田中先生
[田中先生]
中学校で数学を教える田中先生は、このごろ問題を抱えていました。
娘のミクと、うまくいっていないのです。
ミクが就職する前までは、とても仲が良かったのですが、
ミクが一人暮らしをしたいと言い出して、それに反対したことをきっかけに
険悪な仲になってしまいました。
父親としては、娘が一人暮らしするとなると、やはり心配です。
こちらとしても、条件付きで少しずつ、許してあげるつもりだったのに、
すれ違いが生じて、大喧嘩。
今では、娘は父親のほうを煙たがり、会話さえもしてくれません。
なんとか、娘は今でも家から会社に通っていますが、
そのうち、出ていくのではないかと心配です。
そんな田中先生ですが、娘の前では素直になれず、結局、小言を言ったりして、
ますます嫌われていくことを感じていました。
[ゆうきくん]
田中先生が担任しているクラスには、ゆうきくんという問題児がおりました。
悪いことをするとか、人に迷惑を掛けるというわけではありません。
何を考えているのかわからないような生徒なのです。
たまに説明に困るような質問を投げかけてきます。
「電気を可視化したいのですが、方法はありますか」
「電圧計とかあるよ」
「それは計っているだけです。私はそんな意味を言っているわけではありません。」
というような。
今では先生たちも、ゆうきくんのことをめんどくさそうに避けるようになっていました。
試験も、いつも空白が多くて、試験問題に対する答えが書いていないため、
さんざんな点数で、いつも学年の最下位でした。
そんな、ゆうきくん。
実は一種の天才でした。
世の中のエネルギー問題を解決したくて、
とてつもない集中力で、エネルギーのことを一日中、考えているのです。
それを周りには理解されず、問題児のレッテルを張られておりました。
[新入社員のミク]
そんな、ミクにも1つだけ楽しみがあります。
今は、そのことを楽しみに毎朝、会社に向かっているようなものです。
その楽しみとは会社のビルの入り口で、
毎日、朝の決まった時間にすれ違う、男性のことでした。
すれ違うだけです。名前も年齢もわかりません。
ミクの会社は、大きなビルの3階です。
このビルには、いろいろな会社が入っているので、
この男性とは、朝の出勤時間に会うことから、
このビルに入っている会社のどれかに勤めているのではないかと
いうことぐらいしかわかりませんでした。
でも、初めて見た時から、とても惹かれた気持ちとなり、
日に日にその気持ちは大きくなりました。
そのすれ違う男性ですが、いつも難しそうな顔をしてました。
おとなしい性格のミクにとって、難しそうな顔の男性に声を掛けることなんて、
とてもできませんでした。
せめて、その男性の前で笑顔でいれば良いのに、
会社の同僚や先輩に見られていたらと思うと恥ずかしくて、
ミクにはできませんでした。
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