第24話 崩壊地区アサクサ
2人がアサクサを数分ほど歩き続けると、スラム街に辿り着いた。
その光景はヒトナリの予想に反したものだった。
外ではしゃぎ回る子供の声、威勢の良い露店の店主、昼から酒を飲む人々。
アサクサは活気に満ち溢れていたのだ。
「すげぇ活気だ……」
「変わらないなぁここは」
「イクミは来たことあるのか?」
「まぁ、故郷みたいなもんだよ。こーちゃんにここで拾われたからね」
「そうだったのか……。あ、お前が暴れたって意味、ようやく理解したよ」
「今はそれなりにお淑やかなになったんだけどね」
「そうは見えねぇ」
「あぁっ!?」
ようやく2人の間に、いつものような空気が溢れる。
アサクサの人々の活気がそうさせたのか、ここには金銭の有無では語れない価値があった。
「なぁ、1ついいか?」
「何?」
「イクミが復讐を嫌う理由って何なんだ」
イクミは少しの時間押し黙った。
けれど、直ぐヒトナリに向き直り質問に答えた。
「アタシ、ここで育ったって言ったでしょ?
昼は温かい活気に満ち溢れてるんだけど、アサクサの夜はそれはもう言葉では言い表せないくらい酷いんだ。
窃盗、殺しは当たり前の世界で、皆常にピリピリしていた。
今はアサクサを取り仕切る人間が居るから、そうでも無いんだけどね。
窃盗をすれば報復される。でも生活に余裕が無いから窃盗を繰り返す。そしてまた報復される。
殺しなら斬った斬られたの弔い合戦が毎日の様に行われていた」
ヒトナリは静かにイクミの話を聞いている。
彼女は、おおよそ17歳の少女がして良い筈がない表情をしていた。
「アタシも窃盗をして生活をしていた。ある日、窃盗がバレてさ。
立って帰ることすら出来ないくらい殴られたの。
ああ、アタシここで死ぬのかって本気でそう思った。
その時、助けてくれたのがこーちゃん。
前も言ったでしょ?人嫌いだったって。
あれは全部こーちゃんに救われたおかげ」
「そうだったのか……」
「あ、別に同情とかいはないから。
元はと言えば、盗みを働こうとしたアタシが悪いんだしね」
「安心しろ。
イクミに俺が同情する時は、それこそ世界が滅びる時だ」
「逆もしかりだから。アタシもヒトナリには同情しない」
「俺たちはそれでいいだろう」
「だね」
ヒトナリとイクミの間に生まれた信頼関係は歪ながらも確かなものだった。
お互いにそれを確かめ合うように軽口を叩き合う。
「で、この広いアサクサでどうやって世直し断頭台を見つける?」
「んー……とりあえず昼にしない?
アタシお腹すいちゃった」
「確かに……もう13時か」
アサクサに着いてから1時間。
先程に比べて露店が活気づいている。
「何処かアテでもあるのか?」
「ひとつだけ、アタシの知り合いがやってる店がある。
まぁ、まだそこが残っていたらだけど!!」
イクミは何処かアサクサを懐かしむ様な笑顔をヒトナリに向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます