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 今日もまた保健室の狭いベッドで白瀬くんと二人眠りにつく。

 雨の降る音はもうしなくて、窓を開けると昨日より涼しい風が入ってくる。むっとしているけれどちょうどいい温度だった。

 昨日まで腕を握っていた白瀬くんは、今日はわたしの身体を抱きしめていてうれしそうに微笑んだ。

 白瀬くんにはずっとこうして笑っていてほしい。けどまだ見たことのない表情もいっぱいある。白瀬くんはどんな風に怒るんだろう。

 やさしい白瀬くんが怒るところが想像できないし、やっぱりすきな人には笑っていてほしいなと思った。

「明日晴れたら鶫森小学校に行ってみましょうか」

「そうだね」

 みんなが生きているか確認しておきたいし、もしもそこではるに会えたら、わたしは全て話してはると決別しよう。

 ずっと不安だったこと、ずっと遠い存在に感じていたこと。すきだったこと。わたしの思いを全て伝えたとして、はるの心はきっと動かないだろうけど。

「真海先輩」

「なあに」

「先輩のこと抱きしめてたらいい夢見れそうです」

 そう言いながら白瀬くんはわたしをぎゅっと抱きしめる。強く抱きしめられるとわたしの早まっている心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと心配になる。

 白瀬くんのことを恋人だと思うと、昨日よりも胸がどきどきして息の仕方を忘れてしまいそうだった。昨日白瀬くんがつけた痕が熱を帯び、それが全身に広がっていく。

「真海先輩、大丈夫? ごめんなさい。強く抱きしめたから」

 甘くて薄い顔が昨日よりも近くにあって直視できない。わたしのすきな人で、恋人で、触れることができて、近くに感じられる幸福に心の底から安心した。

 ほんとうにわたしのことがすきだったんだ。まだ信じられないけど、白瀬くんが今わたしを抱きしめているのも、身体に浮くキスマークも全部ほんものだった。

「違うの。ちょっとどきどきしたから」

「ほんと? 真海先輩かわいー」

「可愛くないよ」

「先輩が可愛すぎて心臓止まりそうです」

 わたしよりも白瀬くんは余裕がある感じがしたけど気のせいだったみたいだ。

 白い頬が赤く染まっていて触れると熱を帯びている。

「白瀬くん」

「みちる」

「みちるくん」

 名前を言い直すと、みちるくんはうれしそうに笑う。その顔が可愛らしくて思わず両手のひらで頬をぎゅっと押す。

「せんぱい」

「みちるくん。すき」

 頬を押されて唇を尖らせた顔もきれいで羨ましい。そのままキスをするとみちるくんは驚いたのか、大きく目を見開いた。

「ずるいです」

「ずるいのはみちるくんの方だよ」

 わたしの身体を抱きしめる細いのにしっかりとした男の子の腕にどきどきして身体が熱を帯びる。

 前髪の間から覗く目でわたしを見るみちるくんは色気があって、犬みたいに人懐こい笑顔を浮かべる可愛い少年とは別人のようだった。

 みちるくんはいろんな魅力を持っていて目が離せない。

「先輩と両思いなのがうれしすぎて、今おれの頭の中ずっとそればっかりです」

「わたしも同じ感じだよ」

「真海先輩のこと世界でいちばん大切にしますね」

 今度はみちるくんがわたしの頬を両手のひらで押して、それからキスをした。

「先輩、大福みたいで可愛い。やわらかい」

 無邪気に笑う。少年みたいな笑顔にまた心を奪われる。

 白瀬くんはわたしに魔法をかけたのかもしれない。図書室の告白からずっと胸がどきどきしていて、くらくらする。

「みちるくんもずるいね」

「先輩もずるいから、おれたち一緒ですね」

 小さく笑うみちるくんの瞳には確かにわたしが、わたしだけが映っていて安堵する。

 間近で顔を見つめながらみちるくんは月みたいなひとだなと思った。やさしくおだやかにひかる月のように静かにうつくしい。

「おやすみ、真海先輩」

 わたしを抱きしめるみちるくんのやさしく甘い声で眠りに落ちる。

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