第21話 立場逆転

次の日目が覚めると隣には熟睡しているソフィーがいた。パッと見る限り、昨日みたく辛そうにはしてないから熱は下がったのかな。まぁそれはいいんだけど…………


「これ………ソフィーの風邪移った?」


やけに体がだるく感じるし喉も痛い、極め付けにすごく熱っぽい。はぁ、せっかくソフィーの風邪が治ったかもしれないのに、これじゃあ意味がないじゃん。


「ままぁ………」


「うん? どうしたの?」


ソフィーに名前を呼ばれて寝ているソフィーの方を向く。けどソフィーの目は開いていなかった。


「寝言………かな?」


ふふっ可愛い♡

今はどんな夢を見てるのかな。私と一緒に楽しい事をする夢だったら嬉しいな♪


さてと、私はもう一眠りしようかな。変に起きてたらただでさえ体調が悪いのにもっと悪くなっちゃうしね。


そして私はまた意識を暗闇に落とした。


◆ ◆ ◆


夢を見ていた。


それは自分がこの世界に来る前、つまり日本に住んでた頃の夢だった。夢の中の私は昨日のソフィーのように熱で魘されていて、近くには心配そうに私の顔を覗き込む母親と姉の姿があった。お母さんは冷たいタオルで私の冷やしてくれてお姉ちゃんは優しく、私を安心させるように手を握ってくれていた。


そして私が言葉を発しようした瞬間世界が暗転し、視界が暗闇に染まる。


そして次に視界が開けると私は車を運転していた。きっと仕事の帰りなのだろう、やけに疲れが溜まっている感覚がある。そして次の瞬間眼前に居眠り運転をしているトラックが現れ…………


◆ ◆ ◆


「………ッ!」


…………この夢。ここ最近、もっと詳しく言えばソフィーを家族に迎えてからというもの、やけにこんな夢を見る事が増えた。それまでは一切見る事は無かったのに。しかもどの夢も前半は家族や友人との幸せな記憶、そして最後にはそれを嘲笑い、打ち消すかのように事故の記憶を見せられる。


まだ、あの世界に未練でもあるのだろうか。


「はぁ、ソフィーママは辛いよ」


そう言いながら気持ちよさそうにスヤスヤと寝ているソフィーの頭をそっと撫でる。頭を撫でた瞬間、一瞬だけど顔が笑顔になったような気がする。この顔………夢の中の私と同じ顔だ。ソフィーも今寝てる中で安心感を感じてるのかな。


〈コンコンコン〉


「ナギサ様、入っても大丈夫でしょうか?」


「ええ、いいわよ」


いつもより少し遅い時間にセラが来た。きっとソフィーのことを考えていつもより遅い時間に来てくれたのだろう。


「ナギサ様? どうしたのですか?」


「……? 何を言っているの?」


なぜか私の顔を見たセラは心配するような声色で聞いてきた。


「なぜのですか?」


「え……?」


セラに言われて初めて気づいた、何故か私の目からは涙が流れていた。あれ?なんでだろう、泣く要素なんてどこにも無かったのに。


「何かお辛い事でもあったのですか?」


「いいえ、そんな事は無かったわ。なんでかしら………」


「………! ナギサ様、頬が真っ赤ですよ。もしかして風邪を引いてしまったんではないですか!?」


あぁ、さっき起きた時は熱っぽかったような。けど、それじゃあ涙が涙が流れている説明になってない。う〜ん、どうしたんだろう、私の体。


「とりあえず寝てて下さい。今日は一日お休みして、ソフィア様も私たちがお世話しますので………」


そう言って寝ているソフィーを起こそうとするセラを私は止める。


「セラ、ソフィーと一緒に寝てるわ。今は…………なんて言うか誰かと一緒にいたい気分なの」


「でしたら私でも……! いえ………すみません、出過ぎた真似を」


セラは一瞬何かを言おうとしてたけどその言葉を飲み込んで引き下がってくれた。ごめんね。


「ごめんね、ありがとう」


「いえ…………お飲み物を持ってきます」


そう言うとセラは部屋を出て行った。

なんか申し訳ない事をしちゃったな。セラは私を思って、楽にできるように一人になる選択肢をくれたのに。けど、今一人になってたらきっと良くない事が起きてたと思う。


「ママぁ?」


「あら、おはようソフィー。起こしちゃった?」


「ううん! だいじょうぶ!」


「じゃあお熱計ってみよっか」


ソフィーの前では【ママ】でいなきゃ。ソフィーに弱い姿なんて見せられない、ソフィーの前では笑顔でいなきゃ。


「ママ、つらいの?」


「え………? どうしたのいきなり」


なぜがソフィーは私が辛そうだと言った。まるで私の心を読んでいるかのように、確信を持っているように。


「だってママ、わらえてないよ」


「い、いやいや、ママはいつだって笑顔だよ?ほらっ今だって……」


「ちがうもん!いつものママはそんなにつらそうにわらわないもん!!」


…………そっか、子供はこういうのには敏感なんだね。


「ごめんね、ママねちょっとだけ辛いの」


「じゃあこんどはソフィーがあんしんさせてあげる!」


「へ……?」


そしてソフィーはやる気満々と言わんばかりに目を輝かせ始めた。私………どうなるんだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る