第8話 シャワーより風呂がいい
「あっ、宝箱。忘れてた。」
ギャングが爆散した所を改めて見ると木の宝箱が落ちていた。
ボスから落ちる宝箱は全部で3種類あり、下から木、銀、金となっている。
宝箱のグレードはダンジョンのレベルや冒険者のLUK値が高ければ、良いものになる確率が上がる。
グレードに応じて中身の価値もよくなる。
残念ながら今回は木の宝箱だったが、それでも中身は期待してもいい。
中身の内容は3種類で、武器や防具、強力なスキルとなっている。
宝箱から取れる武器や防具には基本的に、スキルがエンチャントされている。
品にもよるが鉄以上の強度を持つ物も存在し、そんじゃそこらのモンスターでは傷すらつけることができないらしい。
冒険者市場でも高値で取引されている。
俺も一度宝箱から出た剣を見たことがあるが、値札には数字の後ろに0が5つ、ついていたので諦めた。
一方、スキルの場合は箱の中身がない。
宝箱を開けた後、自分のステータス画面を開くと自動的にスキルが追加されている。
3つのうち、どれが出てもハズレではない。
今すぐにこれを開けて中身を確認したいのだが、憔悴しきっているマイさんを見ているとそれどころではなかった。
俺はサッと木の宝箱を拾い、出口を目指すことにした。
〜2時間後〜
運良くモンスターとは遭遇せず、出口まで辿り着いた。
リトルやノーマルとはいえ、疲れきっている人を守りながらの戦闘は厳しいものになるので助かった。
外に出ると辺りは完全に暗くなっており、風も少し冷たかった。
マイさんは久しぶりの地上を見て安堵していた。
「ここまでくればもう安全です。ただもう少しだけ頑張ってください。連盟に報告しなくては」
換金所に入ると、受付にはまたもやミホさんの姿はなく、代わりに座っていたおばちゃんに報告をする。
「行方不明になっていた人を無事発見しました。依頼達成の確認よろしくお願いします。」
「私は行方不明になっていた立川舞です。お騒がせしました。」
マイさんは自身を証明する冒険者ライセンスを見せる。
すると受付のおばちゃんは目を丸くさせながらマイさんのライセンスを確認し、椅子を後ろにガタッとさせて立ち上がった。
「まぁ!見つかったの!!良かったわ!さぞ怖かったでしょう。とりあえず体を休めましょう!話はその後よ!さぁさぁついてきて!あ、何か食べる物もいるわね!探してくるわ!お兄さんはそこでちょっと待っててくださる?今からこの子を医務室に連れて行きますから。手続きはその後で。」
そう言うと、おばちゃんは俺の返事を待たずにマイさんを医務室に連れて行った。
数分後おばちゃんは帰ってきて、依頼達成の手続きを始めた。
依頼達成できると報酬が出るのだが、そこそこの額が支払われる。
受付のおばちゃんがお待たせしましたと言いながら、20万円持ってきた時は驚いた。
たがまぁこれでも安いほうなのだろう。
俺もだが、だいたいの冒険者が連盟の生命保険に任意で加入している。
万が一、依頼状を出しても見つからなかった場合、遺族に最低でも500万円の保険金が支払われるようになっているからだ。
俺は目の前にある20枚のお札を一枚一枚丁寧に財布へとしまった。
「マイさんの容態は?ここに戻ってくるまでの感じ、大丈夫だと思うのですが…」
「はい。3日もろくに食べ飲みすることができなかったようですが、彼女はレベルアップによるHP全回復を利用していたので命に別状はありません。ただバットステータスの『飢餓』になっていました。」
バットステータス、ゲームでいう状態異常のことを指す。
食べ飲みをしないと『飢餓』の状態になる。
この状態異常はステータスの最大値が徐々に減っていく。
HPやMPに関しては最大値は減らないが、勝手に消費されていく。
一日中何も食べないとステータスが1%減され、2日目になると5%、3日目以降はそこから5%ずつ減少率が追加されていく。
依頼状の期限が2週間に設定されているのは、この飢餓状態の存在が大きい。
依頼が出されるまでの3日と合わせて17日後にはステータスが80%も減少している。
そんな状態ではモンスターで溢れているダンジョンで生き延びることは不可能と判断されるからだ。
今回マイさんが早めに見つかって本当に良かった。
俺はとりあえずマイさんの無事を安心し、次はこのダンジョンでは出るはずのないギャングゴブリンについて話した。
「なんですって!Dランクのギャングゴブリンがこのダンジョンで出た!?なんでそれを早く言ってくれないんですか!!そんな異常事態すぐ解決しなければ!このダンジョン内には鉄の冒険者しかいません!撤収を呼びかけなくては!」
「あ、いや、ギャングは俺が…」
焦っているのか全く俺の話に耳を傾けてくれない。
「それに近場の中ランクダンジョンから銅、いや銀の冒険者を呼んですぐ対処しなくては!」
「倒しました。ギャングは俺が」
「え、今なんとおっしゃいました?」
「だから僕が倒しました。」
おばちゃんの両目が確実に飛び出ていたのを俺は見逃さなかった。
「し、失礼ですがランクは?それとレベルを…」
「ランクは鉄で、レベルは10です。倒した証拠はないですが、ギャングはなぜかダンジョンのボスモンスター扱いされていたので宝箱が落ちました。これがその宝箱です。」
俺は自分のライセンスと木の宝箱を見せる。
おばちゃんの額の汗が止まらない。
「信じられない…ちょっ、す、少しお待ちを…管理長を呼んできます。」
おばちゃんは急いで奥に入っていった。
行方不明者が見つかり、存在しないモンスターが発生し、それを鉄の冒険者である俺が倒した。
頭が混乱するのも無理はない。
スマホで時間を確認すると9時半になっていた。
もうこんな時間か…
この報告が終わったら久しぶりにシャワーではなく浴槽にお湯をためて肩までしっかりと浸かりたい。
さすがに俺も疲れた…
そんなことを思っていると、おばちゃんが戻ってきて
「奥の部屋へどうぞ、管理長がお待ちです。」
…まだまだ帰れそうにない。
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