第23話 筋トレはしておくべきだろうか?

受付の人からは良かった良かったと安堵の声しか聞こえてこなかった。


プラスして、ボスも倒してきましたー!って言った時には嘘だろ!?と言う顔をされた。


まぁ普通は死ぬからな。


フェスが発生している状態で鉄の冒険者がボスを倒して帰ってくるとは誰も予想できないだろう。


確認のためステータスを見せてくださいと言われた。


レベルの割にステータスが異常に高いので受付の人は目を飛び出させていた。


「ほら、俺の連絡先だ。悔しいが俺はあんたの舎弟になったからな。」


そう言うとタイガは早々に換金を済ませると、俺に番号を書いた1枚の紙きれを渡して颯爽と帰ってしまった。


俺も一応拾っておいたアイテムを換金し、マイさんと共に寿司屋に向かおうとした。


が、寿司屋はまたしてもお預けをくらってしまう。


「トモヤさん!ちょっと待って!」


換金所を出る瞬間に受付の人に止められた。


俺は実力に対して、冒険者ランクが低すぎるのではと受付の人に言われた。


「冒険者ランクの更新をしてみては?ちょうど金の冒険者試験は今週末にこの近くで開催されます。まだギリギリエントリー可能ですからいかがでしょうか?上のランクになれば優遇されることもあります。ランクをあげて損はないかと。」


いきなり鉄から金?そんなに飛び級しちゃうのと驚いたが、今の俺はステータス的に平均的な金の冒険者に負けないとのこと。


「たしかに今のままだと色々不便ですしね…」


上の冒険者になれば支給される金も増える。

ポーションの数が足りない!っていう心配もなくなるだろう。


ものは試しだ!

今回ダメでも経験だけしておいても損ではないはず。


「分かりました。受けます!」


俺は軽い気持ちで承諾した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


数日後、俺は金の冒険者試験会場にやってきた。


「トモヤさーん!」


「おはようございます。マイさん。今日も元気ですね。」


なぜマイさんがいるかというと俺の応援。


俺は前々からマイさんはもっと上のランクを目指してもいいと思っていた。


マイさんの特殊スキル、『火力調節メロディチェンジ』は俺の『私益世界』と同様に、上のランクに潜り込める素質のあるスキルだ。


成長性がDだから成長速度は遅いが、十分格上のモンスター相手でも通用すると考えている。


今後、新たにスキルを獲得することで更なる成長も見込めるだろう。


だから俺は鉄ランクの底辺で埋もれていていい人材ではないと判断し、マイさんも試験受けてみようと言ってみたのだが断られた。


まだ時期尚早、実力が伴っていないと断られてしまった。


正直悲しかった。

冒険者ランクが2つも離れると実力不釣り合いとして、パーティメンバーとして認めてもらえない。

一緒にダンジョンに潜れなくなってしまうのだ。


まぁマイさんの意思だから仕方ないのだが…

俺はマイさんとダンジョンに潜りたかった!!


でもこうして俺の試験の応援に来てくれているだけでも感謝しなければ。


それに再来週に行われる銀の冒険者試験は受けてみようかなと言ってくれた。


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NAME:小林智也 Lv13

HP :514/514    MP:296/296

ATK:418  DEF:506   AGI:443

INT:210   MD:349   DEX:208

LUK:34   SPI:102   LER:G

特殊スキル:私益世界【使用回数13/13】

スキル  :咆哮 チェンジ 噛みつく 透明化

      小加速

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ちなみに『狼の谷』で獲得した宝箱の中身はスキルだった。


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スキル:小加速      消費MP:20

30秒間、自身のAGIが1.1倍になる。

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うん…あるだけマシって感じのスキル。

MP20消費するのに対して、倍率が1.1なのは微妙としか言えない。


しかも30秒間ときた、本当にあと少し速さが欲しいって時には使えるんだろうけど…


消費MP15の『咆哮』や消費MP30の『チェンジ』がいかにコスパがいいのかが分かる。

流石イレギュラーなボスから奪ったスキルとそれから出たスキルだ。


「金の冒険者試験にお越しの方はこちらまで集合してくださーい!今から受付を開始いたします!」


「お、始まるっぽいのでそろそろ行きますね。」


「はい!頑張ってくださいね!」


キュピーン!


ぐはぁっ!

マイさんの笑顔ビームはどんなバフより強力だ。


受付の列に並ぶと俺は場違い感が半端なかった。

前も後ろも、右も左も周りに屈強なおっちゃん冒険者がずらずらと並んでいるからだ。


おっちゃん達の目が怖い。

全員ジトーッと睨んでくる。


俺だけではない。

俺のようにひょろっとした若い冒険者におっちゃん冒険者達は眼を飛ばしていた。


そんな中、時折受付をしていたはずなのに帰って行く冒険者の人がいた。


そうやって帰っていく冒険者は全員、おっちゃん達が睨んでいた若い冒険者で、みんな顔を青くして帰っていった。


そんな若い冒険者を見ながらおっちゃん冒険者達は口々に


「根性なしが。」


と呟いていた。


そうこうしていると自分の番が回ってきた。


「おはようございます。金の冒険者試験に受験する方でお間違いないでしょうか?」


「はい、これが受験票です。」


『狼の谷』で発行してもらった受験票を見せる。


「確かに確認しました。それではこちらの誓約書をしっかりと、しっかりと読んでいただいた後にサインをお願いします。」


受付の人から1枚の紙を渡される。

なんでそんなに読むことを強調したんだ?


「…わかりました。」


じっくりと時間をかけて読む。

なんてことのない誓約文だった。


不正はしないこと、反則行為はしないこと。

不正が見つかり次第、試験は不合格になること。


ありふれた誓約文じゃないか、何をそんなに気をつけて読む必要があるんだ…っん!?


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この試験は合格者が1名のみです。

不合格者は冒険者ランクを1つ下げさせていただきます。


また試験を中断することはできますが、その場合は冒険者ライセンスを没収させていただきます。


以上のことを同意した上で本試験を受験する。

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「合格者1人!?うそでしょ!?こんなに人がいるのに…」


「冒険者の質が低下しないように金の冒険者試験からは合格者を1人までとさせていただいています。」


質か…

なんか納得してしまった。


タイガみたいな人を高ランク冒険者で作らないようにするにはそうするべきか。


俺は不合格になってもランクが鉄だから下がる心配はないけど、逃げた場合は冒険者ライセンス剥奪っていうのはなかなかやりすぎでは?


みんなこの誓約書を読んで帰ったのか。

怖気ついて。


帰ろっかな俺も…

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