第15話 鉄の味

「まじか、いた…」


メタルスライムは俺たち2人が背後にいることに気がついていない。


ぼーっとリラックスしている。


メタルはとても臆病な性格で冒険者を見るなり、スキルを使って逃げてしまうらしい。


だからメタルとの戦闘では、スキルを使わせないように攻め続けて戦うのが常套手段となっている。


「まずマイさんが威力10倍のスラッシュで攻撃してください。その後は僕が攻撃して仕留めます。」


「分かりました。それじゃあ…いきます!!スラッシュ!!」


カツーン!


マイさんの10倍スラッシュがメタルの背後に直撃し、軽快な音を鳴らした。


不意打ちをくらったメタルはビクッ!と驚いてはいたが、全く攻撃は通じていないようだ。


マイさんの攻撃は地面を少し削っていたが、メタルのいるところだけ何事もなく無事だった。


とりあえず今の攻撃で逃げられないように…


「咆哮発動!うおぉぉぉぉぉぉおお!!!」


咆哮を使いメタルの動きを止めたら、立て続けに攻撃を仕掛ける。


咆哮の効果時間は3秒、この短い時間でどれだけダメージを稼ぐことができるか…


「おんどりゃぁぁぁあ!」


めいいっぱい腕に足に力を込めて、短剣でメタルに斬りかかる。


硬いせいで剣で斬りつけているよりも剣で殴りつけている感覚に近かった。


こんだけ攻撃を繰り出しているんだ、マイさんの10倍スラッシュよりはダメージを与えれていると思いたい。


3秒が経ち、効果が解除される。


そしてすかさず咆哮再発動。


「うおぉぉぉぉぉ!!」


さっき確認したときMPの残量は46しかなかった。

咆哮も3回までしか使えない。


時間との勝負にもなってきた。


剣で何度も何度も斬りつけていると、最初は余裕のあったメタルの顔も徐々に険しくなり始めた。


「メメッ…メタタァ!」


「これなら次でいける!」


2回目の咆哮の効果がきれると、俺は間髪入れずに3度目の咆哮を発動させた。


「うおぉぉぉ!っ…ごほっ!ごほっ!」


魔力を込めているせいなのか、単純に腹から声が出ていないせいなのか分からないが、喉が痛い…


大声を出す、咆哮を使う上でこれが1番の難点だよな…


先ほどと同様、剣で何度も何度も何度も斬りつける。


あと少し、もう少し…と思っていると


バキッ…


あれ、今なんか嫌な音がしたような…


バキバキ、バッキーーン!!


「うそーーん!!」


剣が粉々に砕けた。

俺の愛刀がぁぁぁぁ!


かれこれこの剣を2年使っている。


冒険者用の装備販売店で売れ残って安売りされていた短剣だ、寿命も短いと思っていたが今かよ…


3度目の咆哮の効果もそろそろきれる。


どうする!

このまま逃げられたら、マイさんにカッコいいところが見せられないじゃーないかッ!!


悩んでいると、ついに効果がきれてメタルは逃げ始める。


「メータッ!メータッ!」


「えっ!」


スキルを使用したのか、逃げながらメタルの体が透けていく。


「マズイ!逃げられる!」


完璧に姿が見えなくなってしまうともう追えない。

どうにかして完全に姿を消える前に仕留めなくては!


俺は逃げるメタルを追いかけながら、頭をフル回転させる。


何か、何か使える手はないか……

はっ!アレが使える!


本当は使いたくないが、今は後先考えている場合じゃーないッ!


ダイビングジャンプし、消えかかっているメタルをなんとか捕まえ


「んんんー!噛みつく!!」


ガチン!


鉄の味がした。


人体で1番硬いのは歯だ。

俺の歯は今まで虫歯になったことはないし、毎日牛乳を飲んでカルシウムを摂取しているから丈夫だぞ!!


口の中でメタルはブルブルと震え始めた。


「メメメッ!?メタァァァ…」


そしてメタルスライムの体は霧となって爆散した。


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レベルアップしました。

Lv10→12

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や、やった!!

レベルが2も上がった!


1は上がるだろう、2上がったら御の字だなと思っていたのでついている。


「やりましたね!!トモヤさん!私、めちゃくちゃレベルが上がりましたよ〜!」


後ろにいたマイさんが兎のようにぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。

可愛い。


「メタルスライムと戦っているトモヤさんとてもカッコよかったです!」


マイさんは笑いながらこちらまでやってきた。

可愛い、嬉しい。


「ただ最後のあれは意外でした…なんと言うか野生児みたいでしたね…でも結果的にメタルを仕留めれたのでナイスプレーでした!」


マイさんはそう言いながら苦笑いを浮かべた。

恥ずかしい…


「あははー…」


気にするな、トモヤ。

可愛い子の笑顔が見れたんだ、それで満足だろ?


「どれくらいレベルアップしたんですか?」


「私レベル19になりました!」


「え!すごい!羨ましいなー。」


「羨ましい?」


しまったつい本音が…


「あ、いや!なんでもないです。」


いつか本当のことを話そう。

嘘ついてごめんなさいと言おう…うん。


レベルが上がったことで、『私益世界』も変化していた。


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レベルアップにより使用回数が全回復しました。

レベルアップにより『私益世界』の使用回数と回復時間が増加しました。

使用回数:10→12

回復時間:1時間→1時間12分

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レベルアップ時に使用回数と回復時間が増加することが判明した。


成長するたびに使用回数が増えてステータスはどんどん奪えるようになるが、その代わり成長速度はどんどん鈍化していくと。


メリットとデメリットきちっとしている。


けど俺の場合、デメリットの方は別に気にしなくてもいいかな。

俺成長性ゴミだからそうそうレベル上がらないし。


初めて成長性がゴミであることに感謝した。


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『私益世界』自動発動しました。

【使用回数12/12】

これによりステータスが上昇します。

対象:メタルスライム

HP +6  MP +62 

ATK+1  DEF+197  AGI+27 

INT+3  MD +186  DEX+1

LUK+1  SPI+1


獲得スキル:透明化

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流石メタルスライムというべきだ。

防御力、魔法防御力ともに3桁。


銅の冒険者が渾身の一撃をくらわせて、やっとこさダメージを入れることができる値だ。


そりゃー全然攻撃が通らないよな…

銀の冒険者になれば別なんだろうけども。


しかし今回の1番の戦果は防御力を奪えたことなんかではない。


スキル『透明化』!

なんだそのいかがわしい能力は!!けしからん!


俺はウキウキしながらスキルの内容を確認する。

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