第15話 OH! by 桃李・後半
次の日からアイドルライブに向けて本格的に動き出した。曲もあとは歌詞を残すのみで、形は出来ており、振付も王陣営のスタッフが用意していた。
桃音をセンターとし、サイドに西小路と紅葉を配置という形で進める。振付師のダンスを覚えながら、レッスンを受ける。現役の桃音は流石(さすが)飲み込みが早く、すぐに覚えてしまう。紅葉も幼少期にバレエなどの様々な習い事をしてきたのであろう。はじめはぎこちなかったが、徐々に勘を取り戻し、すっかり形になっている。西小路はというと振付師や二人の動きについていくのが精いっぱいだった。
ダンスの後は作詞活動だ。曲はあっても歌詞がなくては始まらない。休憩室の中で桃音と紅葉が二人並んで仲良く作詞している。机の上や二人の周りにはクズ紙が散らかっていた。そこに遅れて西小路がやって来る。西小路だけ個人レッスンがあったのだ。
二人は西小路に気付くと、彼も交えて意見を出し合いながら歌詞を書いていく。王から自分のかやのへの気持ちも入れるようにと、西小路へ指示があったらしく、それも歌詞に組み込む。そして何度も文を練り、歌詞を紡いでいく。
ようやく完成して、「できたぁー!」と三人でハイタッチする。
歌詞が出来てからは早かった。歌の覚え込みや、歌を歌いながらダンスの通しレッスン。実際に三人の動きに合わせながら、予(あらかじ)め幸隆と王の制作陣で打ち合わせをしていた演出や背景、効果音なども当てて、最終段階に向けて調整も加えていく。
衣装の方も数パターン用意していたようで、それを桃音と紅葉と西小路にそれぞれ当てて、モニター越しにKING(キング)とも打ち合わせている。
特に西小路だけは様々な衣装にチェンジさせられ、着せ替え人形のように扱われていた。フリフリ、ブリブリな衣装もあり、その度にKING(キング)や王陣営スタッフから笑われていた。
西小路はかやのの為と何度も心の中で呟き、ぐっと堪えた。
そして数日が経ち、ついに迎えた本番当日。スタジオ内で最終リハーサルが行われていた。三人でダンスと歌を合わせながら、それぞれの強い思いを胸に抱いて、本番前に気合いを入れる。舞う度にキラキラと汗が輝く。
夜景の映像を目の前に、自室でバスローブ姿の王がシャンパングラスにジンジャーエールを、まるでシャンパンのように注ぎ入れる。そして夜景が映されたモニターに向かってグラスを掲げた。
「さぁ・・・・・・はジめよウか」
KING(キング)の顔がモニターに映し出される。いつもとは違った背景や演出に、コメント欄が既に沸いている。軽快な音楽と共にKING(キング)のトークが始まった。
『―――というワケで、今日は皆に紹介シタイ者達がいる。この三人だ。来てクレ、Mone(モネ)! Maple(メープル)! Caroline(キャロライン)!』
KING(キング)の紹介と共に、Mone(モネ)(桃音)とMaple(メープル)(紅葉)とCaroline(キャロライン)(西小路)が手を振りながら、元気よく走って登場した。衣装はアイドル衣装ではなく、普段着バージョンだ。
Maple(メープル)が左手を上げると、バイオリンが発現して右手に弓が伸びる光のエフェクトと共に出てきて、バイオリンの旋律と共に曲が始まった。音源も合成編集ではなく、本物の楽器演奏なので、迫力が違う。この時点で既にスーパーチャットを送る者もいた。
春風に乗って花びらが 滝の道へ舞い降りた
流水にタッチした 擦れ違っていたかもしれないキセキ
遥か遠い 高い空見上げて 輝く明日のために 巡る未来
Mone(モネ)が明るく可愛い声で歌い出す。歌に合わせて、配信画面には歌詞と効果がポップに表示される。コメント欄もMone(モネ)の可愛さに乱舞するコメントが流れ始めていた。
大(だい)胆(たん)不(ふ)敵(てき)のあの子
憧れのあの子は いつまでも振り向いてくれない
時めく胸 ありえないでしょ だって 煌(きら)めく胸 だって
立ち止まると 切なさと戸惑い 二人の距離縮めたい
可愛らしい仕草のMone(モネ)にMaple(メープル)も歌とダンスで参加する。軽快なステップと共に水面のようなステージに波紋が広がり、そして重なっていく。
宝物は間取りに詰めよう 扉を開けて飛び出そう
ここでCaroline(キャロライン)のパートがくる。高度なボイスチェンジャーを使って自然な女性の声にしてある。見た目の印象通り、クールな歌声だ。中身が男だとは誰も気づかないだろう。
ただ、一人を除いては。
「・・・・・・ダンテ?」
走り出すと 光の速さで加速する
チャンスの時は全力投球で
この力は光射す方へ 青空に響け
三人で光を投げ、光が桜吹雪と白い羽根を舞い散らしながら空に登っていく。そして全員の衣装が羽根に包まれながら変わった。お揃(そろ)いのササユリのコサージュを髪につけた、フリフリのアイドル衣装だ。Mone(モネ)はピンク、Maple(メープル)は赤、Caroline(キャロライン)は青、それぞれのメインカラーを散りばめている。
乙女心は揺れる 予想がつかない未来
青春はキミのために 憧れのあの子は まるでANGEL(エンジェル)
Welcome(ウェルカム) to(トゥ) Happy(ハッピー) Star(スター) !
この気持ち届けたい 虹を架けるあの彼方へ
Emotional(エモーショナル) Smile(スマイル)
サビに突入した途端、更に派手な演出が入る。空に虹が架かり、両サイドに花火が上がる。コメント欄にも《可愛い》や《綺麗》、《エモい》などの言葉が流れる。
軽くステップ 気まぐれなあの子
言葉かわした時から 気づいて この想い
友達? 恋人? 嘘も真実も 素直な自分さ
寝つけない夜も訪れる 癒しは歓迎さ
見つけたいものは何? 探したいものは何?
羽伸ばしたい日もあるのさ さよなら 昨日までの世界線
スマイル忘れない 心のステージに立てば いつだってFlavor(フレーバー)
いつかボクたちも似合う色になれる
カタチないもの その好奇心は
色々な人が、多くの人がこのライブ配信を見ている。ある人はパソコンで、ある人はタブレットで、ある人はスマホで。多くの人が同じ時間を共有していた。絵を描きながら息抜きにライブを見る者、曲のリズムに合わせてトレーニングをする者。そして唯一無二の友人が置いていったタブレットで静かに眺める者。
「ダンテ・・・・・・お前」
『姐さん・・・・・・このCaroline(キャロライン)って・・・・・・』
「俺のせいでアイツまで・・・・・・バカ野郎」
乙女心は揺れる 予想がつかない未来
青春はキミのために 憧れの隣人は まるでMYSTERY(ミステリー)
Welcome(ウェルカム) to(トゥ) Trick(トリック) Star(スター) !
この気持ち届けたい 虹を架ける七色(なないろ)変化(へんげ)の
Emotional(エモーショナル) Smile(スマイル)
サビが終わり、ステージが暗くなり、満天の星空が広がる。Maple(メープル)とCaroline(キャロライン)にスポットが当たり、二人が静かに天の川を歩きながら歌い出す。幻想的な光景と歌声にモニターの向こうの観客は魅了される。曲の盛り上がりに合わせて、星が次々と流れ出す。
手を伸ばした先に 瞬く流星のわかれ道
永遠(とわ)のエンブレムをその手に
気のせいじゃない 未練残したくない
この想い伝えたい
満天の星空、流れる星々。その中の一つ、とても大きな光が二人の上にゆっくりと降りてくる。それを二人が一緒に受け止める。
「オレのコノ想い・・・・・・キミに・・・・・・」
モニター越しに王がエンブレムを握り、胸に当て目を閉じる。画面の中のMaple(メープル)とCaroline(キャロライン)が受け止めた光がエンブレムとなり、光をステージ全体に届ける。光が明けると共に、再び三人の衣装が変わる。更に豪華な装飾に変わり、Mone(モネ)が二人の間に向かって走ってくる。三人の熱い気持ちを乗せたステージは、見る者全ての心を揺さぶる。
乙女心は揺れる 予想がつかない未来
青春はキミのために 憧れのあのヒトは まるでFAIRY(フェアリー)
Welcome(ウェルカム) to(トゥ) Happy(ハッピー) Flower(フラワー) !
この気持ち届けたい 虹が架かるあの彼方へ
Emotional(エモーショナル) Smile(スマイル)
取り巻き キミの心に愛を重ねて
幸せは小さな積み重ねさ
両手につもっていく 愛という名のもとに
大好きだよ
皆それぞれの個性を輝かせたステージが終わった。幸隆はMone(モネ)のやり切った姿を見て感極まって涙を流し、ローガンもMaple(メープル)の姿に感嘆の声を漏らす。エイクはCaroline(キャロライン)の姿が気になるのか、じっと見つめていた。そしてかやのも・・・・・・。
ここでKING(キング)が話し始めた。
『見事ダ! 余は満足ダ。ではこれからこの三人にリスナーからの質問タイムだ!』
三人は打ち合わせでそんな話は聞いていないと驚いていた。しかし、KING(キング)の進行は無情に進んでいき、三人に有無も言わさず質問タイムが始まった。
《Maple(メープル)たん、彼氏いるナリ?》
《テラかわゆす》
《みんなの趣味教えて欲しいンゴ》
《Mone(モネ)タソ乙(おつ)乙(おつ)~》
《Caroline(キャロライン)ちゃん結婚して!》
など、コメント欄には三人に対して様々な言葉が投げかけられる。
Mone(モネ)は普段の配信で慣れている為にそつなく答えるが、Maple(メープル)は照れて初心(うぶ)な発言を繰り返し、場を更に湧かせていた。
特に、Caroline(キャロライン)には返答に困る質問が多く投げかけられ、王の狙い通り、西小路は困り果てていた―――。
後日、王の所持していたかやのの写真のネガやデータを約束通り破棄させる為に、かやのと西小路は彼の部屋に訪れていた。
「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
半(なか)ば発狂気味に、壁中の盗撮ポスターを一枚残らず破るかやの。合成キスシーンパネルを粉々に粉砕し、ドレスもビリビリに破り去った。
そして、ズドンッと音を立てて、パソコン本体とモニターに寸拳を撃ち込む。突き破られた本体からコードを掴んだ拳を引き抜いた。
「オ、オレのパソコンが・・・・・・」
「・・・・・・・・・歯ァ食い縛れ」「・・・・・・へ?」
パソコン諸共(もろとも)データを破壊されて呆然としていた王に、ドスの利いた声でかやのが鋭い眼光を向けた。
その瞬間、バチィィィィィィィンッ‼ という強烈に重いビンタが王の左頬を捉える。王は「へぶぅっ‼」と壁に向かって吹き飛ばされ、壁に激突して気を失った。
「フン・・・・・・今回はこれぐらいで勘弁してやるよ」
青空の下、西小路とかやのはキャンパス通りを歩いている。それから少し離れて石丸を抱いた紅葉と桃音が歩いていた。石丸の口には銀色のメダルがキラリと輝いている。
「まさかお前があそこまでやるとはな」
「ゼクスの為ならね」
「お? もしかしてお前、ソッチの気(け)に目覚めたのか?」
「いやー、案外やってみるとなかなか・・・・・・って、冗談じゃないよ!」
前を歩く二人のやり取りを見ながら、桃音が紅葉に、
「お二人って仲良いんですね!」
と、眩しい笑顔で言う。すると紅葉も、
「フフフ、そうですわね」
と、はにかんだ。そして、西小路の隣を歩くかやのを羨むような目で見つめる。
「とても、良いコンビですわ・・・・・・」
そんな紅葉の表情を見て、桃音は紅葉の手を取る。
「行きましょう!」
桃音に引っ張られながら、紅葉は二人のところへ駆けていく―――。
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