第2話 隼斗の祈り
────神よ、どうかお願いです。ほんの少しで良いのです。
次の世では姫様よりも先に生まれ、頼りにしてもらえますように────。
戦国の世は終わり、時は流れ流れて令和の世へと移る。
(参ったな……)
人通りの少ない早朝の歩道橋に立ち、隼斗はふぅとため息をつく。
からりと晴れた冬の空。
歩道橋から見えるのは、これが同じ日の本なのかと疑ってしまう風景───コンクリートの建物とアスファルトに覆われた道路だけだ。
(必ず探すと約束したのに、どうしたら姫様を探すことが出来るのだろう?)
生まれた瞬間から徐々にはっきりとしてきた前世の記憶。
幼い頃は身動きの出来ぬ自分に苛々したものだが、こうして動けるようになった今も前世の約束を果たせないでいる。
隼斗の心には、日に日に焦燥感だけが降り積もってゆくばかりだ。
「隼斗くん、視線こっちにお願いしまーす!」
「あ、はい」
慌てて視線を戻すと、カメラマンが隼斗の姿を連写する。
春物の薄いコートでは震えるほど寒かったが、撮影はすぐに終わった。
隼斗はファッション雑誌のモデルのアルバイトをしている。高校生のバイトとしては破格の値段だが、プロのモデルと契約するよりは断然安上がりだ。
雑誌の売れ行きは年々減っているらしいから出版社も必死なのだろう。ちょっと見目の良い学生をスカウトしてはモデルに使っている。
このバイトは、隼斗にとって渡りに船だった。
「隼斗」という名前は本名ではない。隼斗の両親は彼に全く別の名を与えたが、不思議なことに顔立ちは前世の自分とそう変わらない。この顔で、「隼斗」という名で雑誌に載る機会が増えれば、姫様に見つけてもらえるのではないかと考えたのだ。
結局、姫様頼りなことは情けないが、自分の行動範囲内で姫様を見つけられなかった隼斗には、もうこれしか手がなかった。
「隼斗くん! この後、事務所だからね」
「はい」
アシスタントの女性が忙しそうにバタバタと機材を片づけている。
彼らに続いて隼斗も白ワゴン車に乗り込んだ。
「実は、隼斗くんにオファーが来てるんだけど、冬休み中にもう一仕事してみない?」
雑誌社のあるビルの一室で、バイトモデルのスケジュール管理をしている若い男性社員、榊原がニコッと笑った。
「うちの会社の子供ファッション誌からのオファーなんだけど、もしスケジュールが合うようならやってみないか? 子供との絡みだし、メインは小学生女子だから、隼斗くんが嫌ならもちろん断るけど……若くてイケメンなお兄さん役、やってみない?」
榊原の笑顔には無言の圧力がある。
隼斗は正直言って気が乗らなかったが、後々の事を考えて受けることにした。
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