買い物

「はい、いらっしゃい。何にしましょう?」

「えーと、ベーコンを1kgと」

「あいすいません、お一人様500gでお願いしているんです」

「あら、それじゃこの子の分とで」

「わかりました、今日だけですよ。何しろ食糧難で物資が不足していて」

 商品は全て大豆から作られている。それでも規制は厳しい。

「ありがとうございます。あと、ウインナーも1kgとミンチ肉も、あら、帽子が」

 トムの被った帽子が風に煽られて、商店街の道中を土埃とともにクルクルと転がって行った。

 すると金物屋の前の店先に繋がれた一頭のロバが、足で止めてくれた。

「あっ、ドナおじさん」

「えっ、プギーか?」

「そうや、ぼくプギーやよ。ママはトムって呼ぶんやけどね」

「長いスカートに眼鏡にマスクしているからわからなかったよ」

「うん、変装しなければ外に出られへん」

「ああ。用心にこしたことない」

「キャッシー、キャッシー」

「ママが呼んでる。今はぼくキャッシーなんや」

「キャッシー」

「ママー、ここやよ」

「もう驚いた。帽子はあったん? 帽子が取れてもスカーフ被っておいてよかったやろ。キャッシーは嫌がったけど」

「うん、ドナおじさんが拾うてくれてん」

「えっ、ドナおじさんがいたん?」

「ほら、あそこに。あれ、もういてへん」

「何だか胸騒ぎがする。キャッシーが心配やわ」

「キャッシーならここにおるよ」

「妹のキャッシーよ。はいこれ持って、急いで帰りましょう」

「うへ、重たいや。ママ、いったいどんだけ買うたの」

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