第20話 パワーこそ正義ってか?

目の前に現れたボスモンスターはキングよりはるかに大きい。


ベースであるキングより3倍はデカい。

目は薬をやっている人のように決まっており、筋肉隆々のその太い腕は、俺の細い体を一捻りできそうだ。


しかも牙、爪ともに鋭く、ちょっと触れただけで傷がつけられそう。


それに加えてこの雑魚モンの数は正直こたえる…

雑魚モンだけであれば、なんとか対処できると判断して突っ込んできたんだけどな。


まぁ後悔しても仕方ない。

もともとボスを倒すためにこのダンジョンに潜ったんだからな、踏ん張るしかない。


「おい、タイガ!あれに勝てるか?」


「俺はもうMPがギリギリだ。無理だ。俺にはあいつを相手するほどMPは残ってない。せめてポーションさえあれば…倒されるのに。」


生憎だが俺もポーションはもう無い…

だったら、


「よし、雑魚は全部お前に任せた!ボスは俺がやる!!」


タイガは驚きの表情で俺を見つめてくる。


「無茶だ!あれは鉄の冒険者が1人で相手できるやつじゃねぇ!勝てねえよ!」


おいコイツ…

銅の冒険者が1人で相手できないの理解してこの勝負を持ちかけたのかよ、全く。


「舐めるなよ?成長性ゴミでも成長性Bに匹敵するってこと、証明してやるよ!」


「…わかった。任せる。来やがれウルルフども!」


タイガは雑魚モンの相手をし始めてくれた。


「さて、いっちょやりますか。」


こいつはどれほど強いのだろうか。

ギャングの時みたいに上手くいくだろうか。


通常ボスモンスターはデカいのが特徴ではあるが、ただデカくなっているわけではない。

見た目もそれなりに変わっているはずなのだ。


今回のボスモンのように、あからさまに筋肉量が増加しているのが普通なのだ。


しかし『ゴブリンパラダイス』で異常発生したギャングは正直、写真で見たまんまだった。

だからあの時はあれが、ボスモンなんだと気が付かなかった。


言うならば普通のなんの強化もされていないギャングがボス扱いされていたに過ぎない。


でもコイツは違う。

ちゃんと強化されたウルルフキングの個体が今回のボスなのだ。


ステータスも元の個体とは比べようがないくらい上がっているんだろうな。


こういうとき鑑定スキルを持っていないことが悔やまれる。


鑑定スキルはモンスターのステータスのみならず、所有しているスキルも見ることができるからなぁ。


使われる技が分かるのと分からないとでは、動きやすさは段違い。


いやそれよりもモンスターの圧倒的なステータスを見て絶望する方が嫌か。


「グラォォォォォオオ!!」


ボスが雄叫びを上げると一直線に俺へ向かって突進を開始した。


どうも巨大な体を持っているモンスターは吠えるのと突進するのがお好きなようで。


「雄叫びだったら俺も負けねぇぞ!咆哮発動!うぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」


俺の叫び声とともにボスの突進はピタッと止まる。

ボスは行動不能となった。


すかさず攻撃体制に入らねば、時間は3秒しかない。


急いでボス目掛けて斧を振りかざす。


「グレォォォォオオ!」


硬い…がメタルスライムほどではない!

しかし一撃ではい終わり、とはいかないのは流石ボスモンだな。


でも軽いダメージは入っているんだ。

塵も積もれば山となる!


メタルスライム同様、ハメ斬りじゃい!


「グレォォォオオオオ!」


3秒が経ち、効果がきれ、ボスが動き始めた。

何撃かくわえたがピンピンしている所を見ると、ボスなだけあってHPはそこそこあるらしいな。


ボスは突然動かなくなった自分の手足を見て、頭を傾げていたが、次の瞬間には気にせずに突進を再開させた。


『咆哮』の効果がきれたならまたかけるまでよ!!


「咆哮発動!うぉぉぉぉぉお!!」


スキルの効果でボスの動きをもう一度止める。


「今度こそ大ダメージを与えてやる!!突撃ぃぃ!!」


しかし3秒では塵を貯める時間としては短すぎた。


本当にHPが高いな。

メタルとは違って手応えはあるのに、攻撃を痛がってるいるのに、怯んでいるのになかなか倒れない…


再び3秒が過ぎてしまった。

ボスの傷口からは大量に血が流れているが、動きが鈍っている様子はない。


ボスは同じスピードでまた、突進を再開した。


こいつ本当に突進することしか脳がないな、筋肉にステータス振りすぎているだろ。

しかし俺としたら、そっちの方がやり易くて助かるんだけどね!


同じことを繰り返すまでよ!


「咆哮発動!うぉぉぉぉお、お?はい?おいおい!そんなのありかよ!」


スキルで動きを止めようとした矢先、突然ボスの数が増えた。


1、2、3、4、5!?ボスが5匹!?


俺の前に現れた5体のボスモンはどれも、ゆらゆらと体のフチが揺れている。


あれは…実体をもたない分身ってやつだろうか?

どれが本物なのか分からん、攻撃のしようがない。


ぐぬぬ、そっちが脳筋でいくならこっちも脳筋でいったるわー!


片っ端から斧で斬っていけばいつか本体に当たるだろう!


接近してきたボス達に向かってテキトウに斧で斬りかかるもどれも空振りしてしまった。


斬りつけられた分身は消えた。


「グラォォォォォオオ!!」


攻撃を当てれない俺と違って、ボスはその鋭利な爪で俺の腹をえぐろうとした。


幸い、咄嗟の判断でボスの攻撃は斧で防ぐことができたが威力が違いすぎる。


「ぐはぁ!!」


踏ん張り切れず、攻撃による勢いで壁まで吹っ飛ばされてしまった。


吹っ飛ばされている途中に受け身をとっていなかったら完璧にダウンしているぞ、これ…


俺のHPや防御力が上がっているのも加味してもこれだけダメージが通るとはな、悔しいね。


ボスの方を見ると消えた分身が復活していた。

5体のボスは俺を睨んでいる。


こりゃーまずいねぇ…分身やっかいすぎやろ。

他に何かないか………ある?


賭けではあるがやるしかない。

このスキルをこんなことに使うとはな。


「いくぞ!ボス!チェーンジ!!」

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