お手柄ピニー

「キャッシー、どこにおるの?」

「しっ、ママ静かにして」

 トムは唇に手を当てると、キャッシーの部屋のクローゼットに近付いた。

「ビープ、ビープ」

 中からキャッシーの寝息が聞こえた。

 さっき開けたときウサギやラクダのぬいぐるみに混じって、ピンク色のぬいぐるみを見たような気がした。それは他の縫いぐるみに埋もれて気が付かない程度だったが。

「ピニー、もう出て来てもいいぞ」

 トムが声をかけると、涙の痕をピンク色したふくよかな頬に遺したピニーが、ぬいぐるみをかき分けて飛び出して来た。

「ママー、ママー」

「ピニー、よく無事でいてくれた。ああ、神様ありがとう」 

 無宗教のはずのママが祈りだした。

 そして、小一時間もしただろうか。

「ピニー、ずっと抱っこしててあげてたいんやけど、ご飯の用意しなくちゃ」

「いい、食べへん」

「えっ、そんなこと言わんといてくれ。ママ、僕はペコペコだよ」

「トム、まだ荷物を持っていたん?」

「だって、これいざというとき武器になるだろ。ブンブン振り回せば」

「もう大丈夫やと思うから、荷物をおろして」

 キッチンに立ち上がったママのお尻にピニーはへばりついていた。

「あら、あら、赤ちゃんみたいやねえ、トム、ベーコンを出して焼いてくれへん」

「えっ、何枚焼くん?」

「好きなだけ焼いてええわよ」

「ヒャッホー、好きなだけやて、ピニーは何枚食べる?」

「私いらん、お兄ちゃんにあげる」

 それからのピニーはママがトイレへ行くときも離れなかった。それでも少しずつ隠れていたクローゼットの中で知り得た情報を口にした。

 以前、姉のプレビーを玄関先まで送って来た男とその仲間だったという。その姉もすでに捕まっていて、家族を狙って押し入って来た。どうやら姉のプレビーのお腹には赤ちゃんがいて、出産するまで待つというようなことをクローゼットの外で話すのが聞こえてきたと言う。

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る