二章

「…そんな…早すぎる……ああ、どうして……」


「爺ちゃん、どうしたの?」


呼び掛けに応じる事も無く、爺ちゃんは私の手を見詰めたまま、泣き出しそうな顔でぶつぶつと何かを呟くだけだ。


「……準備が出来たら此処を発つ。ダリアも、用意をしておきなさい」


かと思ったら、今度は、急にそんな事を言い出して、再び作業に戻り始めた。


「……え?ここを?出るの?なんで……、そんな急に。大体、準備が出来たらって、いつになるのよ」


「起動テストも含めたら一週間、、いや、それでは遅すぎる……、明後日までには全て終わらせる。冬が来る前に此処を出るんだ」


明後日だなんて、、


幾らなんでも急すぎる。


村の人達への挨拶ですら碌に出来ないではないか。


「そんなの…、嫌だよ、爺ちゃん……。旅は嫌いじゃないけど、やっと、此処を気に入り始めたんだ。……私、私、もう少しだけ、此処に居たいよ」


「我儘を言うんじゃないっ!!!」


今まで、一度も聞いた事のない爺ちゃんの怒鳴り声に、思わず、体が萎縮してしまう。


「爺ちゃん…………?」


「奴らが……奴らが、もうそこまで来てるかもしれないんだ。何故……何故、奴らはダリアを狙うんだ……、古文書には、そんな事、一つも書いてなかったじゃないか……」


意味の分からない事をぶつぶつと呟いている。


「……渡さない、私の娘、可愛いダリアを、あんな奴らに渡してなるものか……」


私は爺ちゃんに何も言うことが出来ず、薄気味悪い感情を残したまま、そっと家へと戻った。

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