第4話 アイル・ビー・ゼア・フォー・ユー

「どう? バレてない」

「うるせえんだよさっきからいちいち! バレるバレないの前に誰が信じるんだよ」

 確かにそれはそう。人と犬の体が入れ替わるなんて聞いたことない。でも問題はそこじゃない。私はずっと守ってきたのだ。但馬タジマミサキというひとりの女の子を。たった三年間、されど三年間。ひと度身を置けばそれは短いようで長い。その三年間をこれといって不自由や困難もなく過ごすために私は但馬ミサキをやってきた。それが今、最大の危機を迎えている。犬が登校した。痛覚の共有を発見した私はあまり聞いたことのないこの諸刃の盾によってバッドネイムの暴走を止めねばならんのだ。

「うまくやってよね それからその言葉使い "俺"ってやめてくれる?」

「はいはい」

「返事は一回!」

「小言も一回にしてくれ」

 後ろで誰かがバッドネイムに声をかけるのが聞こえた。この声は雛ちゃんだ。雛ちゃんは小学校からのダイの大親友でどうぶつタワーバトルがめちゃくちゃうまい。トチるなよバッドネイム。


「大丈夫だった? 雷に打たれたって聞いたけど」

「なんだァ? てめェ……」

 メメタァ! この駄犬やりやがった! そこに痺れるブチ○す!

「え わたし……ミサキが心配で」

「あー? 何泣いてんだよ」

 泣かしたんか! 雛ちゃんを! 私の親友にしてどうぶつタワーバトル界のケンシロウさんを! 

「ごめん でも大丈夫ならよかった じゃあHR始まるからわたし行くね」

 待って雛ちゃん! おいクソ犬! フォローしろやああ!

「ミサキ? さっきからポケットでなんかバウバウいってるけど」

「たまごっち」

「そっか じゃあ」


 雛ちゃんは行ってしまった。もう戻ってこないかもしれない。

「おいクォラくそ犬! いきなりかましてくれたのワレぃ!」

「あんまり絡まれたらこの先面倒だろ 降りかかる火の粉を払ったまで つうかうるせえんだよお前」

「飼い主に向かってお前たあなんだーーーーッ」

「今はお前が飼われてんだよ バッドネイムたん」

 ど畜生だ。やっぱりこいつは私の人生最大の敵だ。戻りたい。戻してよ神様。



「あーらバッドネイム! ダメじゃないミサキのパソコン勝手に触ったら はいおしまい あっち行きな」

 ダメ! お母さん! 電源切らないで! それは、それはあいつになんとか付けさせた命の灯火なの! 犬の手足ではパソコンを点けれない! 犬の手足ではお前を抱きしめられない!


ブゥン……


……

…………

……チキショーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!


【次回予告】愛する家族に通話アプリを遮断されたミサキ。その失意は海よりも深く、また天よりも高く、その存在はファッションセンターしまむらの衣料品より安かった。 新番組! 人造昆虫カブトボーグV×V(ビクトリーバイビクトリー) 全国のボーガー達よ 目覚めの時だ

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