第9話 圧迫面接は怖い
俺は受付のおばちゃんに管理長室へ通された。
管理長室のドアを開けると、部屋の中はまるで小学や中学の校長室のようだった。
奥に作業用のデスクが置いてある。
手前の長机の両サイドにソファがあり、下座の方には管理長と思われる高年男性が座っていた。
俺こういう部屋嫌いなんだよな…
部屋の壁には無駄にデカい何なのかよく分からない絵が飾られている。
恐らく…猫だろう。
耳が尖っているし、ヒゲもついている。
黄色と黒色のシマシマ模様でカワイイ…かもしれない。
これが芸術ってか、俺には理解できない世界だ。
「わざわざこちらの部屋まで来ていただきありがとうございます。ささ、どうぞこちらにお座りください。おや…どうやらこの絵がお気に召されたご様子で」
「あ、いえ。なんとなくカワイイなと…」
「おっ、若いのによくお分かりで!そうなんですよ、このトラ、トラなのにどことなく愛嬌があるのがいいですよね!」
この絵、虎だったんかい!
「そ、そうですね…」
俺は苦笑いでしか返事ができなかった。
「初めましてトモヤさん。私はこのダンジョンの管理長をさせていただいています、
そう言いながらハヤマさんは名刺を出してくれた。
んん?ハヤマ…一緒だな、もしかして…
「あの間違っていたらすみません。ハヤマさんは門出で受付をされている葉山リナさんのお父様でしょうか?」
ハヤマさんはリナさんの名前を出すと、これでもかと言わんばかりの笑顔を見せた。
「おぉ娘を知っていたんですね。娘は元気にやっていましたか?」
「はい、とても!」
「そうですか、それは良かった。ここ最近はろくに連絡をよこさないから心配していたので安心しました。」
リナさんの笑顔はたぶんユウジさん譲りなのだろう、よく似ている。
「おっといけない、話がそれてしまいましたね。早く今回の異常事態について聞かなくては。」
ユウジさんの笑顔が一変、仕事人の顔になった。
「さてとトモヤさん、あなたが見たのは本当にギャングゴブリンでしたか?ゴブリンの強化個体ではなく。」
一気に重力が2倍にも3倍にも増した気がする…
しかもなんだ?なんでこんなにも息苦しい…
ユウジさんから発せられる威圧感が半端ない。
部屋の中だから風なんて吹いているはずないのに、目を開けるのが難しい。
「あ、あれは間違いなくギャングゴブリンです。教科書で見たままでした。間違いありません。」
ユウジさんの体が大きくなっている気がする…
今にも食われてしまいそうな恐怖を感じた。
「なるほど、ではそれがボスモンスター扱いになっていたというのは?」
「そ、それも本当です。受付にいた女性にもお話ししましたが、ギャングゴブリンが木の宝箱を落としました。これが証拠です。また討伐後、ダンジョンの天井が青く光るようになりました。一緒に帰ってきたマイさんも証言してくれるかと思います。」
「最後の質問です。ダンジョン内でフードを被った不審な人物を見かけませんでしたか?」
「いえ、見てません。」
マジでユウジさんの目が怖かったが、なんとか耐えて話した。
企業の圧迫面接ってこんな感じなのだろうか…
「分かりました。」
この一言で体が軽くなるのを感じた。
部屋の重力が元に戻った。
ユウジさんの体も縮んで元の大きさに戻ったように見えたのは気のせいか…?
ユウジさんはさっきの笑顔を見せてくれた。
「いや〜ごめんなさいね。無断で特殊スキルを利用しちゃって。ちょっとトモヤさんを試したくて。」
へ?
「いやね、昨日卒業したばかりの冒険者がいきなりDランクのモンスターを討伐したって言うもんだから〜。嘘こいてるんじゃないかなーって思ってね。ホントごめんなさいね!」
あの異様な雰囲気はユウジさんの特殊スキルによるものだったのか…
「いえ…大丈夫です。信用して頂いてありがとうございます。」
「アハハ!確かに君、卒業後1日目でギャングを仕留めただけはあるよ。鉄、いや銅の冒険者でも今ので気絶するかもね。少なくともSPIが40はないと耐えられないように調節したから。」
SPI、精神力が高いと幻術系スキルの効果が薄くなるとされている。
ユウジさんの特殊スキルは幻術系なのだろうか。
「それは良かったです。あの…フードを被った不審な人物を見たかっていう質問がよく分からないんですが…」
「いや〜あれは気にしないでください!こっちの話なんです。」
気にしないでくれと言われると逆に気になるのが人間。
詳しく聞きたかったが連盟にも教えたくないことがあるんだろうと思い、切り出すのをやめた。
「それと行方不明者を見つけ出してくださりありがとうございました。このゴブリンパラダイスは比較的危険度が低いので殉職者は滅多に出ることはないんです。ただここ最近いなくなる人が多くて…もしかしたらその人達はギャングの被害にあっていたのかもしれません。感謝申し上げます。」
深々と頭を下げてくれた。
「そんな頭をあげてください!僕が見つけれたのも本当に偶然で…あの、僕からも一ついいでしょうか?今、坂井ミホさんはいらっしゃいます?」
「彼女は今日もう帰ったと思いますが…あ〜そういえば坂井さんが地図を渡し忘れたのもあなたでしたね。その件についても大変失礼しました。以後このようなことがないように教育していくつもりです。」
再度、深々と頭を下げてくれた。
「あの大変申し上げにくいのですが、その件はたぶん僕以外にも被害者がいるかと…」
ユウジさんの顔がなんですと!と言わんばかりに驚きを見せている。
「ど、どういうことでしょうか?」
「どうやら行方不明になっていたマイさん、実は彼女も地図を持っていなかったらしいんです。受付をしてくれた人をたまたま覚えていて名前を聞くとミホさんだということが分かりました。」
ユウジさんの顔から血の気が消える。
消えたと思ったら今度はみるみる赤くなっていった。
慌てて立ち上がり、デスクの上にある固定電話で声を荒げながら話している。
「すぐ彼女を呼び戻せ!!あぁ?パワハラだ?今はそんなこと言っとる場合かぁ!!」
優しい人を怒らせると怖いっていうのは本当だな。
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