13
「なんで柳葉を殺さなかった」
金子は呆れたようにいった。
「おかげで真田、お前は警察だけじゃなくヤクザからも追われることになったぞ。柳葉は病室からでもヤクザに指示を出せるからな」
「そうだな」
「まあ、でもここなら安全だ。警察もヤクザも立ち入りできない場所だからな。しばらくここでゆっくりしてろ」
「ああ、そうさせてもらうよ」
俺は金子の所属している左翼団体のアジトにいた。左翼団体は歓楽街の一画にある廃墟ビルを実効的に占有しており、俺が匿われていたのは廃墟ビルのなかにあるキャバレーの跡地だった。たしかにここは警察もヤクザも
──この街では警察とヤクザが組織的に癒着しており、街の人々を食いものにしながら互いに利益を貪っていた。そんな街に数年前、異物が侵入してきた。
〈大東亜共産圏極東パルチザン〉
大災厄以降、蔓延していた貧困と絶望が共産主義の炎が再燃させた。それは世界各地に飛び火していき、大きな〝うねり〟となりつつあった。暴力革命も辞さない極左的な思想は年々先鋭化していき、アメリカやヨーロッパではすでに武装蜂起が起きていた。極東パルチザンもその〝うねり〟の一部だ。
新たに侵入した異物に、いままで街を牛耳ってきた警察とヤクザは手出しができないでいた。
「世界各地で続々と蜂起されている革命に、我々極東パルチザンとしてもその潮流に協調し、行動にうつさなければならないとおもう」団体のリーダーが演説をしていた。
「異議なし!」アジトにいるだれかが叫んだ。
「賛同に感謝する」リーダーはつづけた。「我々は不平等の象徴である特区を攻撃対象とさだめ、そのなかに監禁されている少年少女を解放すべく、行動にうつりたいとおもう」
(子どもたちは監禁されてんじゃなく〝保護〟されてるんだ。そんなこともわからない阿呆ばかりなのか? 左翼は)俺は内心、彼らを馬鹿にしていた。
演説はつづく。
「そのためには、新たに加わった同志真田君の協力が不可欠だ」
──なにっ!
フロアの端のソファーに寝転がり、他人事で演説をきいていた俺は飛び起きた。
「ちょっ、待っ──」
「異議なし!」金子が叫んだ。
「同志真田君は特区内で勤務していた経験があり、特区を熟知している。それに反して我々は特区内部については無知だ。彼が我々を導いてくれることを期待している。諸君、同志真田君に拍手!」
パチパチパチパチ──
演説が終わったタイミングで金子をつかまえた。
「金子。なんだよ、これ。こんな話はきいて──」
「真田、俺たちが無償でお前を匿ってるとでもおもってたか? おめでたいヤツだな」
「……」
「俺たちはこの世界の不平等を正す。そのためにはガキどもを外界にひきずり出すしかない。お前の協力が必要なんだ。もしそれがいやだっていうなら別の方法を試さなきゃならなくなる。真田、俺たちは革命家だが、拷問のスペシャリストでもあるんだぜ」
「……わかった。協力する。だがもうひとつ条件がある」
「いいだろう。いってみな」
「ミナの……菊池さんの安否を確認したい。もしまだ生きているなら彼女を安全な場所へ逃がしてほしい」
「……わかった。やっておこう」
「たのむ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます