第14話 落ちるのは恋だけにしたい

「チェーーーーンジ!!!」


咄嗟に俺はマイさんと位置を入れ替える。

スキルを使用し、俺の体は宙に浮く。


「もう一回チェーンジ!!」


「ガル!?」


2回目のチェンジでキングと位置を入れ替える。

そのままキングは渓谷の闇へと消えていった。


危なかった…


「うっぷ…」


気持ち悪りぃ…MPいっぺんに使いすぎた。


キングのやつ、今さっき加速しやがった。


あれは魔法タイプでも強化系だな。

ウルルフが戦技タイプのスキル持っていたから、キングも一緒だと思っていた。


魔法タイプのスキルは更に細かく攻撃系、幻術系、補助系、強化系 の4つの系統に分けることができる。


攻撃系は言わずもがな対象にダメージを与えるスキルで、幻術系は対象にデバフを与えるスキルのことを指す。


補助系は特殊能力を発動させたりするスキルが多く、強化系は自身や対象のステータスを向上させるスキルとなっている。


俺の愛用しているチェンジは補助系に分類される。


しかし驚いたな…キングには弱い方を狙う知性があるのか。


さっきまでのウルルフは連携力こそあれど、決して狙う相手の強さを判断して攻撃をしてくることはなかった。


これが銅の冒険者が通うダンジョンなのだなと実感した。


それにしても、俺はチェンジに何回命を救われただろうか。


流石ボスモンスターから出たスキルなだけはある。


木の宝箱でこれほどのスキルが出たのだから、金の宝箱からは一体どんな強力なスキルが出てくるのだろうか。


渓谷に落ちたキングは下まで落ちてたぶん死んでいるはず。

それでも『私益世界』が発動していないことを見ると、やはり直接自分で仕留めないと意味がないらしい。


あの加速スキルが欲しかったが、マイさんの無事を

喜ぶ方が先か。


「トモヤさぁーん!ごめんなさいぃ!」


マイさんは俺の胸の中に飛び込んで、子供みたいに泣き始めた。


髪の毛から甘い匂いがする…

普段であれば、そこら辺の酸素が消えるまで空気を吸っていただろう。


ただ今は疲れた。


MPの使いすぎによる疲労を回復するためしばらく休憩をすることになったのだがマイさんは俺から離れようとしなかった。


ずっと俺の胸の中で、うぅと鼻水を少し垂らしながら泣いていた。


そんなマイさんも可愛かった。

綺麗な顔は鼻水を垂らしていても綺麗なんだな。


休憩後、気を取り直して下の階層へ進むことに。


4階、5階ではキングが出ることはなかった。

ようやくウルルフの連携にもなれてきた頃、困ったことに一つの群れにいるウルルフの数が4匹ほど増えた。


8匹のウルルフによる総攻撃は流石にこたえたが、マイさんはとても張り切っていた。


最大威力の10倍スラッシュで蹴散らしていた。


しかし俺もマイさんばかりに任せるわけにはいかない。


スキルの使用回数が完全回復したので俺も1匹だけ狩った。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

NAME:小林智也 Lv10

HP :258/258    MP:46/111

ATK:200  DEF:158   AGI:158

INT:91    MD:80   DEX:107

LUK:25   SPI:60   LER:G

特殊スキル:私益世界【使用回数7/10 0:55】

スキル  :咆哮 チェンジ 噛みつく

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確実に強くなっている。

これは嬉しいかぎりだ。


階段を降り、とうとう俺たちは最下層の6階までくることができた。


6階層もこれまでのフロアとは大した違いはなかった。


強いて言うならば、冒険者の数がどのフロアよりも圧倒的に多かった。


中央の広場では、あちこちで戦闘がおきている。

モンスターや冒険者の叫び声、スキルによる音でうるさい。


「こんなに人がいたらメタルスライムはおろか、ウルルフですら狩れないですね。」


「どうします?諦めて上に戻りますか?」


「いえ、中央ではなくマップの隅を探索しましょう。そこなら人はいないでしょうし。上に戻るとほら、また私落とされかねませんし…」


マイさんは顔を曇らせる。

たしかに俺も一回目のチェンジでちょっと渓谷に落ちたがあれは怖い。


体が重力によって引っ張られるあの感覚は恐怖でしかない。


「しかも意外とそういうところにメタルがいるかもしれません!」


それは一理あると思う。

ただ最下層にはあいつもいるんだよな…


「ボスモンスターもいるかもしれないですよ?」


「うっ、それでも私はメタルを探したいです!」


どうしてもマイさんはメタルスライムの大量経験値が欲しいようだ。


成長性がDであれば5つくらいレベルが上がるからな、優先して狩りたい気持ちも分からなくもない。


しかもメタルはそんなに強いわけでもない。


ランクがDと設定されているが、それは狂暴だからというわけではなく単純に硬いからだ。


防御力がレベチで高い。


そのくせ魔法タイプの攻撃系スキルは全部効果がない。


効果がないというより、MD、魔法防御力も高いので狩るのが難しいからだ。


正直マイさんの攻撃力では到底、ダメージを与えることができないと思う。


最大威力10倍スラッシュを使っても1ダメが限界だろうな。


まぁ俺が攻撃をして倒せばいいんだけどね。

攻撃力200の俺なら、硬いと言われているメタルにも攻撃が通るはず。


てか『私益世界』を使いたいから、最初から俺が仕留めるつもりだったけど。


そういうことで、俺とマイさんは人が密集している中央を避け、階層の隅を探索することにした。


◇◇◇◇◇◇◇◇


しばらくメタルが隠れていそうな場所をしらみつぶしに探したが見つけることができなかった。


必死になっているマイさんのためにも1匹くらい見つけてあげたかった。


頼む!いてくれ!と心の中で呟いたのも無駄になってしまった。


流石にマイさんもここまで探してもいなかったので諦めたようだ。


「かえりましょう…」


マイさんが細く小さい声で敗北宣言したその時、遠くの岩陰がキラリと光ったのを俺は見逃さなかった。


ゆっくりと近づき、気づかれないように覗き込む。


そこには何時間も探し求めた、鋼色の光沢が美しいスライムがいた。

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