キャッシーが消えた

「あら、玄関の扉が開いているやん。鍵をかけて行ったのに」

 ママは玄関横のクローゼットを開けると、パパのゴルフセットからゴルフクラブを1本引き抜くと僕に渡した。いつもは触っちゃだめと怒るのに。ママはもう1本引き抜くと、手袋を外し、指先の色がが変わるほどギュッとクラブを握り締めた。

 足音を忍ばせてキッチンに向かう。

 ぼくもママのあとに続く。

 すごくドキドキして、鼻を鳴らしたいけど我慢した。

 今度は2階への階段を上がった。

 ぼくもソロリソロリとついていく。

 ときどき、階段の軋む音がして、ママが振り返ってギロりと睨むけど、わざとやない。足をそっと乗せるけど、ギシッて音がして、でも、今のは僕やないよ。ママだって音を立ててるやないか。

 手前のパパとママの寝室の扉をママが開け、ぼくはいつでもゴルフクラブを振り落ろせるように身構えた。

 でも、そこには誰もおらへんで、奥のバスルームにもベッドの下にも何もおらんかった。

 ぼくの部屋にも誰もいてへんかったけど、散らかしているのがバレちゃった。

  キャッシーの部屋にも誰もいなくて、キャッシーでさえ消えてしまった。

  あと残るはお姉ちゃんのプレビーの部屋やけど、ここはいつも鍵をかけてあって開かへんのや。

 誰もいないとわかるとママは大きな声で呼びかけた。

「キャッシー、キャッシー」

 妹のピニーは連れ去られたんやろか?




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