第7話 油断はしないが吉
ギャングゴブリンはDランクモンスターだ。
通常Dランクのモンスターは、レベル8を超えるダンジョンから出現する。
こんな低レベルのダンジョンに出ることはない。
ギャングはリトルやノーマルの比にならないほど強いと聞く。
ギャングは鋭いキバを見せながら彼女を笑っていた。
「ギャハハ!」
「いや…いや、いや!!くるなぁ!!」
ガキャーン!
女冒険者はギャングに向かって剣を振るも、虚しい音を出しながら折れただけで傷をつけることはできなかった。
「あ…あ…」
彼女は折れた剣を見て口をパクパクさせている。
ギャングは腕をのばし彼女を掴もうとしていた。
「ちょっと待てぇい!!」
キラン!
不意打ちによりクリティカルが発生、ギャングの腕を地面に切り落とすことに成功した。
「グギャーーーー!」
今の感触は…?
あいつの腕…彼女の鉄の剣を折るほどの硬さを感じなかった。
クリティカルが出たおかげか?
「ギャルハ!」
腕を一本だけにされた怒りからターゲットを俺に変えたらしい。
俺に向かって殴りかかってきた。
ぶるんっ!ミス!
ギャングの攻撃をなんなくかわす。
ぶるんっ!ミス!
ひらりと余裕もってかわす。
ぶるんっ!ミス!
またもや攻撃をかわす。
…意外といけるんじゃね?
攻撃力は確かにあると思う。
だが図体がデカいせいで攻撃自体はトロイ。
当たらなければ問題ではない。
案外大したことはないな。
出現することのないモンスターが出て驚いたが、Dランクだからといってビビりすぎていたのかもしれない。
ギャングは一生懸命、一本だけの腕で何度も殴りかかってきたが俺に一撃も与えることができなかった。
ギャングはとうとう疲れたのか攻撃をやめて、息をハアハアさせている。
勝ったな。
完全に勝利を確信した。
しかしギャングはそんな俺を見て小さく笑い、大きく息を吸い込み始めた。
何をしているんだ?と思ったが、すぐにギャングの行動の意味に気がついた。
「しまった!こいつスキルを!!」
今までのモンスターがスキルを使ってくることはなかったので完全に警戒し忘れていた。
Eランク以上のモンスターはスキルをみんな持っているのでガンガン戦闘で使ってくる。
冒険者教習では、あれほどモンスターのスキル攻撃には気をつけるようにと言われていたのに。
「ギャァぁぁぁぁいい!!」
すごい大声でギャングは叫んだ。
地面が揺れている。
う、動かない!
ギャングの叫び声を聞いた後、金縛りにあったかのように体を1ミリも動かすことができなくなった。
力を入れようとするも一切入らない。
ギャングはニタニタと笑いながら突進してきた。
これで形成逆転だなと言わんばかりの笑顔をしている。
ぎゃー!調子に乗った!
さっさと倒しておけばよかった!!
ごめんなさーい!!と叫びたかったが、口も硬直して動かなかった。
死を覚悟した瞬間、
「危ない!!」
横に吹っ飛ばされ、ギャングは後ろの木を何本も吹っ飛ばしていた。
見ると女冒険者が助けてくれたようだ。
「助かった…ありがとう」
体が動く!力が入る!
吹っ飛ばされた後は体が動くようになっていた。
すぐに体勢を直し、剣を構える。
「よくもぉ!おんどりゃぁぁぁ!!」
渾身の力をこめて、頭のてっぺんから勢いよく斬りつける。
「ギャルーーン!!」
刃がとおり、ギャングの体を一刀両断することができた。
ギャングは青ではなく赤い霧となり爆散した。
こいつがボスだったのか。
赤い霧はボスモンスターの証である。
確認のため天井を見ると、青く光っていた。
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『私益世界』自動発動しました。
【使用回数3/10 0:28】
これによりステータスが上昇します。
対象:ギャングゴブリン
HP +68 MP +20
ATK+57 DEF+42 AGI+32
INT+17 MD +14 DEX+22
LUK+4 SPI+16
獲得スキル:咆哮
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流石Dランクのモンスターだ。
リトルやノーマルとは比べもんにならないステータスを大量に奪うことができた。
そして今回は消費回数が4も減っていた。
もしかして、モンスターのランクによって消費回数は変動するのかな。
Gは1、Fは2、Eは予想だけど3で、Dは4って感じ。
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NAME:小林智也 Lv10
HP :175/175 MP:70/70
ATK:131 DEF:109 AGI:84
INT:56 MD:53 DEX:73
LUK:22 SPI:45 LER:G
特殊スキル:私益世界【使用回数3/10 0:28】
スキル :咆哮
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『咆哮』初のスキルをゲットすることができた。
タップして内容を確認する。
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スキル:咆哮 消費MP15
魔力をこめた大声で対象を3秒間行動不能にする。
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強い。
3秒って短く感じるが、生きるか死ぬかの戦闘時には3秒でもありがたい。
そんなスキルを軽々と習得することができる『私益世界』は、やっぱりチート級の能力だな。
「あの…、助けてくださりありがとうございました。私は立川舞といいます。本当に死ぬかと思いました。」
この女冒険者は予想通り、行方不明になっていたマイさんだった。
マイさんは深々と頭を下げた。
「いえいえ、頭を上げてください。あなたが立川マイさんでしたか。連盟の依頼状にあなたの名前が載っていました。見つかってよかった。」
「見つけ出してくれてありがとうございます。もうダメだと思っていました。私、このダンジョンには初めてきたんですけど、いきなり迷子になってしまって」
「それはお気の毒でした…ん?迷子?地図はどうしたんです?あれがあれば迷わずにダンジョンを探索できるのに。」
「えっ?地図なんてものがあるんですか?」
マイさんは目をまん丸にしながら俺を見ている。
ガチで驚いている。
「ほら、これですよ。受付で貰いませんでした?」
バックから地図を取り出して見せる。
「いえ、見たことがないです…」
地図という存在を本当に知らないって顔だ。
もしかして…
「マイさん…覚えていたら教えて欲しいんですけど、ここに初めてきた時、受付してくれた人は女性でしたか?」
「はい…そうだったと思いますが」
「その人、黒髪のロングでした?」
「はい!それに笑顔も素敵な人で!」
「名前覚えていたりします?」
「えーと…自信ないですけどたしかミホさん?だったと思います!」
「なるほど、分かりました…」
これはダンジョンから出た後、色々と聞かないといけないな。
マイさんだけじゃなく、ミホさんからも…
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