第21話 邂逅
左腕にギプスも無事外れたヒトナリは、カフェ・てらすの喫茶業務に勤しんでいた。
いつの間にか季節は秋になり、ヒトナリは今日もカフェ・てらすへ向かう。
道すがらにある葉は紅く色付き、美しい風景を彩っていた。
景色に目を奪われていると気付けば目の前にはカフェ・てらすがあった。立て看板には『OPEN』と記さており中から数人の談笑する声が聞こえる。
「藤實ヒトナリ、ただいま退院しましたーっと」
「退院おめでとうヒトナリくん」
「ヒトナリ、おつかれー」
コウタロウとイクミが彼に労いの言葉をかける。
客の中には松島キミの姿もあり、友人と笑みを浮かべながら語らっていた。
「松島さん、笑えるようになったんだな」
「まだ傷心気味なところもあるけどね。アタシ世話焼きだからほっとけなかったんだ」
「イクミくんのおかげで僕は常連を失わなくてすんだよ。
良かった良かった」
コウタロウはキミの笑顔を見ながらホッと胸をなで下ろした。
店内にかかるBGMはクセの強い男性ボーカルがストレートな愛の歌を歌っている。
歌詞は夏を思わせるが、メロディは初秋にピッタリな心地よいものだった。
「お、オカムラチャンじゃん」
「え、なにっ!?ヒトナリもオカムラチャン好きなの?」
「もちろん。メロディと声が癖になるんだよな」
彼らが店内BGMのアーティストについて語らっていると、サビ部分が近付いていた。
それに耳聡く気付いた2人は、声を揃えてメロディを口にする。
『大好きっ!!』
「ヒトナリくんも、イクミくんもこの曲が流行ったあとの人たちだよね?」
ノリノリな2人にコウタロウはつい突っ込んでしまう。
「音楽に年齢は関係ないってこーちゃん!」
「そうですね。好きな曲は流行りとは無関係だ。
でもまさか、音楽の趣味でイクミと気が合うとは思わなかった」
「それ以外は最悪なんだけどねー」
「そうなのかい?僕からは仲良く見えるけど」
「俺が大人になってやってるんですよ」
「あ?今ガキ扱いしたな?ヒトナリ表でろコラァ!」
「あーん?手前ェ覚悟しろよゴラァ!」
「2人とも、まだ営業中だからね?」
2人のやり取りを常連客は笑顔で見ていた。
キミも例外無く微笑んでいた。
――時刻は18時となり、カフェ・てらすは店仕舞いを始める。
夏に比べて短くなった日は、真っ赤に空を照らし沈もうとしていた。
屋外の看板を店先に仕舞おうとイクミが動いた時、その来訪者は突然現れた。
女性は長い黒髪を揺らしながらどんどんイクミの方へ近付いてくる。
「えーっと、すみません。もうお店終わる時間なんですけどー」
「おー!君がイクミちゃんかー!めちゃんこ可愛いねー」
女性は猫可愛がりをする様にイクミにじゃれついた。
イクミは突然のことに何が起こったか気付いていない。
宇宙に放流された猫の様に脳が停止している。
「おい、イクミ早く看板……って、冬道先輩っ!?」
「やっ!ヒトナリくん!この子がイクミちゃんなんだね。可愛いじゃん」
「……とりあえず、そいつショートしてるんで一旦離してあげてください」
「おっとー!?あーごめんごめん!
イクミちゃん、大丈夫?」
メヱコがイクミの前で手を左右に振る。
それが気付になったのかイクミは我に返った。
「な……何すんのアンタァ!?いきなり触るなぁ!!」
「元気でなにより。私は冬道メヱコ、ヒトナリくんの元先輩でーす。気軽にメヱコお姉ちゃんって呼んでね」
「全然気軽じゃないし!こちとら警戒心MAXだってのっ!!」
「あれま、first impressionは最悪って感じ?」
「なんでそこだけ
「ねぇヒトナリ、アンタの先輩なんかスッッッゴク嫌なんですけど」
「気持ちはとても分かる。正直この人は人を選ぶからな」
「えぇーそこまでドン引くぅ?ご、ごめんねイクミちゃん……」
「シャァーーーー!!」
イクミの猫じみた警戒を受けたメヱコに、流石のヒトナリも可哀想に思ったのか、彼女に助け舟を出した。
「で、冬道先輩。態々、店が閉まる時間に来たってことは何か依頼があるんでしょう?」
「おっ、ヒトナリくんも民間が板についてきたねぇ。
ご明察通り。大口の依頼、持ってきたよ」
「だったらさっさとそう言えよっ!!」
「ご、ごめんねイクミちゃーん!メイドの金髪少女があまりにも可愛くて、つい、ね…」
「キモっ!!可愛いって思われるのは好きだけど、アンタのはやっぱりなんかキモいっ!!」
「そんなぁ……でも、何か別のトビラ開きそう」
「アンタ17の女の子に何言ってんだっ!?下手すりゃ犯罪だぞっ!?」
「警察がお縄についたらー……お終いだよねぇ」
「アンタなんかさっさと捕まった方が世のためよっ!!」
「流石にそれは泣いちゃう」
「ちょっ!?大の大人が泣かないでっ……!さ、流石に言い過ぎた、ごめん……」
「なぁーんてウッソー!イクミちゃんは優しい娘だねぇ」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?最悪ッ!殺すっ!ぶっ殺すっ!!絶対殺すぅ!!」
「いやぁー殺伐殺伐。イクミちゃんには暴力ヒロインの時代を取り戻して貰いたいねぇー」
「マジで意味分かんないんですけどっ!!」
「あぁー……拉致、あかないんで、とりあえず中へどうぞ。
コウタロウさんがコーヒーをいれてるんで」
「へっへっへ、待ってましたぁー!
よーしよしよし、イクミちゃん一緒に行こうねー」
「はぁぁなぁぁぁぁせぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ヒトナリは散々な目に合っているイクミに念仏を唱えながら、メヱコをカフェ・てらすへ案内する。
その間、イクミがどれだけ暴れてもメヱコが彼女を離すことは無かった。
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