った。



 その後、西小路は市松人形を持って勝尾寺に向かい『呪われた人形』として和尚に渡した。和尚は人形から強い怨念を感じると言い、数十年単位で供(く)養(よう)して恨みを少しずつ散らしていくと説明をした。



 それから数日後。かやのがやっと意識を取り戻したと、病院から連絡があり、西小路はかやのの入院している病室に駆け付けた。かやのは病院に搬送された際、全身に切り傷や擦り傷と打撲を負っており、出血も酷かったらしい。

 怪我の原因はオフロードSWN(スワン)で山道の走行中に、不法投棄されていた粗大ゴミが雪崩(なだ)れてきて、それに巻き込まれた、という事になっている。

 あの一件で例のリサイクル業者の社長と従業員が逮捕され、その業者との取引も無くなったという。今度は多少経費が掛かっても、しっかり処理やリサイクルを行う業者を探している事を幸隆から聞いた。そして怪異的な事も起こらなくなった事も―――。


「・・・・・・・・・今回、巻き込んでしまって本当にすまなかった」

「まぁ・・・・・・解決して良かったな」


 今回の件でかやのを巻き込んで、結果彼女に大けがを負わせてしまった事に西小路は申し訳なく思い、深々と頭を下げた。それに対してかやのは気にしていないと言うように、依頼の解決を労った。


「かやのちゃん・・・・・・」

「んな事より、何か買ってきてくれねーか? 腹が減った」

「・・・・・・りょーかい!」



 面会時間が終わって西小路は病院から帰ると、金メダルが事務所のポストに入っていた。メダルを取り出すと同時に電話が鳴った。電話に出ると、勝尾寺の和尚からだった。

 人形を預かった日から毎日経を上げて供養をしていたのだが、本日供養をしようと、札で目張りして封印した箱を持ち上げた際に軽く感じた。もしやと思い箱を開けると、中の人形が消えていた、との話だった。

 西小路は不安げな顔をして、「そうですか・・・・・・」と言って受話器を置いた。


 ―――その頃、市松人形の持ち主だった孫娘が楽しそうに電話をしていた。そんな楽しげに笑う彼女をカーテンの隙間から、逆さに覗き込む小さな影があった。


『ホホ・・・・・・ホホホホホ・・・・・・・・・』

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